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湿地帯を抜けて

たかが雨、たかが泥と思い歩き続けていたが、未だエストポルトは見えてこない。

激しい雨はすぐに止みはするが、何度も降ってくるし、雨が止んだと思えば辺りが霧に包まれるので、視界も体力も奪われていく。

そこかしこにある泥沼も、想像していたより柔らかく重く、体力を奪ってくる。

一応、振り返っても元居た町が見えなくなる程度には進んでいるが、前世でも道中に目立つ建物やオブジェのようなものは一切立っていなかったことを考えると、この先もずっと同じ景色が続くのだろう。


(雨ぐらい何とかなるだろうと思っていたけど、結構きついな…… 体も冷えて来たし何とかしないと……)

どうしようか考え始めたところで、魔王が持っていた杖と冠を貰ったことを思い出した。

水不足になるほどの日照りを引き起こす魔王の持っていた装備なら雨に対抗できるかもしれない。


とりあえず杖を取り出して、アナライズしてみる。どうやらこの杖は<太陽の杖>というらしく、太陽の力をもたらし、癒しと活力を与えるらしい。

ヒールを使う時の要領で魔力を込めると、杖から暖かい光が広がり、体の疲れが取れ、急に力がみなぎってきた。

一方で、急に頭がぐらついたような感覚を覚えた。恐らく魔力を急に使いすぎた反動だろう。

(回復と肉体強化ができるのは強力だけど、あともう一回ぐらいしか使えなさそうだな……)


一応冠の方もアナライズしてみる。こちらは<太陽の冠>で、身につけると太陽の加護が得られるらしい。

試しに被ってみると、杖の光ほどではないが体が温まり、少し元気が湧いてきた。しかも、魔力が減る感覚もない。

(これはすごいぞ! 装備しない手はないが……)


装備しない手はないほどの効果ではあったが、如何せん見た目が黄色い王冠なので少し目立つ。

(いくら勇者になったとはいえ、王冠はちょっと偉そうでなんか恥ずかしいな…… せめてサークレットだったら……)

そう思った時、冠が輝いてサークレットに形を変えた。もしやと思い色々試してみると、頭にかぶったりつけたりするものには色々と形を変えられるようだった。

(今はサークレットにしておくとして、これは結構便利だな)


杖と冠の力で元気を取り戻し、再び歩き始める。

肉体強化のおかげで、先ほどよりスムーズに前に進めているような気がする。

この世界でもモンスター除けは効いているのか、今のところ近くにモンスターの気配はない。

時折、遠くからカエルや鳥のような声は聞こえるが、視界が悪すぎて一匹も姿は見えていない。


(環境は最悪だけど、今のところモンスターに襲われていないのは運がいいな)

とはいえ、前世で死因になったオオカミのことを考えると、モンスターが必ず寄ってこないという保証はない。さらにこの世界のモンスターは前世よりも全体的に強くなっている。

モンスターに襲われる前に町に着きたい一心で、泥をかき分けて進む。その直後――


何か大きなものが目の前に降ってきたような音がして、泥の波に襲われる。

とっさに顔を腕で覆ったため、目に泥が入ることは避けられたが、泥に押されて尻餅をついてしまった。

(急になんだ!? モンスターか?)


腕をどかすと、そこには巨大なカエルがいた。そのカエルは、人間を一飲みにできそうな大きな口を開くと、太い舌を勢い良く伸ばして来た。

とっさに剣で弾き返すが、諦めずに何度も攻撃を繰り返してくる。


(このままではどんどん泥に埋まってしまう…… こうなったら……)

舌をはじき返した後、すぐに腕力強化をかける。そして、次の舌に合わせてそのままマジックエッジで攻撃を仕掛けた。


カエルの舌先が裂け、攻撃が止んだ。このチャンスを逃さず何とか立ち上がる。

こちらが立ち上がったと同時に、怯んでいたカエルもまた戦闘態勢に戻る。ここからが戦いの始まりだ。


先ほど舌を攻撃されて懲りたのか、今度は素早く泥の塊を吐き出して攻撃してくる。

脚力強化をかけて、泥の攻撃をそのまま叩き切り、カエルを切りつける。しかし、皮が固く舌を切った時ほどの手ごたえはなかった。


一度前足での攻撃を避けるために下がると、次は泥の波を吐き出して来た。

(これは剣で防げないな……)

