再び魔王戦
森での冒険を経て麻痺と魅了の耐性スキルを得ることができたが、もう一つ有用なスキルを習得することができた。
その名も<インビジブルステップ>、モリガスミの素材によってクイックステップが強化されたスキルだ。
クイックステップから強化された点は、ステップ時になんと全ての攻撃が体をすり抜けていくらしい。
「無敵になれるのは凄いけど、地面とか壁をすり抜けて埋まったりしないか心配だな……」
「そのスキルは、あなたが攻撃だと認識したものだけをすり抜けるだけなので、そう考えている時点で大丈夫ですよ。」
頭の中で女神様の声が響いた。
「なるほど…… それならかなり便利なスキルですね。それにしても、スキルの効果が認識で変わるなんて不思議ですね」
「そうでしょうか? むしろスキルの多くが認識や使い手の想像力次第で様々な効果を発揮しますよ。特に魔法なんて名目上同じではあっても使い手次第で性能が大きく変わりますよ」
よく考えると、前世では腕力強化と脚力強化ぐらいしか使えるスキルがなかった。今後は1つのスキルでも他の使い方がないか考える必要がありそうだ。
魅了と麻痺を切り抜けた先にどんな攻撃が待ち構えているか分からないが、再び魔王に挑むことにした。
魔王門をくぐると、以前と同じように石造りの城のような空間に出た。巨大なスライムも変わらず佇んでいる。
(前回と同じなら、最初は光弾をよけながら戦うんだったな)
前回の戦いのことを改めて思い出してから、意を決して戦闘開始のラインを超えた。
線を超えた途端、スライムが輝き出し、辺り一面に光弾がばらまかれた。
以前はだいぶ体力が削られたが、今回はインビジブルステップがある。うまく使えば無傷で抜けられるかもしれない。
飛んできた光弾を余裕がある時はそのまま躱して、どうにもよけられそうにない時はインビジブルステップを使う。前回苦戦したのが噓のようにうまくよけられている。
インビジブルステップのおかげもあるが、森での戦いの日々でレベルアップしたせいか前より弾が遅く感じる。
(これなら魅了までは楽に行けそうだな…… 問題はその先だけど)
しばらく攻撃を続けているうちに突然光弾がピタリと止んだ。魅了攻撃の合図だ。
耐性スキルを信じて攻撃を続ける。ダメージはなかったはずなので、状態異常さえ効かなければ絶好のチャンスだ。
「この間にっ、倒れてくれたらいいんだがっ!」
光の波が体を包み込むのを気にせず一心不乱に攻撃し続ける。むしろここで倒せなければまた負けるかもしれない。
しばらく攻撃を続けていると、突如スライムが震えだした。
(倒せたのか? いや、ここで油断してやられたら意味がないな……)
焦る気持ちを抑えて一旦後ろへ下がる。
その直後、先ほどまで震えていたスライムが一気に縦に伸びた。さらに縦に伸びた部分の中間から左右に腕のようにスライムが伸びていった。
しばらく変形し続けて、元々ただの巨大な饅頭のような見た目からスカートをはいた人型のような見た目になっていた。
さらに人型の胴体の部分が輝いたと思うと体の中から光り輝く杖を取り出した。
(この見た目ならギリギリ"ゴッデス"と言えなくもないか……? それよりあの杖はなんだ?)
その疑問はすぐに解消された。杖が輝き始めて変形前よりも多くの光弾を打ち出してきた。
(光弾はあの杖から出てたってことか! 数は多いがこの技だけなら何とかなりそうだ)
さっきのラッシュでだいぶダメージは与えたはずだが、序盤の回避でこちらのスタミナもそれなりに消費させられている。慎重になりすぎて早く決着をつけられなければそれも負けにつながる。
最初と同じように弾をよけて攻撃を入れようとしたが、急に別の角度から弾が飛んできた。よけきれず何発か体を掠めていく。
「どうして別の場所から? 待てよ、体の中心じゃなくて、手に持ってる杖から光弾が出るということは…… これはまずいぞ……」
魔王が杖を持った手を動かすと、光弾の発射位置が変わり、弾幕のパターンが変わる。そのせいで回避が難しい箇所が増えている。これを以前のように躱すのはインビジブルステップがあっても厳しい。
(そうであれば、多少無茶をしてでも突っ込むしかなさそうだな)
弾幕が薄い部分を探しながら、魔王の方へ近づき、なんとか杖を持っていない側に回り込み攻撃を加える。当然魔王もこちらに光弾を当てようと腕を動かすが、魔王の胴体を盾にするように動きながら攻撃を加え続ける。
多少のダメージは無視しながらひたすら攻撃し続けるが、相手がスライムのせいもあって、どれだけ弱っているのか分からない。
ただひたすらに早く終わってくれと祈りながら剣を振り下ろし続ける。
無限とも思えるような時が過ぎたとき、突然剣が激しく輝きだした。
「なんだこれは……! 頭の中で何かが……」
剣が輝くと同時に、頭の中に謎の言葉が浮かんできた。何やらスキル名のようだった。
(一か八かやってみるしかなさそうだな……)
こういう土壇場ではどんなスキルであるかを理解せずとも、スキル名を強く意識出来れば発動できる職業神の加護がとてもありがたい。
「ブレイブエッジ!!」
スキル名を叫ぶと剣の光がより一層激しくなり、普通に持つこともできないような激しい力が渦巻いているようだった。
そうしていると、光り輝く手が現れてこちらの手を支えてきた。突然のことに驚いたが、これで剣を振ることができそうだ。
力を振り絞って跳躍し、魔王の頭に剣を振り下ろす。剣が魔王に触れた瞬間目の前が真っ白になった。
気が付くと俺は仰向けに倒れていた。また死んだのだろうか。
気づくと心地よい風が吹く草原に移動していた。不思議に思い少し辺りを見回すと近くに輝くものが転がっていることに気づいた。
近づいて見ると、それは先ほどまで魔王が持っていた杖と王冠だった。そして、考え直すと強烈な日差しはすっかりなくなって、穏やかな気候になっている。ということは――
「もしかして、魔王に勝った!? 間違いない、勝ったんだ!」
喜びをかみしめながら、せっかくの戦利品だからと杖と冠を回収した時、不思議な光に包まれ一面真っ白な空間に移動してしまっていた。
もしかして、女神様の空間だろうかなどと考えていたが、そこには全く知らない人物が立っていたのであった。