残党狩り 一
メンバーを三つの班に分けた。
俺、エーデルワイス、マッポーちゃんのA班。
タイガーリリー、パキラのB班。
椿、グロリオサのC班。
A班をベースにして、AB、ACの組み合わせで行動する。残りは留守番。
正直、B班とC班の戦力がつり合っていない気もするが……。パキラがこの組み合わせにしろと言って聞かなかったので、こうなった。
*
翌日――。
都内ではまだ銃撃戦が続いていた。
いまのところ対応しているのは警察だけだが、自衛隊に出動命令がくだるのも時間の問題だろう。
東京駅周辺は、民間人の立入が禁止された。しかしドローンを飛ばして戦いを撮影するものが後を絶たず、映像はネットにも配信された。
ただの銃撃戦ではなかった。
浄化カルトは、血の魔物を大量に投入していたのだ。これが狂暴なまでに強い。シルバー・スピッターなら一撃で始末できるところだが、警官の拳銃では十発ほど叩き込む必要があるようだった。
血の魔物につかまった警官は、力ずくで引き裂かれた。まるで食いかけのチキンのように、断裂した筋繊維が見えた。出血するさまは水風船のようだった。
ショッキングな映像だ。
逃げ出す警官もいた。
だが警察も押されてばかりではない。
警官隊の設置したバリケードは、血の魔物の侵攻をよく阻止していた。
血の魔物の特性を考えれば、バリケードなど簡単に通過できそうなのだが。しかし凝固と融解を簡単には切り替えられないようで、しばしば鉄柵に激突し、苦しそうによろめいていた。
姿は見えないが、遠方からの狙撃もあった。
血の魔物を一撃で粉砕しているところを見ると、きっと銀の弾丸を使用しているのだろう。以前タイガーリリーが言っていた専門チームかもしれない。
*
会社が休みだったこともあり、俺たちは少年の残党を捜索することにした。メンバーはAB班。
どこも人通りは少ない。
ほとんどの店は営業中しているが、客がいないからじつに静かなものだ。
隣を歩いているのはエーデルワイス。ジャージ姿でマスクをし、スマホをいじり回している。
「ね、これ見てよ」
「なんだ? ちゃんと前見ないと危ないぞ」
「いいから」
ゴテゴテと装飾のされたピンク色のスマホを押し付けてくる。
椿の金で買ってもらったものだろうか。
画面には、某オカルト板のスレッドが表示されていた。
しかも俺の書き込み……。あのあと「うざい」だの「消えろ」だのと散々に叩かれていた。正直、もう忘れたいのだが。
「これがどうした?」
「私たち以外にも、あのバーの情報を探ってた人がいたみたいなの」
「そ、そうか」
「でもこいつの文章見て? ちょっとバカっぽくない? IQ3くらいしかなさそうだったから、我慢できなくてつい煽っちゃった」
お前か!
あのとき結構傷ついたぞ……。
彼女は得意顔で、こう続けた。
「クレメンスとか言っちゃって。巣から出てくるなって感じよね?」
「そ、そうだな」
「でもね? 一瞬、頭の悪いフリして油断させる作戦かなー、なんて思ったりもしたけど、英雄はどう思う?」
「ネットにある情報は、見えているものだけがすべてじゃない。彼は意外と策士かもしれないぞ。警戒したほうがいい」
「そう? 分かった」
エーデルワイスはもう興ナシといった様子で、スマホをポケットにしまった。
まるで狩った虫を飼い主に見せつけるネコのようだ。見せたからもういいやといった態度も露骨である。
ふと目をやると、前を歩いているパキラとタイガーリリーが、こちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話をしていた。
「英雄も知っておくべきじゃない?」
「いいよその話は」
「けど、これから戦いになるかもしれないでしょ?」
俺は構わず声をかけた。
「なんの話だ?」
するとタイガーリリーは肩をすくめただけだったが、パキラがこちらへ来た。
「グロリオサだよ」
「なにかあるのか?」
部屋に集まっていたときも、チーム分けするときも、パキラはグロリオサと距離をとっていた。グロリオサは気にしていない様子だったから、パキラが一方的に避けているといった感じだったが。
「ホントはあいつ、めちゃくちゃ強いんだよね。あたしほどじゃないけどさ」
「能力だけ考えれば強いはずだよな。葬送では選ばれなかったらしいけど」
「普段は風ばっかり吹かせてる『そよ風女』だからさ。けど稲妻を使える。当たったら一撃で死ぬヤツ」
その能力は、俺も話だけなら把握している。
しかし不思議だ。
強力な技を持っているのに、なぜ葬送で選ばれないのか。
「グロリオサって、戦いに向いてなくてさ。まあ怒らせると怖いけど……。でもずっとあの調子でしょ? いつも葬送が始まる前に、自分に稲妻を落として……。それですぐ終わらせちゃってたんだ。仲間を傷つけたくないみたいで」