インビジブルステップを使い、泥をすり抜けてカエルに接近する。今度はマジックエッジを使いながら連続切りを使ってみる。

カエルが少し怯み、先ほどより深い傷がついてはいたが、まだまだ余力がありそうに見える。

(これは長期戦になりそうだ)


そう思った直後、次の攻撃を躱そうとしたところ急に足が何かに挟まれて動かなくなった。

攻撃は幸い泥玉だったため、何とか剣でしのげたが、一体何が起こったのだろう。


急いで足元を見ると、泥のような色をしたオオトカゲが足にしっかりと嚙みついていた。鎧のおかげでダメージはなかったが、このままでは動けない。

マジックエッジを入れて離させようとすると、そのトカゲはそのまま動かなくなった。

(このトカゲも固かったらどうしようかと思ったけど、結構あっけなかったな)


確かにトカゲは強いモンスターではなかった。ただ、このトカゲを対処することに使った時間はカエルが次の攻撃をするために十分な時間だった。


気を取り直してカエルの方を見た時には、既に目の前に泥の塊が迫っていた。すっかり視界を奪われた後、急に体が締め付けられ、そのまま宙に浮き、さらに狭い場所に押し込められていた。


動けないでいると、少し広い空間に着いた。体がひりつき、皮膚が溶けるような感覚があったが、同時に暖かく、その皮膚再生させる力のようなものを感じた。

(もしかして、カエルの胃の中? そして、冠の再生力で消化されずに済んでいるということか?)

ひとまず冠のおかげで死は免れたが、胃の中に閉じ込められたという事実は変わらなかった。

回復するとはいえ、先に防ぐわけではないため、体がずっと溶け続けていることには変わりがない。


(どうすれば…… いや、これは逆にチャンスかもしれない)

外側が固いカエルも、舌はかなり柔らかかった。内側から全力で攻撃すればむしろ簡単に倒せるかもしれない。


ここが勝負時だと信じて、全ての力を集中してマジックエッジを放つ。すると、今までのように剣の周囲を覆うような刃ではなく、剣の倍の大きさの魔法の刃が現れた。

(これは…… 魔王を倒してレベルが上がっていたのか? いや、今は目の前のことに集中しよう)


勢い良く剣を振ると、目の前が真っ二つに裂け、また霧に包まれた湿地帯が見えた。

外に出ると足元には動かなくなったカエルとトカゲがいた。

体にまとわりつく胃液も、降り始めた豪雨ですぐに流されていった。

(雨もこういう時には助かるな)


モンスターを倒したところで、この素材を使えば沼地を移動するのに使えるスキルが取れそうだと考えた。ただ、スキルクリエイターを使用している間にまたモンスターに襲われたくはない。


「スキルクリエイターであれば、レベルアップによって素材から簡易検索ができるようになっていますよ。それなら周囲の状況を確認しながらスキルを取得できます。」

ちょうど欲しかった情報を女神様から頂いた。礼を言って、スキルクリエイターを簡易モードで開いてみた。


目の前に透明な板が現れてそこに色々な情報が表示されるようだった。

検索すると、トカゲからは<沼歩き>のスキルが、カエルからは<沼歩き>と<跳躍>のスキルが取れそうだった。

(かぶっているなら、トカゲで沼歩きを取って、カエルで跳躍を取っておこうかな。)

とりあえず2つのスキルを取得して、余った素材はインベントリにしまい、スキルを試してみることにする。


沼歩きを使用してみると、足首からひざ下まで埋まることもあった泥の上を、少し柔らかい地面程度の感覚で歩くことができている。

(これなら、かなり進みが速くなるぞ)

続いて跳躍を試すと、一気に身長の三倍ほどの高さまで跳びあがった。

(これは、戦闘の幅が広がりそうかも?)


 跳んだ後に、ふとここから落ちたら沼に埋まる可能性に気がつく。しかし、焦った頃には腰まで泥に埋まっていた。

(跳ぶ時は着地のことも考えないといけないな……)

普通なら抜け出すのに時間がかかるが、今なら沼歩きがある。泥に手をついて力を入れても、普通の地面のように踏ん張ることができ、楽に脱出することができた。

(今後は柔らかい地面があっても怖くないな)


こうして、新スキルを手に入れた後は快適に進むことができ、何とかエストポルトにたどり着くことができた。

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