恐るべき力
シーサーペントが再び水のブレスを放つが、今度のブレスはより小さな水のレーザーに拡散してこちらに向かってきた。
あまりの数の多さに防ぎきることはできなかったが、威力は致命的なものではなかった。
(ブレスは割と対処しやすいけど、攻撃をする隙がないな……)
相手の体が大きく、攻撃を当てやすそうではあるが、如何せん海から半身を出している状態なので、下手に突っ込めば海に落ちるだろう。
ただ、時折伸ばしてくる腕への攻撃やロングエッジでの胴への攻撃はそれなりに効果的に見えるものの、すぐに再生してしまい、倒しきるには威力が足りない。
(ずっと攻撃していればいつかは再生しなくなるか? それとも無限に再生するのか…… そういう時はアナライズだ)
アナライズを使用して攻撃を躱しながら記述を読んでみると、頭部のコアを破壊すれば倒せるということが分かった。
(コア? そんなものどうやって見つければ……)
そう思いかけていたが、体の透けている部分から頭部の中に光る石のようなものが見えた。
頭部の中心辺りにあるため、頭に乗ってロングエッジを使えばギリギリ届くかもしれない。
ただ、跳躍を使ってもうまくいく保証はない。
あれこれと考えていたが、今の勝ち筋は跳躍からのロングエッジしかないと確信し、覚悟を決める。
そして、ブレス攻撃の直後、素早く跳躍を行った。
少し下に竜の頭が見える。ブレスも間に合わない。
ギリギリ頭に乗り、剣を構えたが、シーサーペントが勢い良く体を揺らす。
何とかつかまろうとするが、水で濡れた体表のせいで踏ん張りが効かず、宙に投げ出される。
かなりの衝撃は受けたが、海に落ちず地面に落下することはできた。
(頭には乗れた。ただ、その後ロングエッジを使うのはかなり厳しそうだ……)
本当は無理だと割り切りたいほどだったが、そう思ってしまえばこの町は終わりだろう。
重い体を何とか動かしてまた次のチャンスを伺っていると、不意にシーサーペントが別の方向に向かって唸り声を上げ始めた。
一瞬チャンスかと思ったが、シーサーペントが威嚇するほどの恐ろしい存在が現れた可能性にたどり着き、一度そちらを確認することにした。
威嚇されていたのは、一人の人間だった。
軽めの白銀の鎧を身につけた中年の男性がそこに立っていた。
首元からは地面につきそうなほど長い幅広のスカーフが伸びている。
鎧とは対照的な漆黒の斧を持ち、シーサーペントの方に歩いて行く。
その両者の気迫に押されて、辺りは時が止まったように静まり返っていた。
沈黙を破るように、シーサーペントは男性に向かってブレスを放つ。
しかし、男性はじっと構えたまま動かない。
もうブレスが当たると思ったその瞬間、男性はくるりと体を回転させた。
そうすると長いスカーフが翻り、なんとブレスを捕らえてしまった。
次に先ほどと逆にスカーフを片手で振り、そのままシーサーペントの顔面にブレスをたたき返した。
流石にダメージは与えていないようだったが、シーサーペントは何が起こったか分からず、ただひるんでいるようだった。
あっけに取られていると、ミシミシという音が聞こえて、男性の姿が消えた。
また何が起こったか分からないでいると、不意に空の一点が星のように輝き、その輝きが一気に強くなった。
その星がまばたきをする間にシーサーペントの頭に落ち、光の柱が立ち上りその体を完全に真っ二つにしてしまった。
シーサーペントは青い光の粒になって消え去り、その場には大きな鱗が1枚だけ残されていた。
輝きが収まると、シーサーペントの頭から男性がバックジャンプして地面の方に降りてきた。
また、着地寸前にスカーフで小さな風を起こしてふわりと俺の隣りに着地した。
「遅れてしまって済まない。君がこの竜を食い止めてくれたおかげで、被害はかなり小さかったようだ。ありがとう。」
「いえ、それほどでも…… それにあなたがいなければこの竜は倒せませんでした。ほとんど歯が立ちませんでしたから」
俺がそう答えると、男性は竜の鱗を手渡してきた。
「これは君が持っておくといい。私より活用できるだろう」
断ろうと思ったが、そう言い出せない雰囲気を感じ、礼を言って受け取った。
「また竜が現れたようだ。私はもう行かなくては……」
男性は足早に去ろうとしていた。
「すみません! せめて名前だけでも教えていただけませんか?」
「私はカルロ、人々には<流星>と呼ばれている。では、また会おう」
そう言い残すと、カルロはどこかへ立ち去ってしまった。
周りの人に聞いてみると、彼がSSSランクの冒険者で、竜の討伐を専門としていることが分かった。
と同時に前世ではたわごとでしかなかったSSSランクが冒険者の最高ランクであることも知った。
荒れた市場の修復を手伝おうとしたが、逆に休んでいるように言われたり、ポーションや食料など色々お土産を貰ってしまった。
その中でも、刺身包丁屋の店主が刺身包丁でシーサーペントと戦っていたことに感動し、40万の刺身包丁を譲られてしまったのには驚いた。
シーサーペントとの戦いは恐ろしいものだったが、それよりも最高ランクの冒険者のとてつもない強さを目の当たりにして興奮が収まらなかった。
いつかあの領域にたどり着くことができるのか。いや、たどり着かないと勝てない魔王もいるかもしれない。
ひとまず、明日スキルを見直して魔王に挑もうと考え、今日は休むこととした。