古代の不思議
どこを歩いていても、必ずローブを着た人や立派な杖を持った人を見かける。
流石魔術都市といったところだろう。
ほかの都市とは比べ物にならないくらいの魔道具屋が立ち並んでいる。
「ちょっと、そこのお兄さん! あなた旅人でしょ? 大賢者印の安眠道具見ていかない? 大賢者直伝の製法で一つ一つ丁寧に作っているよ!」
長い耳が特徴的なエルフの女性に話しかけられた。
魔術が得意な種族のせいか、この都市ではかなりエルフを見かける。
ぱっと見同い年ぐらいに見えるが、長命かつ生涯ほとんど姿が変わらない種族のため、3倍以上年上も全然あり得る不思議な種族だ。
「えーっと、安眠道具ですか?」
あって困るものではないが、そこまで必須のものではないような気がする。
実はこの都市の名産品だったりするのだろうか。
「この辺りって魔王門が結構近くて、その影響で酷い悪夢を見やすくなっているの。だからこの辺りに滞在するなら買っておいた方がいいと思うよ!」
魔神戦のことを悪夢として思い出しそうな気がしてきたので、これは買う必要がありそうだった。
商品に目を移すと、枕や香炉などがあるが、どれも結構高い。
その中でもお手頃なお守りを見つけた。
ただ、かなり奇妙な見た目で、むしろ悪い夢に出てきそうな見た目をしている。
「このお守りって何でこういう形なんですか?」
円形のパーツの周囲から放射状に細長いパーツが生えている様は黒い花か太陽のように見えるが、その細長いパーツの先端には一つずつ目玉の模様がついていた。
「これは、悪い夢を食べてくれる神獣を象っているらしいよ! 詳しいことはわからないけど……効果は抜群! 売れ筋商品よ!」
神獣と言われてしまうとこの奇妙な姿も有難く感じる。
「それじゃあ、このお守り1つください。」
「はーい、まいどあり! 枕元に置くか上からぶら下げて使ってね!」
奇妙なお守りを購入し、再び魔導研究所に向かって進んで行くと、立派な門の前に着いた。
ここから魔導研究所の屋根を見ようとすると、首が痛くなりそうなぐらい大きさだ。
中に入って、例の人物について受付の人に聞いてみることにした。
「すみません、ここにアーティさんという方がいると聞いたんですけど、会うことってできますか?」
「アーティ教授ですか? ……すみません、丁度外出中のようです。」
タイミングが悪かった。少し待ってから出直すしかないのだろう。
「おや? 僕に何か用事があるのかい?」
背後から男性の声が聞こえた。
振り向くと、黒縁メガネをかけて、少しよれたローブを着たエルフの男性が立っていた。
おそらく彼がアーティ教授なのだろう。
「はい、実はあなたが最近石板を集めているという噂を聞きまして……」
とここまで話した時、教授がかなりこちらに顔を近づけて何かを見ていることに気づいた。
「ちょっと待って…… 君のつけているサークレット、これはまさか…… 太陽の冠?」
「はい、そうですが……」
何故分かったのだろう。彼もアナライズを使えるのだろうか。
「すごい! これは古代ファンタジア文明研究においてとんでもない大発見だぞ! 是非僕の研究室に来てくれ! 質問ならいくらでも答える! 逆にいっぱい質問させてくれ!」
そう言うと、施設内をずんずん歩いて、かなり興奮気味にこちらを研究室に招き入れてくれた。
研究室の中はたくさんの本棚が並んでいて、机にはよくわからない資料が山積みになっていた。
教授は資料を別の棚にどかして、来客用の用意してくれた。
「さて、君は太陽の冠を持っているようだが、どこで手に入れた? 古代ファンタジア文明についてどこまで知っている?」
質問が多いが、とりあえず答えるしかなさそうだ。
「古代ファンタジア文明については、今初めて聞きました。」
「太陽の冠については…… 魔王を倒したとき管理者と名乗る謎の存在から貰いました。」
女神様が言うには魔神たちは偽の歴史を持ちながらこの世界に現れるらしい。
その文明も偽のものではないだろうか。
「うーむ、管理者か…… それは黄色い体のホムンクルスだったりする?」
色は合っている。
ただ、冠の色と同じだと考えると単なる偶然か。
「ホムンクルスですか……」
ホムンクルスは身長60cmくらいの魔法生物だ。
だが、6号は俺より身長が高かった。
「彼らの身長は2mはありそうでしたし、どうだろう…… でも確かに言われてみれば顔はかなりそれっぽいかも……」
一方で確かに、球状の頭部、縦長の細い目などはホムンクルスそのものだった。
それに、人造生物であるホムンクルスならなんとなく何号という無機質な名前をつけられているのも納得が行く。
「つまり、めちゃくちゃでかいホムンクルスがいたってことか! 変異種も数あれどそこまで巨体のものはとんでもなく珍しいぞ!」
「それで、彼らというからには他のホムンクルスにも会ったんだろう? 最近倒された魔王から考えると、青と紫かな? もしかして彼らからも冠をもらってたりする?」
流石は専門家。完全に魔王と色の対応関係を把握しているようだった。
「青い冠は貰いましたが、紫の方は貰えませんでした。」
「なるほど、流石は死の番人。頑固で魂のサイクルを何より重んじるという記述が正しければ、死者の眠りを不必要に妨げられることを嫌ったのが理由かな?」
なんとなく合っている。
これも何か石版などに書かれているのだろうか。
「うむ、なんとなく分かってきたぞ。ありがとう。それで…… 石版について聞きたいんだったかな? それならこっちの部屋にあるよ。」
そう言うとさらに、奥の部屋に案内された。
その部屋には、奇妙な道具やオブジェのようなものが色々置かれていた。
その中にケース内には2枚の石板が置かれていた。
そのうち1枚は淡く光っている。
「これが多分君の言っていた石版だよね? 僕もつい最近見つけたばかりで、内容はまだ解読できていないんだ。君は何か知っているのかい?」
「実はその石板があると、管理者を魔神として召喚できてしまうんです。それに、魔神は時間内に倒せないと世界が滅ぶ可能性がある危険な存在で、それを狙う悪い奴らがいるんです。」
「魔神…… 丁度その時遺跡の調査をしてたけど、急に2回空が暗くなったんだよな。つまり、6番目の魔神が召喚されたということで合ってるかな?」
「うーむ、彼らは二面性のある神だったということか…… 君が教えてくれなかったら呼んでたかもしれないな。ありがとう。」
確かに教授の話だと、彼らは悪い神でもなさそうだった。
そう思っているなら召喚しても不思議ではない。
「それで石版を奴らより先に回収しようとしたということか。そういうことなら大丈夫!このケースは上位存在<探求者>から貰った特別性さ! 誰が来ても盗むことはできない! 」
「えっ、魔神たち以外の上位存在に会ったんですか?」
「君も上位存在は知ってるのか! そうだよ! 人の探求心や閃きなどの精神的エネルギーを摂取するのが好きな存在で、たまたまアーティファクト越しに目が合った僕を手駒に選んでくれたというわけさ!」
「それで、君の言う管理者たちの資料を色々な世界から探して色々調べていたんだ。でも魔神になっているのを見たのは今回が初めてだったんだ。」
どうやら教授は上位存在の力を借りて様々な世界の遺跡を探索したり、探索に役立つ道具をいくらか貰っているようだった。
「なるほど、それならここに置いていても大丈夫そうですね!」
「果たしてそれはどうかな?」
背後から謎の声が聞こえてきた。
振り返ると、空間に黒い穴のようなものが開いており、そこから黒い鎧とマントを身につけた人間が立っていた。