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オゾン、焦熱、愚行、葬送  作者: 不覚たん
英雄編

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20/54

禁忌の代償

 六度目の満月――。


 少年は今日も調子が悪そうだった。

 日に日に衰弱している。


「なあ、神さま。十億はいつくれるんだ?」

「願いは決まったの?」

「金でいい。ピッタリ十億、俺の口座に振り込んどいてくれ」

「分かった」

 苦しんでいる少年に金をせびる大人の図。

 あまり見られたくない光景だ。


 エーデルワイスが猛ダッシュでやってきた。

「だから、なんで私より先にそのショタに声をかけるの?」

「いや、入ってすぐのところにいるから……」

 今日の彼女は、幼稚園児のスモックを着用していた。黄色い帽子までかぶっている。こいつはマジで、どこを目指しているのやら……。


 彼女は自慢の髪をかき上げ、謎のセクシーポーズをキメた。

「どう?」

「いったん座ってくれないか」

 ただでさえ仕事で疲れているというのに。


 他のみんないつも通りだ。ヴァニラは……スリットの入ったタイトなナイトドレスを着用している。店の雰囲気にもよく合っているしいいだろう。少なくとも前回の女児服よりはいい。


 俺はあえて席につかず、少年に尋ねた。

「で、今日は誰に会えるんだ? ヒロインか? それとも怪物のほうか?」

「怪物だよ」

 狩猟の式典だ。

 それも狼男ではなく、もっと違うなにからしい。


 カウンターに銃が置かれたので、俺はそいつを手に取ってマガジンを突っ込んだ。三十二発。スライドを引いて、そのうちの一発を装填する。

 自宅のエアガンで練習しているから、少しは上達したと信じたい。反動も重さもまったく違うが、照準を合わせる動作は同じだ。少なくとも他のなにかよりは、一番近い。


 *


 バーの裏口から外へ出た。

 今日はなぜか少年までついてくる。

 それはいいが……。


 満月が、荒野を照らしていた。

 右を向いても、左を向いても平坦なフィールド。遠方には地平線。まるで月面のようだ。

 しかしなにもないわけではない。


 ぽつんと構造物がある。

 長方形の建物。

 ビルだろうか?

 いや、もっと簡素な……。


「ついてきて」

 少年にうながされ、俺たちは歩を進めた。


 *


 四角い檻に、巨人が閉じ込められていた。

 いや、巨人というより、四角い肉か?

