初めての魔王戦
森での探索を終えた後、エッジホッグとデビルキャロットの素材からスキルを2つ取得することができた。
1つ目は健脚。足を使う行動で減少するスタミナを軽減できるらしい。単純にたくさん歩いても疲れづらくなると考えると地味ながら嬉しいスキルだ。
2つ目はクイックステップ。素早いステップで敵の攻撃を躱しやすくなるらしい。健脚があるおかげで結構多用できそうな気がしている。
ここ数日で色々なスキルを獲得した俺はこう考えた。
(こんなにスキルがあるんだから…… もしかして魔王に勝てちゃったりして……)
確かに魔王はとても強いが、単純に世界で最も強いかというとそんなことはない。そして、それは勇者にも言えることだった。
"魔王は勇者でなければ倒せない"というのは、討伐ができないというよりは、勇者以外が討伐しても、何事もなかったかのように復活してしまうためだった。
以前の世界で、とんでもなく強いSランク冒険者のパーティーが魔王を3回討伐してみたが、何も起きなかったことを確認したという話を聞いたことがある。
(そう考えると、俺はトドメだけさせばいいんじゃ…… まあ、強い冒険者のアテもないし、それに今回まだ負けると決まってるわけでもないし)
気弱な考えを振り払い、俺は魔王門に向かった。
女神様に魔王門の位置を聞きながら、歩いていると体感5分ぐらいで目の前に魔王門が現れた。
(いつもの出口と反対側の出口から出たらこんなに近くにあったのか…… それにしても近すぎるな……)
改めて魔王門を見ると、禍々しい黒い靄が溢れていることに気づいて少し恐ろしくなる。
ただ、挑まなければ分からないと自分に言い聞かせて、魔王門の中に入ることにした。
魔王門をくぐると、いつの間にか薄暗い城の中のような場所に立っていた。
そして、空間の奥には巨大な黄色いスライムがたたずんでいた。奇妙なことに頭の上に黄色い冠を乗っけている。
(これが魔王? 想像してたのと違うし、あまり強そうにも見えない。 それに襲って来ない?)
そう考えていると、少し離れた足元に光の線が引かれているのが見えた。ここを超えないと襲って来ないのかもしれない。
(合ってるかは分からないが、アナライズのチャンスだ……)
とりあえずアナライズをしてみたが、何故か名前と特性しか見ることが出来なかった。何度繰り返しても同じだった。
(魔王はアナライズに対する耐性を持っているみたいだな……)
得られた情報を整理してみると、名前はゴッデススライム、主な特性は勇者以外の攻撃無効、能力低下無効、状態異常無効だった。
(女神ではなく、ただのゼリーにしか見えないが…… 特性も俺には特に関係なさそうだな)
ふと、この線の外から攻撃できるのではと思ったが、線の辺りで魔法はかき消され、投げた物も跳ね返って来た。流石にここまでのズルは許されないようだ。
覚悟を決めて線を踏み越える。
線を超えた途端、魔王の体が輝き始める。俺は剣を構えて攻撃に備えた。
「うっ…… なんだこれ!?」
魔王から素早い光弾が飛んで来ていた。一発のダメージは大したことがないが、続けざまに何度も撃ってくる。立ち止まってはいられなさそうだ。
光弾を避けては、攻撃を繰り返しているが、健脚のスキルがなかったらスタミナ切れをしていたかもしれない。
(この調子で削り切れるか……)
そう思った矢先、魔王は放射状にレーザーを放ち始めた。これでは光弾をよけるのがなかなか難しい。
クイックステップとヒールを使い多少無茶をしながら攻撃を続けていると、突然魔王の攻撃がピタリと止んだ。
(もしかして、倒せた? いや、何か嫌な予感がする……)
まだ戦えるが正直厳しくなってきていたので、半分願望ではあったが、悲しいことに悪い予感の方が当たってしまった。
突然、魔王の体を中心としてドーム状にエネルギーの波が広がり始めた。隙間も一切なくよけられそうもない。覚悟を決めて受け止めようとした。
その波が体に触れたが、特に痛みはなかった。その代わり、急に意外なことに気がついてしまった。
(このスライム…… めちゃくちゃ美しいかもしれない……! 何で気がつかなかったんだろう!)
最初はただのスライムだと思っていたが、これはスライム界の女神と言えるだろう。蜂蜜のような黄金色のボディ、花のような甘い香り、どれも素晴らしい。
(何でさっきまでこいつを倒そうとしていたんだっけ……)
しばらくぼんやりと考えていたが、はっと気がつく。
(何考えてるんだ! こいつは魔王じゃないか! 魔王を倒すためにここへ来たんだ!)
恐らく魅了の状態異常をかけられていたのだろう。特にスライム好きでもないのに魅了されたことに驚きつつも、気を取り直して動こうとする。しかし――
(体が痺れて動かない……! 麻痺状態にもできるのか!?)
体が動かないことに慌てていると、目の前がまばゆく輝き始める。魔王を見ると、こちらが動けないのをいいことに、とてつもない量のエネルギーを溜めているようだった。
麻痺消し草を持っていても、取り出すことができないので意味がない。そうこう考えているうちに極太のレーザーがこちらに向かって飛んで来ていた。
(強いというよりは、なんて理不尽な……)
肉体も意識も理不尽にレーザーで吹き飛ばされていった。
気が付くと俺は教会の中にいた。どうも死んだ場所の近くの教会で復活するらしい。
とりあえず魔王相手にそこそこ戦えるのは分かったが、あの魅了と麻痺を突破できなければきっと勝てないだろう。
俺はひとまず宿に戻り、スキルクリエイターを確認して何か対策になるスキルがないか探し始めるのであった。