夢再び
気がつくと俺は真っ白な空間に座っていた。
「何だここは…… もしかしてこれが天国?」
しかし、辺りを見回しても無限に何もない空間が広がっているだけだった。
(天国というにはあまりに寂しすぎる。)
辺りの景色を見て一つ思い出したことがある。
(そういえば善人でも悪人でもない魂は、何もない世界で転生の順番待ちをするという話を見たことがあったな)
ただ、思い出したところでもう一つ気づいてしまった。
(そうだとしたら、何もない所で待ち続けないといけないのか?)
「なんてこった…… これからどれだけ待てばいいんだ?」
俺は今後どうすればよいのか不安になり、俯いた。その時――
「ウィルよ……私の姿が見えていますか?」
顔を上げると目の前に白いロングドレスを着た光り輝く女性が立っていた。
(あまりに人に会えたことが嬉しすぎて輝いて見えたのか?)
そう考えたがよく見直すと、背後に光の輪が浮いていることが分かった。
(輝く光の輪ということは、只者ではないな……)
「見えています。もしかして……あなたは女神様ですか? 」
恐る恐る聞いてみる。そうすると女性は頷いて、深刻そうな表情で話し始めた。
「はい、私はあなたが元居た世界とは別の世界から来た女神です。あなたにお願いしたいことがあり、この空間に魂を召喚させて頂きました。いきなり知らない空間に連れてきてしまってごめんなさい。」
(『お願いしたいこと』だと……? 何で俺に? とはいえ神の頼みを断ったらどうなるかわからないぞ……)
俺は意外な言葉に戸惑ったが、気を取り直して質問することにした。
「いえいえ、そんなに謝らないで下さい。ひとまずその『お願いしたいこと』について内容を教えて頂けますか? 俺に期待通りの働きができるか分かりませんが……」
その言葉を聞いたからか、女神様の表情は少し柔らかくなったように見える。
「ありがとうございます。単刀直入に言ってしまうと、あなたには私のいる世界に転生し、勇者となって魔王を討伐して頂きたいのです。別世界と言っても、あなたのいる世界の平行世界ですので、前世の経験はほぼそのまま転生後の世界でも通じると思います。」
「えっ…… 今、勇者になって欲しいと言いましたか!? 引き受けたい気持ちはありますが、俺の実力ではとても引き受けられそうもありません」
いくら気持ちだけあっても、実力がなければ役目を果たせないだろう。
「その点については、私の祝福で強化された肉体、特別なスキル、そして勇者のジョブを転生後に与えます。それらの力と……後は諦めない心があれば魔王を討伐できると思います。 ……とはいえ私には強制する権利はありません。引き受けて頂けなければ、あなたを通常通りに魂を初期化し、この世界に転生させます。」
たしかに、転生先で色々ボーナスを貰えるなら話が変わってくるかもしれない。しかし、こんなに色々な力を授かるのは卑怯だという気持ちも湧き上がる。
(とはいえ、世界を救うためなら卑怯なんて言ってられないな…… 前の俺は力がなかったから人々を救う夢を叶えられなかった。 でも、転生して強くなったのなら……)
「決めました。俺を勇者として、転生させて下さい。今度こそ困っている人々の力になりたいです」
「!…… 分かりました。ありがとうございます! それではこれからあなたを転生させます。 また、あちらの世界で会いましょう。 本当にありがとうございます。」
女神様はそう言うと一瞬にして姿を消した。と同時に周囲の空気か震え始めた。
自分で決めたとはいえ、なかなか凄いことに首を突っ込んでしまった。今更ながら冷や汗が止まらない。
とはいえ、もう縮こまっていても仕方がない。目を閉じて深呼吸して心を落ち着けようとしていると、辺りが輝きだし、意識が遠のいていった。