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オゾン、焦熱、愚行、葬送  作者: 不覚たん
英雄編

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21/54

太陽の一族

 さて、ジャイアント・キリングだ。

 比喩でもなんでもない。

 本当に巨人を退治する。


「いまは食事でおとなしくしているけど、きっと傷つけた瞬間に大暴れするよ。気を付けて」

 少年はそんなアドバイスを残し、やや距離をとった。

 自分がやるわけじゃないから、ずいぶんお気楽だ。


 俺は銃を構え、仲間が配置につくのを待った。

 いや、配置といってもたいしたものじゃない。マッポーちゃんを抱えたエーデルワイスが退避するのを待つだけだ。あとは適当に戦う。


 俺は号令の代わりにトリガーを引いた。

 パァンと炸裂音。

 弾丸が巨大な肉に命中し、小さな穴をあけた。


 反応ナシ。


 だが二回目のトリガーを引こうとしたその瞬間、大地を揺するような絶叫が響き渡った。口にくわえていたパイプが外れ、赤黒い血液がドボドボと流れ落ちた。


 ノーダメージかと思ったが、意外と効いたようだ。

 こいつを撃つと人間性を失うらしいが、いまのところ変化はない。少なくとも自覚できる範囲では。


 巨大な赤ん坊は腕をイヤイヤして、鋼鉄の檻をひしゃげさせた。凄まじいパワーだ。というか絶叫がクソうるさい。


 トリガーを引く。

 小さな穴が開く。

 痛みを与えているのは間違いない。が、致命傷にはなっていなかった。


「あァあーっ! あァァあーっ!」


 まるで怪鳥だ。

 耳元でカラスが絶叫しているような……。いや、腹にもズシズシ響いてくる。ストレスでイライラする。


「なんだこいつ、早く死ねよな……」

 俺はとにかくトリガーを引いた。

 なんだかムキになっている気もするが……。だがアレは間違いなく殺さねばならない。要するにこれは……とにかく殺すしかない。

「とっとと死ねよ。クソ野郎ッ」


 檻の一面が外れ、バーンと地面に倒れた。

 ついでに巨人も横倒しになり、そこから暴れながら這い出してきた。


「あうァああーっ! あァあァーうっ!」


 うるさい。

 黙らせないと。


 椿の放った氷柱が、敵の肩に炸裂した。だが連射はできないらしく、かなり間を置いてから次の攻撃が出た。

 タイガーリリーは変身もせずうろうろ。ヴァニラも手を出せず眺めているだけ。


 正直、目ざわりに感じた。

 人が必死で戦ってるというのに、戦ってるフリをして……。


「みんな、なにやってんだ! もっと攻めろ! こっち来るぞ!」

 トリガーを引いた。

 ただでさえうるさいのに、撃つたびにパァン、パァンとイラつく音が響いた。反動もデカい。もっとマシな銃はなかったのだろうか。こんなクソザコ銃じゃ、まともに戦えるわけがない。


「あァァう! あァう! あァァう!」


 だんだん近づいてくる。

 顔だけで俺よりデカい。

 このまま接近されたら、喰われるのでは?

 そう思うと怖くなってきた。

 みんなより後ろに下がって、なるべく被害に遭わないようにしなければ。俺は死んだら一発で終わりだが、妖精たちは死んでも生き返るのだ。彼女たちを盾に使わなければ。


 すると突然、腰のあたりに衝撃が来た。

 背後からの攻撃!?

