新たな旅への決意
王冠と杖を回収しようとした俺は、気づくと真っ白な空間にいた。
この世界に転生する時に女神様と出会った空間と同じ空間だろうか。女神様に話しかけようと思っていたその時、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「魔王討伐お疲れ様! 女神の加護有りにしてもなかなか速いじゃない」
声が聞こえた方を向くと、不思議な人物が立っていてこちらにゆっくりと近づいてきた。
近づかれて気づいたが、なかなか背が高い。2mは超えていそうであり、細身ながら少し圧倒される。
その一方で、球状の頭に黒く縦長な目と逆三角形に開かれた口からは友好的な雰囲気を感じさせる。
声からすると恐らく男性なのだろうが、外見からは年齢も性別も分かりそうにない。
(長めの耳があるみたいだけど、エルフやオークでもなさそうだし、体毛がないから獣人でもなさそうだ…… そもそもヒトなのか?)
「一体、何者なんだ!?」
この空間も目の前の存在も一切理解できなかった。とにかくこの人物が何か説明してくれることを祈った。
「そう構えなくても食べたりしないわよ。」
「アタシは6号。あるいは"芸術家"って呼ばれてるかしら。ここに君を呼んだのは魔王討伐後の後処理をするため」
6号と名乗る存在は芸術家と呼ばれている通り、ベレー帽に長いスモック、腰に絵筆や彫刻刀の入ったカバンを身につけている。
(6号…… ヒトというよりは、ゴーレムみたいな人造生命体なんだろうか)
魔王と同じ番号、同じカラーリングである黄色を基調とした服と体の色を考えると、このためだけに創られた魔法生物なのかもしれない。
「えーと、後処理というと?」
一旦気を取り直して後処理について聞いてみることにする。
「普通なら、勇者のジョブを英雄のジョブに書き換えて終わり。だけど、今回はまだ他の魔王が残ってる。」
「とはいえ、残りの魔王を討伐するかはアンタの自由よ。女神ちゃんともそういう約束してたし、アタシも無理に引き止めたりしないわ。」
6号はこちらがどう答えるかを待っているようだった。
(そういえば、まだ9体の魔王が残っているんだっけ……)
魔王を討伐してやり切った気になっていたが、実際のところまだ1割しか終わっていない。
ただ、女神様は1体でも倒せばそれで良いと言っていた。
(今回は上手く倒せたけど、今後もうまく倒せるだろうか……)
俺は、この世界に来てからのことを思い返した。
過酷な気候と強力なモンスターがはびこる世界。勇者の力や復活能力がなければ、今頃魔王のもとにたどり着く前に力尽きていただろう。
そして、まだ他の地域ではこの状況が続いているはず。
もし、ここで勇者を辞める選択をしたら、魔王と戦わなければならないプレッシャーからは逃れられる。
ただ、他の地域を救えないことで一生後悔しそうな気もする。
(ここに来てから、試行錯誤を繰り返してここまで来たんだ。今から行き詰ることを考えていても仕方ない。何度倒れてもいずれは先に進めるはずだ)
「俺は、まだ勇者を続けます。できる限り魔王を討伐し続けようと思います。」
何もやらずに後悔するよりは、とりあえず挑戦することを決意した。
「あら! やるじゃない! 結構骨があるのね。」
6号がグイっと近づいてきた。食べられてしまいそうな勢いだ。
「本当だったら色々あげたいものはあるけど、ここじゃなんにもあげられないのよね……」
6号は少し考えてから、何か思いついたようでさらに話始める。
「そうそう、あげられるものはないけど、杖と冠は好きに使っていいわよ。まだ装備もそんなに揃ってないでしょ?」
確かにここで装備をもらえるのはありがたい。杖が手に入れば魔法で戦うことも選択肢に入れられるかもしれない。
「ありがとうございます!」
「さて、メディカルチェックも問題なさそうだし、そろそろ元の世界に帰すわね。それじゃ、魔王討伐頑張ってね~!」
6号がそう言うと、強い光に包まれて元の世界に帰って来た。
これでようやく村に戻れそうだ。俺は、町に向かって歩き始めた。