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オゾン、焦熱、愚行、葬送  作者: 不覚たん
回帰編

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42/54

残党狩り 一

 メンバーを三つの班に分けた。


 俺、エーデルワイス、マッポーちゃんのA班。

 タイガーリリー、パキラのB班。

 椿、グロリオサのC班。


 A班をベースにして、AB、ACの組み合わせで行動する。残りは留守番。

 正直、B班とC班の戦力がつり合っていない気もするが……。パキラがこの組み合わせにしろと言って聞かなかったので、こうなった。


 *


 翌日――。



 都内ではまだ銃撃戦が続いていた。

 いまのところ対応しているのは警察だけだが、自衛隊に出動命令がくだるのも時間の問題だろう。


 東京駅周辺は、民間人の立入が禁止された。しかしドローンを飛ばして戦いを撮影するものが後を絶たず、映像はネットにも配信された。


 ただの銃撃戦ではなかった。

 浄化カルトは、血の魔物を大量に投入していたのだ。これが狂暴なまでに強い。シルバー・スピッターなら一撃で始末できるところだが、警官の拳銃では十発ほど叩き込む必要があるようだった。


 血の魔物につかまった警官は、力ずくで引き裂かれた。まるで食いかけのチキンのように、断裂した筋繊維が見えた。出血するさまは水風船のようだった。

 ショッキングな映像だ。

 逃げ出す警官もいた。


 だが警察も押されてばかりではない。

 警官隊の設置したバリケードは、血の魔物の侵攻をよく阻止していた。

 血の魔物の特性を考えれば、バリケードなど簡単に通過できそうなのだが。しかし凝固と融解を簡単には切り替えられないようで、しばしば鉄柵に激突し、苦しそうによろめいていた。


 姿は見えないが、遠方からの狙撃もあった。

 血の魔物を一撃で粉砕しているところを見ると、きっと銀の弾丸を使用しているのだろう。以前タイガーリリーが言っていた専門チームかもしれない。


 *


 会社が休みだったこともあり、俺たちは少年の残党を捜索することにした。メンバーはAB班。


 どこも人通りは少ない。

 ほとんどの店は営業中しているが、客がいないからじつに静かなものだ。


 隣を歩いているのはエーデルワイス。ジャージ姿でマスクをし、スマホをいじり回している。

「ね、これ見てよ」

「なんだ? ちゃんと前見ないと危ないぞ」

「いいから」

 ゴテゴテと装飾のされたピンク色のスマホを押し付けてくる。

 椿の金で買ってもらったものだろうか。


 画面には、某オカルト板のスレッドが表示されていた。

 しかも俺の書き込み……。あのあと「うざい」だの「消えろ」だのと散々に叩かれていた。正直、もう忘れたいのだが。


「これがどうした?」

「私たち以外にも、あのバーの情報を探ってた人がいたみたいなの」

「そ、そうか」

「でもこいつの文章見て? ちょっとバカっぽくない? IQ3くらいしかなさそうだったから、我慢できなくてつい煽っちゃった」

 お前か!

 あのとき結構傷ついたぞ……。


 彼女は得意顔で、こう続けた。

「クレメンスとか言っちゃって。巣から出てくるなって感じよね?」

「そ、そうだな」

「でもね? 一瞬、頭の悪いフリして油断させる作戦かなー、なんて思ったりもしたけど、英雄はどう思う?」

「ネットにある情報は、見えているものだけがすべてじゃない。彼は意外と策士かもしれないぞ。警戒したほうがいい」

「そう? 分かった」

 エーデルワイスはもう興ナシといった様子で、スマホをポケットにしまった。

 まるで狩った虫を飼い主に見せつけるネコのようだ。見せたからもういいやといった態度も露骨である。


 ふと目をやると、前を歩いているパキラとタイガーリリーが、こちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話をしていた。

「英雄も知っておくべきじゃない?」

「いいよその話は」

「けど、これから戦いになるかもしれないでしょ?」


 俺は構わず声をかけた。

「なんの話だ?」

 するとタイガーリリーは肩をすくめただけだったが、パキラがこちらへ来た。

「グロリオサだよ」

「なにかあるのか?」


 部屋に集まっていたときも、チーム分けするときも、パキラはグロリオサと距離をとっていた。グロリオサは気にしていない様子だったから、パキラが一方的に避けているといった感じだったが。


「ホントはあいつ、めちゃくちゃ強いんだよね。あたしほどじゃないけどさ」

「能力だけ考えれば強いはずだよな。葬送では選ばれなかったらしいけど」

「普段は風ばっかり吹かせてる『そよ風女』だからさ。けど稲妻を使える。当たったら一撃で死ぬヤツ」

 その能力は、俺も話だけなら把握している。

 しかし不思議だ。

 強力な技を持っているのに、なぜ葬送で選ばれないのか。


「グロリオサって、戦いに向いてなくてさ。まあ怒らせると怖いけど……。でもずっとあの調子でしょ? いつも葬送が始まる前に、自分に稲妻を落として……。それですぐ終わらせちゃってたんだ。仲間を傷つけたくないみたいで」

