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勇者の新たな一歩

町へ戻ると、こちらに気づいた人々が次々に駆け寄って来て、気づけば大勢の人に囲まれていた。


「勇者様! 魔王門の辺りから光が立ち上るのが見えました。魔王を討伐できたのですね!」


「はい、なんとか倒すことができました。これでこの地域の気候も元に戻るでしょう。」

正直、魔王を討伐して異常が元に戻る光景を見たことがないため自信はなかった。

ただ、勇者であるからには人々に不安を抱かせたくないという一心で言い切ってみた。


 場が静まり返った。なんだか少し不安になったがその直後――


ウオオオオォ!!――

やったぞ! ついに勇者様が魔王に勝ったんだ!――

これでようやく元の生活に戻れる!――


町の人々が歓喜の声を上げる。興奮して飛び上がる人、お互いにハグしあう人、感極まって泣く人など表現は様々だが、平穏が戻ってくる喜びが全身から伝わってきた。


それを見ていた俺も、なんだか少し泣きそうになった。そして、魔王を討伐し続ける選択をしたことは間違いではなかったと再確認できた。


その日の夜には宴が開かれた。

見たことがない料理や飲みなれない酒に驚いたり、歌や踊りを楽しんでいる間にあっという間に時間が過ぎていった。

宴が終わって、小屋に戻った時にはすっかり深夜になっていた。


小屋に戻ったものの、宴での興奮のためかすぐには眠る気になれなかった。落ち着くまで今日の出来事を一旦整理してみようと考え始めたところで、女神様が現れた。


「女神様!」


「勇者よ、よくぞ魔王を討伐してくれましたね! ありがとうございます。 それで……」

最初は笑顔だった女神様の表情が少し緊張したものになっていった。少しの沈黙の後、意を決したように女神様が話し始めた。


「それで…… まだ勇者を続けてくれますか? 」

6号に同じ質問をされた時はまだ迷いがあったが、今回は自信を持って言える。


「はい、すべての魔王を倒し、この世界に平和を取り戻します!」

そう言うと女神様の顔がパッと明るくなった。


「ありがとうございます! そう言っていただけて安心しました。 私もできる限りのサポートを致します。」

「そうなると、次の魔王は4番の魔王が良さそうですね。4番の魔王は比較的弱い可能性が高いですし、場所も隣町<エストポルト>なので、2体目としてちょうどいい相手だと思います。」

エストポルト、転生前俺はこの町に向かう途中で死んだ。ただ、あれは事故のようなものだし、今ならきっと負けないだろう。


「なるほど、それでは明日はエストポルトに向かってみます。そういえば、魔王の番号は強さで決まっているわけではなさそうですが、何で決まっているのでしょうか。あと、弱い可能性があるというのも気になります。」


「この番号は魔王がこの世界に現れた順番で付けられています。復活する際も必ずこの順番で復活するようになっているのです。」

「何故弱い可能性があるかについてですが、これは魔王が魔王門周辺に生息している生物を基本とした姿になる特性があるためです。この特性によって6番の魔王はほとんどの場合スライムになります。ただし、稀にウサギやコウモリの姿を取る場合もあるようで、このように姿が一定ではないため魔王は番号で呼ばれるようになっています。」


「なるほど、そうなるとエストポルトは海が近いから、4番の魔王は魚とかだったりするんですかね?」


「はい、その通りです。ほとんどの場合、魚介類の魔王になりますね。あのあたりの生物は危険度が低いものが多いこともあり、魔王も弱いと予想していますが……」


「ということは、かなり珍しくて強い生物があの近辺にいるということですね。」


「その通りです。本当に滅多に現れませんが、あの近海にはシーサーペントが住んでいます。」

シーサーペントは図鑑で見たことがある。大きいものになると、軍艦でも体当たりで破壊してしまう凶暴で危険なモンスターだ。


「それは…… なかなか危険そうですね…… 」


「でも滅多にないことですから、魚の魔王であることを期待しましょう。」


「そうですね、今から心配しすぎても身が持ちません。一旦考えないようにしておきます。」

そう言って、明日に備えてゆっくり眠ることにした。


――翌日

フローリアの人々に見送られて俺はエストポルトの方へ歩き始めた。


町を出るといつも通りスライムが跳ねている姿が見えたが、以前と違う点に気づいた。

白や黒のスライムに混じって、以前は見なかった青や緑のスライムが跳ねていたのだ。

このスライムは転生前毎日のように討伐していたスライムだ。魔王がいなくなったことで、生物の強化の影響も薄れてきているのだろう。

(あのスライムがあんなに恐ろしい魔王になるなんて…… イワシが魔王になっても苦戦しそうだな……)


そう思いながら歩いていると、大きな草原が見えてくるはずだったが――

「女神様、エストポルトってこっちで合ってましたよね?」


「はい、ここを真っ直ぐに進めばエストポルトですよ。」


目の前には大きな湿地帯が広がっていた。道も全て泥になっていてぬかるんでいる。

あまりのことに驚いていると、ぽつぽつと雨が降り始め、急に土砂降りになった。

恐らく4番目の魔王の影響で雨が極端に多くなっているのだろう。


俺は、気を取り直して大きく姿が変わったエストポルトへの道を進み始めるのだった。

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