秘策
「勇者よ、よくぞ魔神を討伐しましたね! また、魔王も討伐扱いになったということで、ついに半分を切りましたね! 残りの魔王はどれも強敵ですが、あなたなら問題ないでしょう!」
「魔神も残り半分ですしね! 次はどの魔王が良さそうでしょうか?」
「えーっと、1番以外は大体横並びの強さなんですよね。近接特化の5番、運要素が強い7番、遠距離特化の8番…… この3つなら戦闘スタイルは違いますが、どれを選んでもいいと思います。 距離でいえば、7か8が近いのですが、テレポートもありますしね。」
「なるほど…… それならひとまず7番目の魔王から始めてみようと思います。ありがとうございます!」
とりあえず7番目の魔王を目標としたが、ひとまず錬金術を試してみることにした。
虹色の冠を頭「勇者よ、よくぞ魔神を討伐しましたね! また、魔王も討伐扱いになったということで、ついに半分を切りましたね! 残りの魔王はどれも強敵ですが、あなたなら問題ないでしょう!」
「魔神も残り半分ですしね! 次はどの魔王が良さそうでしょうか?」
「えーっと、1番以外は大体横並びの強さなんですよね。近接特化の5番、運要素が強い7番、遠距離特化の8番…… この3つなら戦闘スタイルは違いますが、どれを選んでもいいと思います。 距離でいえば、7か8が近いのですが、テレポートもありますしね。」
得意なのは近接戦闘だが、4号が言い残した言葉を考えると、魔神5号はかなり強そうな気配を感じる。
「なるほど…… それならひとまず7番目の魔王から始めてみようと思います。ありがとうございます!」
とりあえず7番目の魔王を目標としたが、ひとまず錬金術を試してみることにした。
虹色の冠を頭に乗せてみると、錬成できるもののリストが目の前に現れた。
リストの最初の方には基本的なポーションの作り方が載っている。
しかし、下の方に行くと素材だけでなく専門的な器具が必要になってくるようだった。
(錬金術用の器具か…… それは考えてなかったな)
購入するにはなかなかの大金が必要になる。
だが、なんとかできそうなアテは思いついた。
「なるほど、それでここに来たってわけか! 君が錬金術に興味を持つなんて嬉しいな! この部屋はいつでも貸すよ。」
予想通りというかそれ以上に簡単に教授は錬金術の設備を貸してくれた。
「それで、何作るんだい? ホムンクルス?カーバンクル?それとも賢者の石?」
どれも難しそうなものを出してきた。
それより、1つ気になったことがある。
「カーバンクルって錬金術で作れるんですか?」
「まぁ、ホムンクルスに比べて錬成難度がかなり高いし、宝石が必要だし、他の素材の品質も結構大事だからかなり難しい。」
「それに、そういえば最近は錬成に誰も成功してないらしいんだよね。いくら難しいと言ってもこれは異常だ。」
やはりこの世界でカーバンクルを仲間にすることは難しいようだった。
「そうだ! ホムンクルスと言えば、管理者を呼び出すなんてどうかな? 味方に出来ればかなり強力だと思うけど。」
急にとんでもないことを言い出した。
「管理者ですか!? でも一体どうやって?」
「ユニークなホムンクルスでも肉体を錬成できれば召喚することができるんだ! 管理者を召喚するのは普通は無理だろうけど、君は最高の触媒を持ってる!」
「魔王の武器とか冠ってことですか?」
「そう、それ! それを使えばできるはずさ! 単に呼び寄せるためのものだから消滅はしない。やってみないか? 既に魔神戦を終えたやつなら石板も残ってないだろうし」
確かに魔神化の危険性がない管理者が味方になれば、かなり強力だろう。
「やってみましょう! まずは何をすればいいですか?」
「基本はホムンクルス作るのと同じ! まずは原物質、ニグレドを用意しよう! 彼らは体のほとんどがニグレドでできているからね! 管理者は大きいから普通よりいっぱい必要そうだよね…… 今ある分だと少し足りないかな? じゃあこのアビスクリスタルからニグレドを抽出してみようか!」
教授は皿の上に黒いクリスタルのようなものを並べて、ルニウムの粉末を振りかけた。
「アビスクリスタルですか。よくわかりませんが、ここからニグレドが抽出できるんですね!」
「理論上この世のありとあらゆる物質からニグレドは抽出できるけど、そうするにはその物質の構造や性質を理解する必要がある。ただ、そのクリスタルはほとんど純粋なニグレドでできているから、抽出はかなり簡単なんだ。」
