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死霊の魔王との戦い

ラインを踏み越えたとたん、人間の叫び声のようなものが聞こえた。

どうやら魔王が発した咆哮のようだった。


(どう見ても首も頭も骨なのに…… どこから声が出てるんだろう……)

割とどうでもいいことを考えていたが、これがただの威嚇行為でないことがすぐに分かった。


急に地面からスケルトンやゾンビが生えてき出した。

ただ生えてくる最中はかなり隙があるため、起き上がる前に全て聖水鉄砲で無力化する。

ついでに魔王にも聖水鉄砲を食らわせてみる。


聖水が当たると魔王は少し悲鳴を上げてひるんだ。

やはりアンデッドらしく聖水が有効なようだ。


しかし、聖水鉄砲の一撃に起こったのか魔王が激しい地団駄をし始める。

そして、飛び上がった時には足に長い紫の杖のようなものが握られていた。


そして、両足と嘴を使って床にその杖器用に差し込んでひねると、ガチャリという音がした。


(杖が床に沈み込んだ? それに、この音はなんだ?)

そう考えているうちに、杖が刺さった箇所を中心に魔法陣が展開されて、その中心が急に開いた。

その開いた箇所からとんでもない量のゾンビやスケルトンが湧き出てきた。

今回の魔王の武器は杖ではなく地獄の門の鍵だったようだ。


(このまま行くと、圧死か窒息死だ。早く魔王を倒さないと……)

片手で聖水鉄砲、片手で浄化を行ってもまだまだアンデッドたちが押し寄せてくる。

魔王はどこへ行ったのかと探していると、急に後頭部に衝撃が走る。


振り返るとアンデッドたちの頭の上に魔王が立っていた。

どうやら先ほどダメージは魔王につつかれたもののようだった。

笑い声のような鳴き声を出しながら魔王は軽快にアンデッドたちの頭の上を走り去っていった。


(なんてこった…… 見た目通り足が速いな)

これだけの量がいるなら先に太陽の杖を使うべきだったと後悔したが、今はこの状況を何とかするしかない。


(それなら、こっちも上に上がろう)

周囲のアンデッドを手早く片付けて、跳躍する。

何とかアンデッドたちの波に乗れたが、アンデッドたちは無秩序に動き回っているため、足元がぐらつく。


その隙を狙ってか魔王が勢い良くこちらに突っ込んできた。

何とか踏ん張りを効かせて聖水鉄砲を放つと、魔王が大きくよろめいた。

これはダメージが大きかったというより、手振れのせいで下に飛んで行った聖水が魔王の足元のアンデッドを消滅させたせいのようだった。


(これは先に足場を崩すのが良さそうだな)

逃げた魔王の足元のアンデッドに聖水をかけようとするが、なかなか素早くうまくいかない。

ただ、魔王は素早くはあるが、直線的な動きしかできないことが分かった。


(そうと分かればやることは一つ)

魔王が進むであろう先のアンデッドを崩してみる。

そうすると、魔王は急に減速し、曲がろうとしだした。

そうしてほぼ止まった状態の魔王の足元のアンデッドを崩すと遂に魔王が床に落ちた。


下に落ちた魔王は無限に湧いてくるアンデッドにもみくちゃにされて動けないようだった。

しかし、勇者以外の攻撃では討伐できないのでこのまま倒れてくれるわけではない。


(そういうわけで、これを使う)

バランスを取るのに慣れてきたところで太陽の杖を掲げて光の玉を呼び出す。

その瞬間、全てのアンデッドが全て塵になって消えていった。

その下から出てきた魔王も光の影響かほとんど動かなくなっていた。


直後、急に太陽の杖の先端から揺らめく青い刃が現れた。

(まさかこれでブレイブエッジをやれということか?)


