危険なジャングル
ジャングルの中を進んでいるが、色々な方向から何かの鳴き声が聞こえる。
ガイドの人が言った通り、かなり色々な生き物がいるようだ。
頭の上から急に物音がした。
そちらを見ると、鮮やかなエメラルドグリーンの小鳥が飛び立っていくのが見えた。
長い尾羽がキラキラと輝き、美しい軌跡を残す。
(これで狂暴なモンスターがいなければかなりいい観光地な気がするな……)
そう思いながら歩いていると、急に耳元で何がバチバチというスパークのような音が聞こえた。
とっさに逆方向に飛びのくと、さっきいた場所に50cm程の巨大な蜂が飛んできた。
そのハチは体に電気を纏っているようで、常にバチバチとした音を立てている。
顎をカチカチ鳴らしている様を見るに臨戦態勢のようだ。
斬りかかろうとしたところ、ハチの尻に付いている針から小さな針がたくさん飛んできた。
(何!? それで直接刺してくるわけじゃないのか!)
避けられずに針を受けてしまったが、毒が回ってくるような感覚はなかった。
おそらく、事前に取った毒耐性で防げたのだろう。
ハチは結構素早いが、木が多いせいか、動きは単純になっていた。
動きを読んで剣を振ると、反撃として周囲に電撃を放ってくる。
それをとっさにマジックミラーで跳ね返し、再び剣を振るうと、ついにハチは動かなくなった。
(スキルは…… まあ、そうなるか……)
ハチからは放電のスキルを得られるようだ。
自分から電気が出るのはなんだか奇妙だが、とっさの自衛には便利そうなので取っておく。
よく見ると、何故か何もなさそうな地面にスキルが取れる表示が見える。
不思議に思いその辺りを触って見ると、トカゲのようなモンスターの死骸が転がっていた。
ハチの電撃に巻き込まれたようだ。
(なるほど、やはりスキルは擬態か)
これを上手く使えばジャングルを安全に抜けられるかもしれない。
スキルを取得して早速使ってみると、身につけている物も一緒に近くのものと同じような色になった。
(完全とは言えないが、何もないよりはかなりいいだろう)
擬態のスキルを使いながら歩いていると、特にモンスターに襲われることはなかった。
擬態が上手く働いているのだろう。
さらに少し歩くと、開けたところに出た。
そこにはライオンのような大きな肉食動物らしいモンスターが座っていた。
まだこちらに気づいていないようで、上手く行けばやり過ごせそうだ。
木から離れるすぎると下に生えている草が擬態の基準になってしまうため、謎の緑色の人間が立っている奇妙な光景になってしまう。
慎重に木の側をキープしながらゆっくりと歩く。
今のところまだ気づいていないようで、くつろいでいるように見える。
急にまだ視界に入っていないのにライオンが立ち上がった。
そして、こちらの方を向いて警戒しているように見える。
(もしかして、見破られている?)
そう思っていたところ、急に物凄い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
どうやらライオンの咆哮で吹き飛ばされたようだ。
ライオンはかなり長い鬣で顔が覆われていた。
おそらく視覚ではなく最初から嗅覚でこちらを探知していたのだろう。
近づこうとするが、なかなか咆哮が強力で近づけない。
魔法で攻撃しても、あまり効き目がなさそうだった。
(負けはしないが、なかなか時間がかかりそうだな……)
そうして膠着状態に陥っていると、急に風が吹き、ライオンが宙に浮かんでいる。
「勇者くん! 今のうちに!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
気を取り直してライオンを討伐する。
「勇者くん久しぶりー! しばらく見ない間にめちゃくちゃ強くなったんじゃない?」
上空から薄桃色のドレスを着た女性が降りてきた。
背中には薄い羽根が生えているが妖精なのだろうか。
「あれ? アタシのこと覚えてない? 君に森で助けてもらった……」
そこまで聞いてやっと理解した。
「もしかして、アネモ姫? その姿は女王になったということですか?」
以前は蝶ぐらいのサイズだったが、今は俺より少し大きいぐらいになっている。
「実は女王にはならなかったんだ! 君みたいになんか外で人助けしたくって精霊になったの!」
「それは光栄ですけど、女王にならなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫! 妖精って皆自由だからこういうことはよくあるし、姫や王子も一人じゃないんだ。まあ、そのせいで100年くらい王様変わってないけど、まあ、いつか誰かがなってくれると思うよ!」
あまりにも自由すぎるが、まあそういうものとして納得するしかなかった。
「感動の再会タイムは終わったかな?」
また、上空から声が聞こえた。
上を向くと石板を奪った男、ネメシスがワープゲートを背にして宙に浮いていた。
「ネメシス! 何をするつもりだ!」
「ククク…… これを見ればわかるかな?」
ネメシスは光っていない石板と怪しげな宝玉を取り出した。
あの宝玉が魔王と魔神を置き換えるアイテムだろうか。
「これから魔神を召喚する! しかも魔王の間の中でな! 貴様一人で魔神は止められまい!」
ダメもとで魔法を撃ってみるが、やはりすぐに躱されてしまった。
「足搔いても無駄だ。俺は一足先に魔王の間で待っているぞ!」
そう言うと、消えてしまった。
おそらく先回りなどは不可能だろう。
どういう理屈かはわからないが、無理やり魔王の間に入れるらしい。
「勇者くん一人で戦うの? アタシも力を貸すよ!」
「気持ちは嬉しいですが、魔王の間には普通、勇者以外入れないんですよね……」
「そっかぁ、アタシは勇者じゃないから入れないのか。じゃあ外でめっちゃ応援してる! 絶対に負けないでね!」
「ありがとうございます! 必ず勝ちます!」
正直かなり厳しいだろうが、勝たなければ世界が終わる。
必ず勝つしかない。
ライオンから一応、咆哮と威圧のスキルを取得する。
(攻撃技だったら良かったが、今はとにかく取っておこう)
俺は、覚悟を決めて魔王門へ歩みを進めた。