「えぇっ……」

 当時、妖精たちには呪縛がかけられていた。葬送が始まると、自分の意思とは関係なしに戦いを始めてしまう。

 だからグロリオサは、まだ自分に判断力が残っている段階で、みずから命を絶ったのだ。

 あまりにも優しすぎる。


 じつは裏で、俺は稲妻を使った作戦を彼女に提案していた。

 いちおう承諾はしてくれたが……。本心では、やりたくないと思っているのかもしれない。


 *


 通行人の姿はほぼないものの、こうして美女をぞろぞろ引き連れて歩いていると、好奇の目で見られる。

 しかもテロの真っ最中だ。はたから見れば異様であろう。


 廃工場へつくと、少年の死骸はすでに処理されていた。残っているのは黒ずんだ血痕のみ。それすらもだいぶ清掃されている。

 きっとタイガーリリーから政府に連絡がいって、それで対処されたのだろう。


 エーデルワイスがチョークで魔法陣を描いて精霊を呼び出し、行方を尋ねた。

 だが四方八方に逃げたせいで、まったくヒントにならなかったようだ。


「ダメね。あっちとあっちとあっちとあっち。つまり全方向に逃げてる。この探し方じゃ見つからないわ」

 エーデルワイスはそう言って足で魔法陣を消した。

 消えてしまうと、もう子供が遊んだあとにしか見えなくなる。


 さて、こうなるとヒントはゼロだ。

 専門知識のない素人集団が、隠れている子供を探すのは不可能に近い。


 エーデルワイスはマッポーちゃんに近づいた。

「ねえ、イヌみたいににおいで追えないの?」

「マッポーちゃんはイヌじゃねぇマポ」

 今日も人間の格好をしている。髪がもふもふしていてあまり目立たないが、頭には角もある。

 だが拒否するのかと思いきや、マッポーちゃんは地べたに伏せてくんくんとにおいをかぎ始めた。スカートなのに……。


「チョークのにおいしかしねぇマポ!」

「役に立たないわね」

「ド底辺妖精には言われたくねぇマポよ」

「なに? もまれたいの?」

「やめろマポ……」

 そこまでにしておくんだ。

 いろいろ危ない。


 タイガーリリーが溜め息をついた。

「じゃあ次は、グロリオサが保育園で入手した情報をあたってみよう。子供の目撃情報がある。まだ移動していなければ、そこにいるはずだ」


 そう。

 いますぐ逃げるべきなのに、そのことにさえ気づいていないマヌケなら、いまなお現場付近に滞在しているはず。動物はいちど巣を張ったら、生活基盤を動かしたがらないものだ。

 あるいは逆に、俺たちが来ることを予見して、罠を張っている可能性もあるが。


 *


 行けば行くほど景色はスカスカになっていった。

 店、畑、畑、空地、店、畑……。

 どの店も閉店しており、掲げられた看板も色褪せていた。クリーニング店、駄菓子屋、小さな工務店、電気屋。シャッターさえ錆で腐食していた。

 いや、畑が悪いわけではない。しかしぽつぽつと廃墟のような店が散見されると、どうしても寂しさばかりが強調されてしまう。

 逆に子供たちの遊び場にはうってつけか。


 いまの子供はゲームばかり、などと言われることもあるが、遊ぶ場所さえあればちゃんと遊ぶものだ。

 さすがに今日くらいは親に言われて家で大人しくしているらしく、遊び回る姿はなかったが。


「エーデルワイス、また魔法陣を頼む」

「分かった」

 公道に描くのはさすがにマズいと思ったので、ガラガラの駐車場を借りて魔法陣を描かせた。

 エーデルワイスはチョークを使って上手に描く。パキラからは「お絵かき女」などと揶揄されていたが。


 魔法陣が完成すると、エーデルワイスは意識を集中させ、ぶつぶつと会話を始めた。

「どれどれ。子供の姿は……。うーん、違う。普通の子供じゃなくて……えっ?」

 固まってしまった。

 かと思うと、ぶるっと身を震わせた。


「どうしたの、お絵かき女。黙ってちゃ分かんないよ」

 パキラがせっつくと、エーデルワイスは憤慨した様子で頬をふくらませた。

「うるさい! 集中してるの!」

「そう? なら続けなよ」

「もういい。終わったから」

「なにそれ……」

 するとタイガーリリーも「まあまあ」と仲裁に入った。


 だが俺も、いい加減理解した。

 彼女たちは仲が悪いわけではない。家族のような関係なのだ。


 エーデルワイスは立ち上がり、足で魔法陣を消した。

「私たちが来るってこと、バレバレだったみたいね。この先に血の魔物がたくさんいるってさ。それでも行く?」

 その答えは決まっている。

 俺は肩をすくめた。

「ああ、行こう。こっちにはシルバー・スピッターがある。仲間もいる。負けはしない」

 敵が予想済みであることさえ、こちらは予想済みだ。

 その先はまったく読めていないが……。


 戦力は申し分ないのだ。

 俺も式典で得た戦闘経験を、ここで活用させてもらう。


(続く)

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