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知識の神

白い空間には、灰色で赤いラインが不規則に入ったキューブの上に腰かけている管理者がいた。

3号に似たローブを着ているが、灰色を基調としている。


(もしかして、寝てる?)

その管理者は少し俯いた状態で目を閉じている。

起こすかどうか少し迷っていたところ、管理者はゆっくりと目を開けてこちらを向いた。

ホムンクルス特有の空洞の眼窩から血のような赤い液体が少しずつ流れている。


「目から血が! 大丈夫ですか?」


「ああ、これは情報処理回路に過度な負荷がかかっているだけです。いつものことです。ご心配なく。」

見た目に反して、ゆっくりと穏やかな声でそう言った。


「情報処理回路ですか……」

過度な負荷というワードから大丈夫な要素が全く感じられない。


「はい、世界はたくさんの情報で溢れていて、さらに増え続けています。それを整理して知恵の書に追記修正を行うのが私の仕事です。あなたにとって身近なもので言うと、アナライズやスキルクリエイターのテキストの追記修正も行っています。」

あれだけの情報を整理しているなら確かに大変そうだ。


「申し遅れました。私は2号、司書です。魔王討伐お疲れ様でした。勇者は継続致しますか?」


「はい、続けます。」


「はい…… おお、ついにここの魔王で半分でしたか…… 本当にお疲れ様です。5体討伐しても特に大きな異常は生じてなさそうで何よりです。」

「私からも特に渡せる道具はありません。使い方を間違えると今の私より酷い有様になるでしょうから…… とはいえ、知恵の書は彼女が持っているから大丈夫でしょう。ソニアはお元気ですか?」


「ソニア? 」

初めて聞いた名前だ。全く誰のことかわからない。


「おや、あなたと共にいると思いましたが…… もしや、名前を聞く機会がなかったのですか?」


「もしかして、女神様!?」


「確かに今やこの地で女神と呼べる存在は彼女しかいませんし、そうでなくてもよくある呼ばれ方なので、特に気にしていなかったのかもしれませんね。」

逆に考えれば確かに女神様だけだと他の女神様と区別がつかない。


「なるほど……おかげで女神様の名前がわかりました。ありがとうございます。」

「そういえば、世界の情報を全てまとめているんですよね? 石板の在り方って知っていたりしますか?」


「検索致します。少々お待ちください。」

そう言った途端、目から流れ出る液体の量が増え始め、体が小刻みに震え始めた。

さらに奇妙な音まで聞こえてきた。


「大丈夫ですか!?」


「この情報はプロテクトがかけられていますね…… 解除にしばらくかかりそうです。」

大丈夫とは言っていないし、声もなんだか辛そうだ。


「ストップストップ!そんな無理しないでください。死んじゃいますよ!」


「お気遣いありがとうございます。我々ホムンクルスは死んでも生き返りますよ。ご心配なく。ただ、解析はこの時間内で終わりそうにないことがわかりました。申し訳ございません。」

検索を止めたようだが、最初と同じように目を閉じて少し俯いている。

結構体力を消耗したように見える。


「いくら生き返ると言っても、苦しいのには変わりないじゃないですか。そんな悲しいこと言わないでくださいよ。」


「悲しい、ですか? 博士にはそんなことを言われたことはありませんでした。……あなたは優しいのですね。」

首をかしげ、少し驚いたような声で2号が答えた。

博士とは別の管理者だろうか。

いや、管理者同士は役職で呼び合うことはない。ということは……


「博士ってあなた方を作った錬金術師ですか?」


「いいえ、生命の樹の若木を10分割して、我々に管理者としての力を与えた人間です。」

思ったのと違ったがそれはそれで凄い。


「その人も上位存在なんですか?」


「いいえ、彼自身は上位存在にはなれませんでした。もうこの世にいません。」


「そうなんですか…… なんかすみません。それにしても生命の樹って凄いんですね。10分割してこれほどの力があるなんて……」


「我々は既にその力の大部分を失っています。最も重要な生命の作成、及び魂の生成能力は既にありません。」

昔はその力で世界を自由に作っていたということだろうか。


2号は細長いルニウムの板を取り出すと、素早く何かを書き記し、そのまま手でその部分を折り取って手渡してきた。

あの厚みは戦士職でも素手で折るのは簡単ではない。

見た目に反してかなりの握力があるようだ。


「これをソニアに渡してください」


「はい、わかりました。」

一体何かはわからないが重要そうだ。

直後にリモレイドが発動した。


「そろそろ時間のようですね。丁度処理も完了しました。ご武運を。」

2号がゆっくりお辞儀をするのが見えた。


光に包まれて移動した先は砂漠の近くの草原だった。

意外と元の場所に近いように見える。


「勇者さん!? 魔王を討伐したんですか?」

声をかけて来たのはエリーだった。

彼女も魔神戦に参加するつもりのようだ。


「はい、ちょうど今倒したところです。」


「すごいです! でも、魔神との連戦なんて大丈夫ですか? 」

確かに彼女疑問はもっともだ。

今まで深く考えてなかったが、リモレイドで移動すると、スキルの効果には特に書かれていないが何故か万全の状態まで回復される。


「まぁ、一応回復してから来てるんで大丈夫です!」

リモレイドの説明が大変そうなので軽くごまかしておく。


「それなら安心です!どんな恐ろしいモンスターが出るかわかりません。全力で頑張りましょう!」

エリーは真剣な顔でそう言った。

その言葉に俺も頷いた。

そして、また奇妙な声が聞こえてきた。


――――――――――――

天地の恵みを恨むもの

地上に災いをもたらすもの

その風は大地を干上がらせ、全てを凍てつかせる。

その神の名は『マルス・ベントス』

生命を枯らす悪しき暴風

――――――――――――

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