新たなる上位存在
突如現れた怪しい男のことは教授も知らないようだった。
「それでは、石板は頂いていく!」
そう言って、石板のケースに近づいてくる。
「そうはさせない!」
怪しい男に切りかかる。
しかし、男は目の前にはいなかった。
首に軽い衝撃を受け、急に体が動かなくなる。
(おかしい…… 麻痺耐性があるはずなのに……)
怪しい男は光の玉を放ち、教授のことも動けなくしたようだった。
「フン、たわいもないな…… 耐性に胡坐をかいたザコめ…… 俺の耐性貫通攻撃をまんまと食らったな」
そう言うと、男はケースの前に立って何か調べているようだった。
「ほう、これが探求者のケースか。しかし、この程度あのお方から頂いた力を使えば……」
そう言って男は黒い剣を具現化し、ケースを破壊してしまった。
そして、石板をインベントリに収納していく。
「ふむ、こちらはすぐ召喚できそうだが、この組み合わせならキープするのもありか……」
「さて、石板は頂いた。俺は、邪竜教団の司祭にして闇の執行者者ネメシス! 偉大なる闇の帝王に力を授かった者! 滅びの時を震えて待つといい! さらばだ!」
そう言うと、空間を切り裂いてどこかへいなくなってしまった。
「教授大丈夫ですか!」
勢い良くホムンクルスが部屋に入ってきた。
状況を確認すると、部屋の隅の箱から何か薬を取り出して俺たち2人に飲ませてくれた。
さらに、それぞれを担ぐとソファーとベッドに寝かせて楽な体制を取らせてくれた。
研究所で働いているせいなのかかなり手際がいい。
しばらくして痺れが取れた後、俺たちは一旦元のテーブルに戻った。
「ホムちゃんありがとう。 助かったよ。それにしても ケースを破壊できるなんて、あいつも上位存在が背後にいるということか?」
「邪竜教団ということは、<邪竜>っていう上位存在がいたりするんですかね?」
そうだとしたらかなりしっくりくる気がする。
「うーんいるにはいるけど、微妙に違う気がするんだよな……」
「何か邪竜について知っているんですか?」
「実は、古代ファンタジア文明について調査していると、管理者達とセットで邪竜に関する記録が残っていることが多いんだ。場合によっては管理者達を従えていることさえある。そう考えると邪竜教団が魔神たちを召喚するまでは自然だが、一方で人類を配下にすることは無く、自分を信仰するのも嫌っている奇妙な存在なんだ。」
「なるほど、それを信じるなら自分の名前がついた教団なんて作らないということですね。逆にそうなると何者が教団を支援しているのかわからないですね……」
「そうだね…… ただ、一つ分かったことは、討伐した魔王に対応する魔神しか召喚できない可能性があるということだ。」
「それは本当ですか!?」
「石版のうち片方が光っていたのは覚えているかな? 実は、それが9番目の魔神に対応する石版で、もう一枚が3番目の魔神に対応するものだったんだ。」
「まだ確証は持てませんが、確かにその可能性がありますね。……逆に魔王を倒したら魔神が出る可能性が高いということですよね……」
「そうだね。しかし、魔王にしろ魔神にしろ倒さないと世界に影響が出るだろうし…… 奪われた分はやるしかないんじゃないかな……」
確かにどちらも避けては通れない。
「うーん、確かに…… わかりました!両方倒しましょう! こうなってしまったらやるしかありません!」
「資料はあるからできるだけ手助けはするよ。3番目の管理者の特徴は何でも見通す目を持っていることだ。そうなると…… 鏡の盾が良さそうかな?」
そう言うと、アーティファクトらしきものがたくさん置かれた棚から文字通り裏に持ち手がついた鏡を持って来た。
「これで何が防げるんですか?」
ぱっと見ではあまり頑丈そうには見えない。
「見た目の通り物理攻撃相手だと全く役に立たないが、邪視やレーザーははじき返すことができる! 目の能力が特徴的な神であれば、魔神になった時も視線に関係ある技を使うはずだ。」
「なるほど! それはかなり良さそうですね! ありがとうございます!」
「そういえば、君は勇者だったな! 魔王のことはよくわからないが…… このお守りがあれば結構有利なんじゃないかな?」
そう言って、エルフの女性が売っていたものと同じお守りを出してきた。
「それ持ってます! でもこれ寝るときに使うんじゃないんですか?」
「まぁ、普通に使う分はそうだけど、それ以外にも魔力を込めると幻覚を打ち払うことができる。どちらにせよ結構有効だと思うよ」
「そういう使い方もあるんですね! 覚えておこうと思います。それじゃあ早速行ってみようと思います」
そう言って魔王討伐に向かっていると、急に女神様が話しかけてきた。
「勇者よ、あなたがアーティの部屋に入った辺りから急に何も見えなくなってしまったのですが…… 何があったのですか?」
どうやら女神様はあの部屋で起きたことを認識できていないようだった。
ひとまず教授が味方であることと、石板を奪われてしまったこと、これから魔王に挑むことを伝えた。
「教団にもそのような力を持つものがいるとは…… これはなかなか厳しいですね…… 上位存在が持つ力は私のような神が持つ力を遥かに上回っており、その影響下では世界への干渉力が弱くなってしまいます。さらに、現在は思念体のため、干渉されると一切何も見えなくなってしまいます。」
「とはいえ、あなただけを戦わせておくわけにはいきません! あなたが魔王と戦っている間。できるだけ魔神への対策は進めていこうと思います。」
そう言って、女神様の声は聞こえなくなった。
早速何かしら頑張ってくれているのだろう。
俺は気を取り直して、再び魔王討伐に向かって歩き出した。