悪夢の魔王戦
門をくぐると、いつも通り魔王の姿が見えた。
その姿は真っ黒い巨大な毛玉のようで、どんな攻撃をしてくるか全く分からなかった。
アナライズで確認してみたが、特に特性は持っていないようだった。
逆に方向性が定めづらいし、なんだか不気味だ。
何も情報を得られないまま線を踏み越えると、いつの間にか草原に立っていた。
無機質な石壁ではなく、青い空と緑の芝生に囲まれている。
気づけば身につけている装備もオリハルコン装備ではなく、鉄の装備に変わっていた。
さらに正面には魔王もいない。
あまりのことに驚いていると、何か大きなものが飛び込んできて吹き飛ばされる。
立ち上がりながら上を見ると、そこには風を纏った白い狼が立ちふさがっていた。
「ウィンドウルフ!? 何故こんなところに……」
そう思っていると、強烈な風の刃が襲い掛かってくる。
何とか直撃を免れたが、鉄の鎧ではダメージを防ぎきることはできず、体に重い衝撃が走る。
(この装備で勝てる相手ではない…… 一体どうすれば……)
剣で切り付けてもしなやかな毛皮と肉体に弾かれてしまう。
逆に攻撃を受ければ、体にしびれるような重い衝撃が走り出す。
(今までどうやって戦っていたっけ……)
なんだか全ての認識が曖昧になってきた。
距離感、足元、視覚全てがなんだか不安定だった。
(なんだこれは…… 悪い夢なのか…… そうか! 悪い夢だったら……)
何とかお守りの存在を思い出し、強く念じると、体が光に包まれて、鉄の装備は全てオリハルコン装備に戻ってきた。
さらに、先ほどより全ての感覚がはっきりしている。
ただ、力を使い果たしてしまったのか、お守りは崩れてしまった。
「今の俺ならウィンドウルフにも負けない!」
自己強化をかけて一気に切りかかると、狼は真っ二つになった。
しかし、その体は粘土のようにぐにゃぐにゃになり、別の形になっていく。
気づけば辺りは水中になっており、相手は4番目の魔王と同じヤドカリとカタツムリを合わせたような姿になっていた。
水竜の加護のおかげか息はできているが、水の抵抗でハンマーが上手く振れない。
これではあの硬い殻を突破することは難しいだろう。
(いや、水なんてない! これは幻だ!)
そう強く念じると、水の抵抗はすっかり消え去った。
タネが分かってしまえば恐れることはない。
ハンマーを構えて勢いに任せて走り出す。
本物と戦った時よりはるかに体が軽い。
魔王が鋏を伸ばして来るが、それは跳躍で避ける。
そのまま魔王の頭を超えて、勢いに任せてハンマーを殻に振り下ろす。
物凄い轟音と雄叫びが聞こえ、殻は真っ二つになっていた。
確かにあの時より自分が強くなっているのは確かだが、あまりにも脆い。
再現はできても100%ではないようだ。
そのまま切りつけようと思ったが、また粘土のようにぐにゃぐにゃに変わっていく。
そして今度は魔神との戦いに出てきた炎の狼に姿を変えた。
景色もあの時の焼け野原になっていた。
(大丈夫だ…… 二度目なら絶対に上手くいく!)
この戦いは気力で負けてしまえば終わりだ。
自分を奮い立たせながら剣を構える。
魔王の火炎の息を躱しながら攻撃を加えるが、火の勢いが強すぎて、なかなか決め手になるような攻撃をできていない。
雨を降らせようと傘を取り出した瞬間、魔王が飛び掛かってくる。
(まずいっ……)
咄嗟に傘で飛びつきを防ごうとしたところ、開いた傘から水のバリアが展開され、魔王の炎が弱まった。
そこで前回アナライズした時、この傘の名前が<守りの雨傘>だったことを思い出した。
(なるほど、これなら……)
魔王がひるんだ隙に傘を閉じて、そのまま何度も叩きつけると、傘からは水が迸り、魔王はどんどん弱っていった。
そして、そのまま青白い狼に姿を変えた。
(これは…… 狂わせる光を放つ方か)
魔王はたくさんのレーザーを放ちながら素早く動き回っている。
体に掠ると、少し頭がくらくらしてくる。
(結構厄介だな、近づくのも厳しそうだ)
ただ、近づく以外にもう一つの方法があることを思い出した。
(レーザーと言えばこれを試す価値はありそうだ)
鏡の盾を取り出してレーザーを防ぐと、反射して全然違う方向に飛んで行った。
これを当てれば少しはダメージを与えられるかもしれない。
盾を構えて積極的に前に出ると、魔王は一定の距離を保とうと少し下がりながらレーザーをこちらに集中させた。
そして、そのレーザーを魔王に直撃させた途端、急にありとあらゆるものがぐにゃぐにゃになっていき、気づくと元の石壁に囲まれた魔王の間に戻っていた。
部屋の真ん中では複数の目がついた黒い毛玉が転がっていた。
これが魔王の真の姿だったのだろう。
レーザーを浴びて狂ってしまったのか、起き上がる様子がない。
もう抵抗する力もなさそうだったので、そのままブレイブエッジを入れると、いつもの通り白い空間に飛ばされていた。