 驚いて振り向くと、毛むくじゃらのクリーチャーが、俺に体当たりをしかけていた。


「なにすんだお前! 邪魔だろ!」

 俺は銃を握った手で、そいつを思い切りぶん殴った。

 毛玉は一度バウンドし、エーデルワイスにキャッチされた。


「おい、エーデルワイス。そいつをちゃんと管理しておけよ。なんのために後ろにさげたと思ってるんだ?」

 だが彼女は哀しそうな顔をするだけで、反論してこなかった。

 代わりに毛玉から返事が来た。

「おい人間! いったん落ち着くマポ!」

 顔面がへこんだままなのに、器用にしゃべるものだ。


「なんだよ落ち着けって? 戦ってんのはお前じゃなくて俺だぞ。死にてぇのか」

「マッポーちゃんとキスしろマポ!」

「あ?」

「人間性を削られてるマポ! 回復させるからマッポーちゃんとキスしろマポ!」

「ざけんな。気持ち悪ぶふっ」

 エーデルワイスがマッポーちゃんを全力でぶん投げてきた。

 まさかそんな行動に出るとは思わなかったから、俺は顔面で毛玉を受け止めてしまった。


 その瞬間、自分がいまどれだけ横柄な態度をとっていたのか、ようやく自覚できた。

「ぐっ……。大丈夫か、マッポーちゃん」

「キスしそこなったマポ」

 キスなどしなくても、近くに寄るだけで大丈夫だったようだ。

 削られていた人間性は、たぶん回復したと思う。


「悪いな。まさか、あんなに簡単におかしくなるとは」

「今回の敵は特別ヤバいマポ。マッポーちゃんがつきっきりでサポートしてやるから、頭に乗せるマポ」

「頼んだ」

 頭に乗せると、マッポーちゃんは髪をつかんでしがみついてきた。頼むから引き抜くのだけはやめてくれよ……。


「みんな! 攻撃中止! 攻撃中止だ! 後退してくれ! 戦闘は俺が担当する!」

 きっと椿もいくらか人間性を失ったはずだ。

 これ以上、攻撃させるわけにはいかない。


 だが椿は俺の命令を無視し、氷柱を放っていた。コントロールが悪いおかげで、ほとんど命中していなかったが。


 椿に駆け寄り、肩をつかんだ。

「椿! 攻撃するな! 後退してくれ!」

「お兄さま……。あれ、私……」

 おそらくマッポーちゃんのおかげだろう。椿も正気に戻った。


「あいつに手を出すと、人間性をかなり削られる。俺に任せろ」

「お兄さまは?」

「マッポーちゃんがなんとかする」

 というかこの毛玉がいなかったら、いったいどうなっていたことやら。

 少年も処分に困るわけだ。


 俺は巨人の周囲を旋回するように移動しながら、銃弾を撃ち込んでいった。

 あきらかにイヤがっている。

 全身から出血し、泣き叫んでいる。


 巨人は、この世界を破壊しようとしている。

 すなわち神器を破壊しようとしている。

 例の残留思念も同じ。

 だから一連の行動は、太陽の一族の総意と見ていい。

 彼らは死してなお、少年と戦おうとしている。


 もちろん神器の破壊は、俺たちの目的とも一致する。

 だがいま巨人に手を貸すわけにはいかないのだ。

 このままこいつを暴れさせておけば、神器の破壊を待たずに俺たちが殺されてしまう。


 もっとうまい戦法も取れたかもしれない。だが俺たちの置かれた状況や、両陣営のパワーバランスを考えると、この選択はやむを得なかった。

 とにかく巨人を倒し、妖精の呪縛を解くのだ。


 巨人は血走った目でこちらを見ていた。

 手を伸ばし、つかもうとしてくる。


 俺はとにかくトリガーを引いた。

 弾丸は次々と着弾し、赤い点をつける。


 頼むから止まってくれ!


 だが、トリガーが固まった。

 弾切れだ。

 目の前には、幼いながらも巨大な手。


「あぁう……」


 その手は動きを止めた。かと思うと、糸が切れたようにドーンと地面に落ちた。頭部も、視点の定まらぬままあらぬ方向へ向いていた。

 倒した……のだろうか。


 それでも俺は呼吸を繰り返しながら、巨人から目を離さなかった。

 本当に?

 勝てたのか?


「お兄さま、危ない!」


 その声が聞こえた瞬間、俺は閃光を見た。

 発火?

 爆発?

 なんだか分からない。


 とにかく次に気が付いたとき……俺は横倒しになっていた。

 凄まじい臭気。

 派手になにかが焼けたらしい。大地までもが焦げ付いている。自爆だろうか? 熱は巨人を中心に、放射状にひろがったようだ。しかし俺の周辺だけは、不思議と焦げていなかった。

 なにかが盾になって、防いでくれたようだ。


 よく見ると、幸運にも前方に岩がそびえ立っていた。それが熱を受け止めたのだ。

 岩……?

 あっただろうか。そんな都合よく。

 まっくろな岩。

 人の形をしているようにも見える。


 いや、もう分かっている。

 それは椿だ……。


 手を前に突き出して、壁を作るような格好で炭になっていた。

 きっと冷気の壁で俺を守ってくれたのだろう。


 頭ではそう推測できる。

 だが、なぜ?

 理解できない。

 なぜ椿が死なねばならなかった……。


 彼女はずっと俺を気にかけてくれた。

 なのに俺は、警戒して心を開かなかった。

 あまりにも冷酷だった。

 もっと優しく接するべきだった……。


 マッポーちゃんが近づいてきた。

 少し焦げているが、ほぼ無傷。

 彼女はなにも言わなかった。


 見ると、残りの妖精たちもこちらへ来るところだった。少し負傷しているようだが、歩くのに支障はないようだった。俺の言うことを聞いて、後退していたから、あまり被害を受けなかったのだろう。

 俺を守ろうとした椿だけが犠牲になった……。


 思わず膝から崩れ落ちた。

 いくら生き返るからといって……。

 英雄はここを去ると、二度と戻ってくることができない。ヒロインたちと会うこともできない。だから感謝の言葉を伝えることもできない。

 喪失感で、なにも考えられなくなった。


 椿……。


 少年も近づいてきた。

「おめでとう。まさか本当にやり遂げるなんてね。約束通り、妖精たちの呪縛は解いておくよ。さ、今日の式典はおしまいだ。帰ろう」

 だが俺は返事もできず、立ち上がることもできず、怒りもわかず、涙も出ず、ただ、そこにいることしかできなかった。


 誰も失いたくなかった。

 そのために苦悩してきた。

 なのに、あんなに簡単に人間性を失って。

 仲間も守れず、なにが英雄だろうか。

 自分のことが嫌いになりそうだ。


(続く)

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