暴風の魔神
強い風が巻き起こり、その中心から魔神が現れた。
上半身は細長い2対の薄羽と細い4本の腕を持ち、昆虫のような印象を持たせる。
一方で下半身は太い蛇のようになっている。
全体的に青いことから考えても4号の魔神形態だろう。
重そうな蛇体を持ちながらも、薄羽を羽ばたかせて宙に浮いている。
「やぁ人類。良く集まったね。早速ルールを説明しよう。」
「これから君たちには2時間以内に僕を討伐してもらいます。失敗時のペナルティーは天候の不安定化です。この戦いで出た被害は僕に勝てば全部元通りになるので、恐れずに挑戦してください。」
「それでは、始め!」
戦いが始まりたくさんの人が動き出した。
「手始めに…… これは耐えられるかな?」
4号が羽を激しく羽ばたかせると、猛烈な熱くて乾いた風が吹いてきた。
「ルビーの守り、ヒートプロテクション! サファイアの加護、ヒールミスト!」
エリーがそう唱えると、人々が赤い光に包まれて、周囲にきらめく霧が立ち込めた。
辺りの草はすべて枯れ果て、触っただけで崩れるようになっているが、人々へのダメージは軽減されており、倒れる人はほとんどいなかった。
「クリスタルの一撃、マジックウェイブ!」
さらにそう唱えて、4号に魔力の波を浴びせる。
「おお、勇者以外にここまでやれる人がいるのか。なかなかやるね!」
4号も驚いているが、俺も驚いている。
何という強力な魔法だろうか。補助も攻撃もこなしている。
「サポートチェンジ、エメラルドの加護、アクセルウィンド! 」
今度はそう唱えると、霧がなくなった代わりに急に体が軽くなった。
素早くなった人々が一斉に攻撃を仕掛ける。
熱風のダメージも軽くなっているため、人の減るペースが以前の魔神戦に比べて格段に少ない。
時折発射される火属性の魔法もヒートプロテクションのおかげであまり痛くない。
「熱風の対策は完璧か…… じゃあこれならどうだろう」
4号がどこからともなく傘を取り出すと、急に雨が降り始めた。
先ほどまで乾ききっていた地面があっという間にぬかるむ。
そして、羽ばたき始めると、正面から大量のウォーターアローが絶え間なく飛んできた。
「ディフェンスチェンジ、サファイアの守り、ウォータープロテクション!」
エリーが今度は水属性の防御魔法を唱えてくれた。
さらにさっきかけたアクセルウィンドのおかげで周囲の人々もスムーズに動けているようだ。
俺は沼歩きを持っているので、先ほどと変わらず攻撃することができている。
「フィーちゃん、行くよ! ライフストリーム!」
掛け声に合わせてフィーちゃんがカバンから飛び出してくる。
そして、角から七色に輝きながら回転するレーザーを発射した。
その一撃で魔神の体力を2割ほど削っていった。
「なるほど、その子が君のお気に入りってことか。君が契約するのも納得の強さだ。君の生命エネルギーの威力を十分に引き出している。」
「ふん、まだ生きてやがったか死の竜の眷属め! とっとと深淵に帰るんだな!」
以前話した時のようにフィーちゃんは管理者たちに敵対的だった。
ようやく直接殴れたという感じだろうか。
「さて、ずいぶん追い詰められたけど、まだこの雨の怖さがわかってなさそうだね……」
「これは避けられるかな?」
4号がそう言って、羽ばたくと、4号に近い方からみるみる地面が凍っていった。
とっさにエリーとフィーちゃんと俺はジャンプして避けることができたが、ぬかるみもあったことで、かなりの人が避けられなかったようだ。
気づけば辺り一帯氷が張っており、6割近くの人々が氷像になっていた。
俺たちもジャンプで避けたものの、氷に足を取られて転んでしまう。
「ここからが本番だ」
4号がハンマーを取り出して氷に叩きつける。
その瞬間全ての氷が砕け散って消滅した。
同時に氷像になった人も全て砕け散ってしまった。
「そ、そんな…… なんてひどい……」
エリーが震える声でそう言った。
俺も2回の魔神戦で惨劇に少し慣れてしまったが、初めてこれだけの命が目の前で失われたらつらいだろう。
「落ち着いて! 今はつらいけど、倒せば全て取り戻せます! 気を強く持って!」
「そうだ! ここでお前が諦めたら全部取り返しがつかなくなる! 今は踏ん張れ!」
「そ、そうですね! まだ、諦めてられない!」
「サポートチェンジ、ルビーの加護、パワーブースト!」
エリーが唱えた途端、体に力がみなぎってきた。
「トランス! アースチェイン、アンバー、トパーズ、フォールブラスター!」
そう唱えると、黄色とオレンジ色の光弾が放たれた。
命中した途端、4号はバランスを崩して地面に落ちてしまった。
「勇者さん! 今です!」
エリーにそう呼びかけられ、俺は最大の力でマジックエッジを4号に叩き込んだ。
「思ったよりあっさり負けちゃったな…… 本当に強くなったね。君はまだ強くなれると思う。5号に負けないくらい強くなってね……」
そう言い残して4号は消えてしまった。
「よかった…… これで終わったんですね…… これで皆帰ってくるんですよね?」
「大丈夫です! ほら、始まりましたよ。」
辺りが輝き出して、倒れた人々が全て蘇った。
荒れた地形もすっかり元の草原に戻った。
「勇者さん、ありがとうございます! あなたがいなければ今頃どうなってたか……」
「いえ、こちらこそ、あなたの魔法がなければかなり厳しい戦いになったでしょう。ありがとうございます!」
「あの…… よかったらこれを…… ピンチの時には守ってくれるはずです。また、魔王討伐頑張ってくださいね!」
そう言って、エリーは小さな赤い石がついた小さなウシ型のオブジェをくれた。
「ありがとうございます! 大切にします!」
戦いを終えた後、次の戦いに備えて宿屋に向かった。