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初めての魔神戦

移動した先はいくらかいくらか木が生えた平原だった。

周囲にはたくさんの冒険者や兵士たちが集まっている。

わりと町に近い場所だったのだろうか。


その中心に石板を持ったローブの人物がいる。

間違いなく邪竜教団の一員だろう。


辺りが暗くなり、急に頭の中に奇妙な声が聞こえてきた。


――――――――――――

太陽を羨み、月を妬んだもの

その全てを喰らい自在に操るもの

その光は全てを焼き、全てを狂わせる

その神の名は『エクリプシス・ソリス』

この地に影を落とす旧き太陽

――――――――――――


その声が止んだとたん、影がある一点に収束し、そこから何か巨大なものが現れた。

同時に石板が砕け散り、ローブの人物も煙になって消えてしまった。


「はいは~い! 挑戦者ちゃん達~ アタシが来たわよ~!」

この声、この喋り方聞き覚えがある。


その巨大な怪物は黄色い体にオレンジ色の縞模様が入ったタコのようだった。

胴体には数か所牙の生えた口のようなものが並んでいる。

だが、特徴的な頭部と冠、片手に持った太陽の杖はその正体が6号であることを確信させるものだった。


(なんてこった、魔神の正体は管理者達だったのか……)


「これから制限時間とペナルティを言うわよ! ちゃ~んと聞きなさいよ!」

「制限時間は4時間。時間内にアタシを倒せなかったら…… 昼と夜の長さがめちゃめちゃになるわよ!」

思ったよりよくわからないペナルティが来た。

ただ、世界中に影響が出るその力は恐ろしい。


「あともう一つ、アタシに勝てばこの戦いで出た被害は全部なかったことになる。出し惜しみはしない方がいいわよ。」

勝ちさえすれば全て何とかなる。少し気持ちが楽になった。


「それじゃあ覚悟はいいかしら? みんな全力でかかってきなさい!」

そう言うと、冠が弾けて巨大な光の輪になった。これが始まりの合図なのだろう。


周囲の人が一斉に魔神に挑み始める。

その流れに乗って俺も魔神に突撃することにした。

何人か魔神のもとに到達した人がいるが、攻撃してもすぐに再生するし、8本の足ですぐに払いのけられている。

到達する前に杖からのレーザーで焼かれている人もちらほらいた。


「それじゃ、第一フェーズ行くわよ~」

魔神がそう言ったとたん、空が真っ暗になった。

そして、光の玉が魔神の胴体の口に吸い込まれていく。


光の玉が入った瞬間、魔神の体の黄色い場所が突然眩しく輝きだし、黄色を基調としたカラーに変わった。

その状態で足を縮めて一気に伸ばすと、こちらに物凄い熱波が襲い掛かってきた。


気づけば辺り一帯焼け野原になっていた。

体に火がついて逃げまどっている人もいる。


(だいぶ恐ろしい状態だが、これが使えるか?)

4号から貰った傘を取り出す。

アナライズで効果を確認して、魔力を込める。


途端に雨雲が集まりだし、雨が降り始めた。

どうやらヒールの効果もあるらしく、体が焦げていた人々もだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。


「あら? 4号の傘かしら。なかなかやるじゃない!」

そう言いながらも魔神はレーザーで人を焼き、また全身の口から火を吹いて人々を焼いている。

如何にこの雨にヒールの効果があると言っても攻撃が直撃した人は、容赦なく消し炭になっていた。

なんと恐ろしい力なのだろう。


何度か攻撃を避けて足を切りつけていると、魔神から光の玉が出て行って、体の色が元に戻った。

また、空も明るくなって、再び太陽が見えるようになった。


「あら、もう終わっちゃったのね~」

先ほどまで放たれていた熱波は出なくなっていた。

ここがチャンスとばかりに攻撃を叩き込む。

ただ、軽く周囲を見回すと最初にいた人々はほとんどいなくなっていた。

代わりにどこかからまた兵士たちが派遣されて来たようだが、全体的には人数が減っていた。


「ちょっとちょっと、皆諦めてな~い? 後ろのリングを見て! ちゃんと削れてるでしょ? まだ30分も経ってないんだから諦めるのはまだ早いわよ!」

確かに冠が変化した光の輪は3割ほどが欠けていた。

であれば後7割のダメージを与えれば討伐できるのだろう。


(被害がヤバすぎる…… 今のうちに削っておかないと……)