「なるほど、逆に言うとニグレドさえあれば理論上どんなものでも作れるってことですか?」
「その通り! でも砂粒を一つ一つ接着剤でくっつけて物を作るようなものだからメチャクチャ難しいんだ。大抵はホムンクルスか賢者の石の材料にしかならないね。」
「だが、熟練のホムンクルスの戦士達は違う。体の構造の単純さによる驚異的な再生力の陰に隠れがちだが、高い錬成技術もホムンクルスのすごいところだ。コンマ1秒で体内のニグレドから武器を錬成して獲物を仕留める! 武勇に優れるオークにも恐れられる手腕なんだ!」
確かに武器をいつでもすぐに出せるのは強そうだ。
「おっと、話が逸れたね。早速抽出してみよう! 目の前のものを細かく分解することをイメージするんだ!」
言われた通りに意識を集中させると、徐々にクリスタルが黒い土のような物質に変わっていった。
「うん、いい感じだ! じゃあこれを鍋に入れて、ムーンウィートの小麦粉、マナポーション、シュガーツリーのシロップ、塩、バニラエッセンスを加えて…… マナツリーの薪で起こした火にかける!」
不思議な金の装飾が施された大きめの鍋に教授はどんどん材料を入れていった。
大き目ではあるが、普通サイズのホムンクルスでも入るのが少しきつそうな鍋から本当に管理者は出てくるのだろうか。
「なんだかパンができそうな材料ですね。これをかき混ぜる感じですか?」
「そうそう! でもまずはこの台の上に触媒になる武器と王冠を置いてね。」
置けるのは4号か6号だったが、正直なところどっちを呼び出しても良かった。
どちらも協力的な性格のようだし、武器もサポートが強いところが似ている。
とりあえずで6号の太陽の杖と冠を置いてみることにした。
「それじゃあ後は真心込めて混ぜるだけだ! 」
「真心を込めて混ぜるですか!?」
急に料理のコツみたいなことを言われた。本気なのだろうか。
「そう! ホムンクルスの魂を生成する決め手は心の力、感情エネルギーだ! ここでどんなホムンクルスになってほしいか願いを込めながら作ることで性格、能力、もっと極端な場合特殊な姿になったりする。」
「例えば、ラミア族の妻を失った男の話が分かりやすいかな。彼は妻を失った悲しみのあまり亡き妻の遺品を材料にホムンクルスを錬成した。そうすると、生まれたホムンクルスはその妻と同じように長い蛇の下半身を持った姿になった。そればかりか歌が上手いところも似ていて、好きな歌まで同じだったらしい。」
「確かにそれはすごいですね。それって奥さんが生まれ変わったってことですか?」
「本人に聞いたわけじゃないけど……違うと思う。ホムンクルスは普通の生き物と同じ魂を持たないし、錬成の際に込められた記憶や願いによって、生まれた瞬間からまるでそれまでの過去が存在したように振る舞うことができるからね。ただ彼の想いを汲み取って、そのように振る舞っているんだと思うよ」
なんだか思ったより悲しい話だった。
本当に人を生き返らせようとするならやっぱり賢者の石でもないと無理なのだろうか。
「なんだか難しいですね…… それで、今回の場合どうすれば良さそうでしょうか?」
「えーっと、今回の場合は召喚が目的だから、こっちに来てほしいって強く思えばいいんじゃないかな? 来てくれ~来てくれ~って念じながら混ぜてみよう!」
気を取り直して意識を集中しながら鍋をかき混ぜる。
こちらに手繰り寄せるようなイメージを思い浮かべながら鍋を混ぜていると、突如激しく泡立つ音がした。
「おおすごいね! この非論理的な工程が苦手でホムンクルスを作れない錬金術師も多いのによくやった!」
「よくやったって、これ成功なんですか!?」
「そろそろ離れた方がいい、出てくるぞ!」
言われた通り鍋から離れると、泡立ちが激しくなり、上に跳ねた鍋の中身は黒い液体に変わっていた。
そして、薪の火が消えると一気に床に中身がこぼれてきた。明らかに鍋に入っている量より多い漆黒の液体が一気に床にこぼれていく。
こぼれた液体は一か所に集まって、床に黒い円ができた。
そしてその円からゆっくりと管理者の形をしたものが現れた。
「こんにちは、人類。」
こちらにそう語りかけてきた管理者はニグレドそのままのような漆黒の管理者だった。
そして、体の色と同じように黒い燕尾服のようなものを着ている。
一体何を呼んでしまったのだろうか。