激しい混戦
「人類、聞こえているか? これから制限時間とペナルティを発表する。」
「制限時間は3時間」
「ちょっと短くない? 今回2人だよ?」
遥か上から不安そうな声が聞こえる。
「俺らは6号ほど火力もないし、大したシナジーもない。十分だろう。」
「俺を倒せなかった場合のペナルティーは死体が勝手にアンデッド化することだ。負のエネルギーの量や死体の鮮度に関わらずアンデッド化するようになる。」
こちらは元の能力から予想がつくペナルティーだった。
「僕を倒せなかった場合は、感覚の喪失。全ての感覚を失うよ。」
こちらは思っていたのと結構違った。
戦闘中も同様の技を使ってくるかもしれない。
「それでは開始!」
そう言うと、巨大な光の輪が現れた。始まりの合図だ。
突如、地面がランダムに光り始め、ノリの良い音楽が流れ始めた。
9号が手元の装置を操作しているのが見える。
アンデッドが増えると面倒になりそうなので、こちらを先に攻撃することにした。
そちらに気を取られていると、急に空が真っ暗になった。
見上げると、真っ暗な空に大量の目が浮かんでいる。
さらに注意して見ると、それが3号が広げた巨大な尾羽であることに気づいた。
孔雀の尾羽に大量の目玉が付いている。
それに驚いているうちに大量のアンデッドが湧き出し始めた。
音楽のテンポに呼応しているのか、普段よりかなり足が速い。
アンデッドは水鉄砲の人達がかなり手際よく退治してくれているが、それでもたまに嚙みつかれている人がいた。
そうして嚙みつかれた人は体をせわしなく動かし始めている。
おそらく曲に合わせて強制的に踊らされているのだろう。
そして、体力が尽きた人間がそのままアンデッドになりこちらへ向かってくる。
手早く浄化すると、塵になって消えてしまった。
今回も同士討ちは避けられないようだ。
突然目の前に黒いレーザーが飛んでくる。
3号の方を見ると、無数の目から白と黒のレーザーをばらまいていた。
白いレーザーに当たった人は倒れた後、アンデッドに変わっていた。
黒いレーザーに当たった人は立ち止まったり、うずくまったりしているが、アンデッドになってはいないようだった。
(白が攻撃、黒が何らかの状態異常ということか?)
もしこれが6号だったら死体は残らず、アンデッドは増えなかっただろう。
3号の火力が低いからこそ2体同時召喚を考えたのかもしれない。
一旦、鏡の盾で頭上を守りながら9号を攻撃することにした。
本当は盾を別の方向に構えたいが、そうすると他の人に被害がある可能性を考えるとできなかった。
「さて、次の曲に行くか……」
そう言うと、曲が止まり踊り続けていた人も正気を取り戻したようだ。
何とか一曲踊り切れば、アンデッド化は免れるようだ。
9号が装置の上に円盤を乗せると新しい曲が流れ始めた。
それは踊りきる希望を打ち砕くような先ほどより速いテンポの曲だった。
さらに、ランダムに光る地面からはエネルギーの柱が立ち昇るようになっていた。
「ねぇ、ちょっと! なんか足の裏が痛い! 何が起きてるの!?」
3号の叫び声が聞こえてきた。
おそらくあのエネルギーの柱を浴びているのだろう。
驚いて3号が身じろぎをしたせいで、レーザーの軌道が大きく変わる。
そして、正面から急に黒いレーザーが飛んできた。
当たった途端、めまいがして上手く立てなくなった。
おそらく失ったのは平行感覚なのだろう。
何とか這いずって安全なところで少し待つと何とか立てるようになった。
気を取り直して9号に攻撃しに行くものの、9号自体も足が速くなっていて、少し削るペースが落ちている。
さらに、走り回るアンデッドがかなり厄介だ。
足に鋭い痛みが走る。
レーザーで倒れた人のアンデッドに嚙まれたようだ。
体がいうことを聞かなくなってくる。
しかし、何とか気力で体の動きを多少は制御できる。
(とにかく速く次の曲に移行させないとまずい……)
おそらくダメージ量で別の曲に変わるはずだと予想を立てる。
全体的に奇妙な動きになっているが、速くなった足は少し有利に働いている。
オリハルコン装備は軽いのでまだ何とかなっているが、鉄装備やアダマンタイト装備であれば無事ではすまないだろう。
ドタバタしながらも、着実に攻撃を加えていく。
「よし…… 次が最後の曲だ。」
そう言うと、ようやく体の自由が利くようになった。
その代わりにさらに速いテンポの曲になった。
ここで噛まれると助からないだろう。
既にに水鉄砲でも対処しづらい速さになっている。
ただ、9号の体力は残りわずかだ。
一気に飛び込んでマジックエッジで連続切りを使う。
そして、ついに9号が崩れて動かなくなった。
「ついに解放してくれたか…… ありがとう。3号の方も頼む。」
そう言い残すと、そのまま消えてしまった。
9号が消えた後もアンデッド化した人は元に戻らなかった。
おそらく両方倒さないと復活しないのだろう。
「えーっ! ちょっと! 9号! おいていかないでよ!」
3号の悲痛な声が聞こえる。
体力は4割ほど削れているようだ。
時折尾羽の先端を分離して取り囲み、レーザー攻撃をしている。
しかし、攻撃がレーザーしかないため、盾があればかなり楽だ。
時折動かす足も大した脅威にはならない。
「助けて! 巨人!」
3号がそう叫ぶと、地面から巨人のようなモンスターが現れた。
ただ、3号が大きすぎるため、そこまで大きく見えない。
巨人の攻撃はパンチや岩投げなど物理攻撃が主体だった。
先ほどまでレーザー攻撃が薄かった足元周りも巨人にしっかりと守られている。
巨人を剣で切り付けてみるがとても硬く弾かれてしまう。
この感触は金属だ。
(ハンマーに取り替えたいけど、レーザーが邪魔だな)
この猛攻の中さすがに盾なしでは厳しい。
(レーザーを止めさせる…… 目を閉じさせる…… 光魔法ならできそうだ)
ライトアローが使える通り、俺は光属性の魔法が少し得意なようだった。
まずこの光エネルギーを太陽を出す時のように丸い塊として集中させる。
(そして、一気に爆発させる!)
頭の中で強烈な爆発をイメージする。
そうすると空中に浮かべた光の玉は3号の目の前で炸裂した。
「なにこれ!? 眩しい!」
その声とともにレーザーが止んだ。
その隙を逃さず、巨人の足をハンマーで攻撃する。
すると、破壊こそ出来なかったものの、巨人はバランスを崩して地面に倒れてしまった。
(今全ての攻撃が止んでいる。やるなら今しかない!)
ありったけの力で攻撃を加える。
周囲の人々も防御を捨てた全力攻撃を加えていた。
そしてとうとう3号も崩れていった。
「ああ、なんとか終わったみたいだね…… ありがとう。でも気をつけて…… 奴らは魔王を魔神に置き換えるアイテムを作ったみたいだ…… 使われると大変なことに……」
そこまで言い残すと3号は消えてしまった。
不穏な言葉は残されたが、再び魔神を退けることができた。