足とレーザーに気を付けながら攻撃を加えている。

ただ、どれだけ削れているかを見る余裕はない。

その間にも次々に人が消し炭やミンチになっていく。


「さて、そろそろ第二フェーズに行こうかしら」

そう言うとまた光の玉を吸い込んだ。

しかし、今度は体のが青白く輝きだした。


先ほどと同様に青白い波動を放ってきたが、別に熱くも何ともない。

しかし、なんだか急に頭が痛くなってきた。


(体は何ともないけど凄くクラクラする……)

何の能力か気になり周囲の様子を見ると、地獄のような光景が広がっていた。


何かわめきながら走り回る人、泣きながらしゃがみ込んで動けなくなっている人、無抵抗な人をひたすらに殴る人など、正気を失った人々が溢れかえっていた。


(そういえば、全てを狂わせるって言ってた気がするな……)

最初に聞こえた奇妙な声のことを思い出す。

あれは魔神戦の重要なヒントだったのだろう。


ただ、この状況の中でも攻撃を続けている人もいくらかいた。

かなりレベルの高い人たちだろう。


(とにかくこのフェーズか戦いそのものを早く終わらせないとまずい……)

ただ、焦って攻撃しようとしても正気を失った人に妨害されたりして、なかなか上手くいかない。

特に仕方なく反撃したせいで人がレーザーに焼かれている姿を見ると、とても生きた心地がしない。


心を鬼にして人を振り払いながら必死に攻撃し続けると、また魔神の体の色が元に戻った。

同時に混乱していた人々も正気を取り戻し始めた。


「あらあら、何とか乗り越えたみたいね。それじゃあ、これが最後よ!」

気づけば残り4割まで削っていた。ここを乗り越えれば終わりなのは確かだろう。


魔神は正面側の足を2つ切り落とした。

その足が地面に落ちると、途端に2体の巨大な狼に姿を変えた。

片方は激しい炎を放ち、片方は青白い光を放っている。


(ここで敵が増えるのか……)

ただ、幸か不幸か狼はこちらを狙っていなかった。


(魔神さえ倒せばすべて終わるはず。ここで仕掛ける!)

狼の注意が向いていないうちに直接魔神に攻撃する。


「あら、勇者ちゃんじゃない! こうしてみると本当に逞しくなったわね」

そう言いながらも足とレーザーの攻撃は一切止んでいない。

そのせいで返答する余裕もない。


狼さえいなければ、足の攻撃とレーザーしかない。

(とはいえ、掠るだけでこの威力か……)

太陽の冠の自己再生で何とか生きているが、これがなかったら今頃何度も死んでいるだろう。


ただ、この戦いにも終わりが見えてきた。

切り落とした足の再生が止まった。


「あら、遂にこの時がきたのね。よく頑張ったわ。さぁ、終わりにしましょう。」

魔神は遂に攻撃を止めて、とどめを刺されるのを待っているようだった。


意を決してロングエッジで袈裟切りにすると、魔神の体はゆっくりと崩壊していった。


「魔神が廃止になった理由がなんとなく分かったでしょ? アタシたちは毎回戦うからどんどん慣れてきちゃうし、人数によって討伐の安定度も変わっちゃう」

「それじゃあ、体に気をつけて頑張ってね! いつかまた会える日があったら…… その時はレモンケーキを焼いておくわ……」


そう言い残すと魔神は消えてしまった。

どうにか1体の魔神から世界を守ることができたのだった。


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