戸惑いながらも杖を振るってブレイブエッジを魔王に叩き込むと、また気づけば真っ白な空間にいた。

目の前には床に座りながら一心不乱に謎の装置をいじり続けている管理者がいた。

つば付きの帽子を被り、上は簡素な白シャツを着ているが、下には頑丈そうな作業ズボンを履いている。これまでの管理者同様に全体的紫色で統一された格好だ。


その人物、恐らく9号はこちらがいることに気づいていないのか作業を続けている。

そして、片手で細い缶をつかむと、中の液体を一気に飲み干して、乱雑に横に置いた。

横に大量に置かれた缶にぶつかってカラカラと音をたてる。


「ん、どうも…… 俺は9号、調整屋……」

ちらりとこちらを見ながら挨拶をした後、また視線は装置の方へ向かった。

その間も一切作業の手は止まっていない。


(なんて無口なんだろう…… めちゃくちゃ気まずい……)

少しの間、9号がいじる装置の音だけが辺りに響いていた。


「決まりだから聞くが、まだ勇者を続けるか?」


「はい、続けます。」

無口ではあるが、必要なやり取りはやってくれるらしい。


「あと、悪いが冥界の鍵も冠も渡せない。あれは人間が扱っていいものでなはい。死霊を操れるようになってもろくなことが起きない。肉体を失った魂はむやみに起こすべきではない。」

先ほどと打って変わって、かなりの喋っている気がする。

装備が増えないのは残念だが、9号の言い分はなんとなく分かる気がする。


ひとしきり話した後またすっかり黙ってしまった。

4号に聞きそびれた質問をしようか少し迷う。

(話しかけたら作業の邪魔だと怒るだろうか……)

ただ、4号の誰でも教えてくれるという言葉を信じて質問してみる。


「あのー、一つ質問いいですか?」


「どうぞ。」

相変わらず視線は装置に向いている。

かなり素っ気ない返答ではあったが、怒っている様子でもなかったので質問をする。


「あなたたちは魔王の装備を俺に渡すことができるみたいですが、魔王とはどういう関係なんですか?」


「俺らが魔王を作っているからだ。無論魔王たちに与えている装備もアンタに与えている装備も俺らの道具のレプリカに過ぎない。その太陽の杖だって名前は単なるフレーバーに過ぎない。本来の姿は6号の絵筆や彫刻刀などを兼ね備えた芸術家のマルチツールだ。」

とんでもない話がいっぱい出てきた。


「何故魔王なんて危ない奴を作っているんですか?」

これが一番気になる。もしかして彼らは敵なのか。


「魔王は確かに災厄をばら撒く。ただ、負のエネルギーの浄化効率はかなりいい。」


「負のエネルギー?」


「この世の生き物、特に人類は絶望や苦痛を感じて負のエネルギーを生み出し続けている。これが溜まると最悪世界は腐りだす。これを効率よく浄化する必要があった。」

「薄く広く散らばっているせいで普通に浄化するには時間がかかりすぎる。それで、地脈を通してエネルギーを集約し、一気に浄化する必要があった。」

どうやら悪意があって魔王を作っているわけではないようだ。


「それが勇者と魔王ってことですか?」


「そうだ、今はな。」


「今は?」


「……よし、できた。テレポート許可証の発行が完了した。これでアンタは一度行った町に瞬間移動できる。」

今まで行っていた作業が完了したようだ。どうやらスキルを追加してくれていたらしい。

直後、目の前に<レイド開催予告>のウィンドウが表示された。


「結構ギリギリだったな。早いとこそっちに行ったほうがいい。丁度魔王の代わりに使われてた古い奴がやってきたな。テレポートの使い方は最悪女神に聞けばわかるはずだ。」

どうやら以前は魔王ではなく魔神を使っていたということらしい。


「ありがとうございます。行ってきます。」

ウィンドウの承認ボタンを触ると、体が光に包まれる。


「はい、ご武運を。」

相変わらず返事は素っ気ないが、こちらに軽く手を振っているのが見えた。


全てが真っ白になっていく中、これから始まる魔神戦に向けて覚悟を決めた。

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