砂漠の魔王
「あれ、カーバンクルはこの世界から急にいなくなったと聞いたのですが……」
「そうさ、野良の奴らは全部消えてしまった。」
フィーちゃんと呼ばれるカーバンクルが苦々しい顔で答える。
「野良の奴…… つまり、誰とも契約していないカーバンクルが消えて、あなたのように誰かと契約を結んでいるカーバンクルは残っているということですね。」
「その通り。もっと言うと、契約してる奴らも契約を破棄するとすぐに消滅してしまう。」
「おや、よく見たら君は勇者っぽいな。どおりで戦士っぽい見た目の割にはカーバンクルに詳しいわけだ。……その冠、管理者どもの力を感じるな。」
「管理者達を知っているんですか?」
「そりゃあもう、あいつらの神性が弱すぎるせいで別の上位存在が入って好き勝手されるし、魔神にまでなっちまったんだから! 全く、フィジカルばっかり強くったって、神性が足りないとこういうところで弱いんだよな。」
なんと上位存在のことまで知っている。
「ねぇ、フィーちゃん一体何の話をしているの?」
確かに上位存在や管理者達の話は普通知らないだろう。
エリーがそういうのも納得だ。
「おお、少しおしゃべりがすぎたな。魔王から世界を守ってもらってるんだから、その腕輪ぐらいはタダでやるよ。こいつは宝石のことしかわからないが、なかなか光る所のある奴なんだ。まだこいつを失うわけにはいかん。絶対魔王に勝ってくれよな!」
「ちょっと、フィーちゃんったら…… ええと、あなたが勇者だなんて……すごいです! 魔王討伐頑張って下さいね! 応援してます!」
「はい! ありがとうございます! 頑張ります!」
町を出て少し歩いた場所にある遺跡群に魔王門があった。
門をくぐると、大きな灰色の石のキューブの周りに一回り小さな赤、青、黄、緑の4色の光るキューブが浮いている奇妙な魔王がいた。
(ただの石が王冠をかぶっているのは結構奇妙だな……)
アナライズで確認すると、全てのキューブに別々の特性があることに気づいた。
全てに共通している特性は物理無効。
そして、4色のキューブはそれぞれ自分の属性の弱点属性以外無効の特性を持っており、灰色のキューブは4色のキューブがある限り無敵の特性がついていた。
つまり、4色のキューブを攻略しないと灰色のキューブには攻撃を通せない。
しかし、この4色のキューブが問題だ。
魔法では基本4属性と呼ばれる属性がよく出てくる。
そして、火→地→風→水→火→……と循環するように弱点をつく形になっている。
(これが覚えづらくて魔法職は選ばなかったんだよな…… 物理攻撃なら大まかに斬るか叩くぐらいしかないのに)
属性は魔力に依存しているもので、魔力に親和性が高いものほど属性に強い影響を受ける。
丁度この辺りに住んでいるデザートエルフたちは、元々森だったこの地を捨てられず滅びを受け入れようとしていたが、森に満ちる風や地の魔力ではなく砂漠に満ちる火の魔力に適応できたことで、エルフの亜種として成立している。
通常のエルフたちは大体火属性が弱点になるが、デザートエルフたちは火属性には強く、水属性が弱点に
なっている。
そして、今回戦うキューブは弱点以外無効だ。
ここまで極端な属性相性を持つということは、かなり強烈な属性魔力を持った存在だろう。
(威力がとんでもなく高そうだから、冠は青のままでいいかな)
線を踏み越えた途端、4つのキューブが部屋の中をバラバラに飛び回り、アロー系魔法を放ってきた。
灰色のキューブもゆっくりと動きながら無属性のマジックアローを放っている。
だが、3号のレーザーの雨に比べればかなりよけやすい。
丁度赤いキューブが正面に来てファイアアローを放った。
(えーっと相手は火属性だから…… ここは水だ!)
ウォーターアローを赤いキューブに当てるとチカチカと点滅した。
おそらく効果があったのだろう。
次に青いキューブが見えたので、ウィンドアローを撃ってみるが、割り込んできた黄色いキューブに当たってしまう。
そうすると黄色いキューブは激しく回転し、強力な衝撃波、アースウェイブをこちらに放ってきた。
とっさにマジックミラーを使い別の方向に弾くと、緑のキューブに命中した。
緑のキューブは少し止まって激しく点滅した。
再び動き出したが、先ほどより光が弱くなり、動きが少し遅くなった。
さっきの魔法はかなり強烈なようだ。
敢えて緑のキューブにウォーターアローを撃つと、ウィンドウェイブが飛んでくる。
これを、青いキューブに向けてはじき返すと、また大ダメージを与えたようだ。
同じ要領で全てのキューブにダメージを与えて、自分のアロー魔法でとどめをさすと、灰色のキューブが激しく輝きだした。
灰色のキューブは光り輝くキューブに変わり、複数のライトアローをばら撒くようになっていた。
(もしかして、光属性に変わった?)
改めてアナライズをすると、光属性に変わっており、闇属性しか効かないようになっていた。
早速ダークアローを撃とうとしたが、砂漠の時同様にすぐに霧散してしまった。
(これは…… やっぱり適正属性と逆だからか?)
少し離れたところからやっても変わらないため、キューブのせいではなさそうだった。
そう思っていたところ、急にキューブが黒く輝き出した。
おそらく闇属性に切り替わったのだろう。
他のキューブ同様に跳ね返せばかなりダメージは与えられるだろうが、属性が切り替わるタイミングで跳ね返すのはかなり難しい。
(しばらく魔法をとどめておければ……)
敢えて適当なアロー魔法を撃つと、先ほど同様にダークウェイブが飛んでくる。
そして、これを両手からマジックミラーを展開して、無理やり挟んで包み込んだ。
(なんてパワーだ…… 反射し続けているせいか?)
そして、相手が光属性に変わった瞬間、マジックミラーの玉の中で暴れるダークウェイブを直接叩き込んだ。
その瞬間、キューブは激しく点滅し、闇属性に変わった。
その後しばらくしても、属性が変わらなくなった。
(これは、光属性を撃破したと考えて良さそうかな?)
そうなれば後は得意な光属性を打てばいいだけだ。
太陽の杖も出しながら、ライトアローを撃ち続けると、ついに魔王が動かなくなる。
そして、いつも通りブレイブエッジを使うと、また白い空間に飛ばされていった。