「えぇっ……」
当時、妖精たちには呪縛がかけられていた。葬送が始まると、自分の意思とは関係なしに戦いを始めてしまう。
だからグロリオサは、まだ自分に判断力が残っている段階で、みずから命を絶ったのだ。
あまりにも優しすぎる。
じつは裏で、俺は稲妻を使った作戦を彼女に提案していた。
いちおう承諾はしてくれたが……。本心では、やりたくないと思っているのかもしれない。
*
通行人の姿はほぼないものの、こうして美女をぞろぞろ引き連れて歩いていると、好奇の目で見られる。
しかもテロの真っ最中だ。はたから見れば異様であろう。
廃工場へつくと、少年の死骸はすでに処理されていた。残っているのは黒ずんだ血痕のみ。それすらもだいぶ清掃されている。
きっとタイガーリリーから政府に連絡がいって、それで対処されたのだろう。
エーデルワイスがチョークで魔法陣を描いて精霊を呼び出し、行方を尋ねた。
だが四方八方に逃げたせいで、まったくヒントにならなかったようだ。
「ダメね。あっちとあっちとあっちとあっち。つまり全方向に逃げてる。この探し方じゃ見つからないわ」
エーデルワイスはそう言って足で魔法陣を消した。
消えてしまうと、もう子供が遊んだあとにしか見えなくなる。
さて、こうなるとヒントはゼロだ。
専門知識のない素人集団が、隠れている子供を探すのは不可能に近い。
エーデルワイスはマッポーちゃんに近づいた。
「ねえ、イヌみたいににおいで追えないの?」
「マッポーちゃんはイヌじゃねぇマポ」
今日も人間の格好をしている。髪がもふもふしていてあまり目立たないが、頭には角もある。
だが拒否するのかと思いきや、マッポーちゃんは地べたに伏せてくんくんとにおいをかぎ始めた。スカートなのに……。
「チョークのにおいしかしねぇマポ!」
「役に立たないわね」
「ド底辺妖精には言われたくねぇマポよ」
「なに? もまれたいの?」
「やめろマポ……」
そこまでにしておくんだ。
いろいろ危ない。
タイガーリリーが溜め息をついた。
「じゃあ次は、グロリオサが保育園で入手した情報をあたってみよう。子供の目撃情報がある。まだ移動していなければ、そこにいるはずだ」
そう。
いますぐ逃げるべきなのに、そのことにさえ気づいていないマヌケなら、いまなお現場付近に滞在しているはず。動物はいちど巣を張ったら、生活基盤を動かしたがらないものだ。
あるいは逆に、俺たちが来ることを予見して、罠を張っている可能性もあるが。
*
行けば行くほど景色はスカスカになっていった。
店、畑、畑、空地、店、畑……。
どの店も閉店しており、掲げられた看板も色褪せていた。クリーニング店、駄菓子屋、小さな工務店、電気屋。シャッターさえ錆で腐食していた。
いや、畑が悪いわけではない。しかしぽつぽつと廃墟のような店が散見されると、どうしても寂しさばかりが強調されてしまう。
逆に子供たちの遊び場にはうってつけか。
いまの子供はゲームばかり、などと言われることもあるが、遊ぶ場所さえあればちゃんと遊ぶものだ。
さすがに今日くらいは親に言われて家で大人しくしているらしく、遊び回る姿はなかったが。
「エーデルワイス、また魔法陣を頼む」
「分かった」
公道に描くのはさすがにマズいと思ったので、ガラガラの駐車場を借りて魔法陣を描かせた。
エーデルワイスはチョークを使って上手に描く。パキラからは「お絵かき女」などと揶揄されていたが。
魔法陣が完成すると、エーデルワイスは意識を集中させ、ぶつぶつと会話を始めた。
「どれどれ。子供の姿は……。うーん、違う。普通の子供じゃなくて……えっ?」
固まってしまった。
かと思うと、ぶるっと身を震わせた。
「どうしたの、お絵かき女。黙ってちゃ分かんないよ」
パキラがせっつくと、エーデルワイスは憤慨した様子で頬をふくらませた。
「うるさい! 集中してるの!」
「そう? なら続けなよ」
「もういい。終わったから」
「なにそれ……」
するとタイガーリリーも「まあまあ」と仲裁に入った。
だが俺も、いい加減理解した。
彼女たちは仲が悪いわけではない。家族のような関係なのだ。
エーデルワイスは立ち上がり、足で魔法陣を消した。
「私たちが来るってこと、バレバレだったみたいね。この先に血の魔物がたくさんいるってさ。それでも行く?」
その答えは決まっている。
俺は肩をすくめた。
「ああ、行こう。こっちにはシルバー・スピッターがある。仲間もいる。負けはしない」
敵が予想済みであることさえ、こちらは予想済みだ。
その先はまったく読めていないが……。
戦力は申し分ないのだ。
俺も式典で得た戦闘経験を、ここで活用させてもらう。
(続く)