 それはクジラのようにも、胎児のようにも見えた。ぶよぶよの皮膚。ところどころ角のような突起がある。頭部だけでなく、肩、腕など、不規則に。


 それだけではない。

 口とおぼしき場所にパイプが突っ込まれており、なにか流し込まれているようだった。

 同様にケツにもカバーがつけられ、排泄物が自動的に地下へ捨てられているようだった。


 死んではいないが、生きているとも言い切れない状態。


「これは?」

 俺がそう尋ねると、少年はなんとも言えない表情で目を細め、こう応じた。

「肥大した自我エゴだよ」

「誰の?」

「ここで死んでいった命。その総体……」


 俺たちの会話が気になるのか、巨人は重たいまぶたを開き、眼球だけ動かしてこちらを見た。

 四角い檻にギチギチに詰め込まれているが、よく見ると赤ん坊のようであった。


 俺は溜め息をついた。

「総体? 死んだヤツらの肉をぜんぶ放り込んだら、こうなったのか?」

「そんなところだよ。だいたいあってる」

「なあ、俺はクイズ遊びをしたいんじゃないんだ。詳しく説明してくれないか? これがどういう由来のヤツで、なぜ殺す必要があるのか」

 理由など知らずとも殺せる。

 だがそれは人間のすることじゃない。

 普通はしない。


 少年はかすかに息を吐いた。

「知っての通り、僕は同族を殺した。そのときの血は、魔物としてリサイクルしてる。けど残りの肉は……なぜかこうなってしまった」

「なぜか? 理由を知らないのか?」

「きっと事前にプログラムされてたんだと思う。外部から攻撃を受けたら、こうして反撃するって」

「反撃もなにも、だいぶおとなしいようだが?」

 まったく動く様子がない。

 じつにおとなしいものだ。


 少年は首を振った。

「苦労してこの状態まで持ってきたんだ。口にパイプがつながってるでしょ? あそこから血を流し込んでる。食事代わりだね。それで強制的におとなしくさせてるんだ」

 同族の血を与えているのか……。

 だが母乳は血液だという話を聞いたことがある。そう考えれば、あながちおかしな話でもないのかもしれない。


「ここまで追い詰めたなら、自分で殺せるだろう?」

「じつはそうもいかなくてね。僕の能力では、この子を焼き切れなかった」

「焼く?」

「太陽の力だよ。けど相手は同族だし、エネルギー量も膨大だから、相殺されてしまったんだ」

 俺はつい鼻で笑った。

「エネルギー量がなんだって? あんた、ほぼ無尽蔵のエネルギーを秘めてるんじゃなかったのか?」

「いずれそうなる予定なんだ。けど、いまはまだ違う」

 こいつ、フカシてやがったな。

 背伸びしたい年ごろってことか。


 俺は肩をすくめた。

「で、あんたより脆弱な俺が、このバケモノを処分できると? 悪いが、短剣はバーに置いたままだぜ」

「大丈夫。シルバー・スピッターがある」

「こいつか……」

 俺はあらためて拳銃を見つめた。金属の塊だ。中には銀の弾丸がぎっしり詰まっている。


 それはいいのだが、納得できないことがひとつある。

「つまりこの銃さえあれば、あんたでもあいつを殺せるってことか? なぜ俺にやらせる?」

「あれは魔物じゃないから、攻撃すると人間性が剥離してしまうんだ」

「こちらに手を汚せと?」

「そう。けど君たちにはマッポーちゃんがいるよね?」

 じつに都合よく使ってくれる。

 だが確かに、マッポーちゃんさえいれば、ノーリスクで攻撃することができる。


「分かった。じゃあ次は、なぜこいつを殺す必要があるのか教えてくれ」

「僕の世界を壊そうとしてるから。この檻もいつ壊れるか分からないし、早めに処分しておきたいんだ」

「ほう……」

 きっと「僕の世界」とは「神器」のことを言っているのだろう。

 だが少年がその言葉を発するまでは、俺も口に出すことはできない。


「あんたの世界が壊れるとどうなる?」

「人間界と、この世界とのつながりがなくなる。そうなると、君は式典に参加できなくなるね」

「で、やがて怪物になる、と」

「そう。正式な手順を踏まない限り、その呪縛から逃れることはできないんだ」

 深刻そうに話しているが、この赤ん坊はじつにおとなしい。ちっとも暴れる様子がない。世界が破壊されるのはかなり先のはずだ。

 つまりこいつを放っておいたところで、俺にはなんらのリスクもない。スルーしたっていい。


 だが、俺はいちおう、こう尋ねた。

「今回はいくらくれるんだ? まさか前回と同じ十億ってことはないよな?」

「考えてない。けど可能な限りの対応はするよ」

「なら妖精にかけられた呪縛を解いてくれ。葬送が始まっても敵にならないようにするんだ」

 俺がそう要求すると、彼は目を丸くした。

「呪縛を解く……?」

「そうだ。言っておくが本気だぞ。現状、どうあがいても俺はあんたに勝てないだろう。きっと怪物になるのがオチだ。いっそ妖精たちとヤリまくって、とっとと終わらせちまったほうがいい。分かるか? この世界がどうなろうが、俺の知ったこっちゃないってことだ。このデカブツを殺す理由もない」

 本心ではない。

 これくらい言わないと動かないだろうと思ったのだ。


 少年は大きく呼吸をした。その呼吸は震えていた。

「君はなにか勘違いをしているね」

「勘違い? なら正しい判断をできるよう、情報を提供してくれよ」

「彼女たちは被害者じゃない。禁忌をおかしたんだ。だからここで使役している」

 クソ、また新情報だ。

 それも、あまり知りたくないたぐいの。


「いったいどんな禁忌だ?」

 俺がそう尋ねると、妖精たちはさっと目を伏せた。

 後ろめたいことでもあるのか?


 少年は告げた。

「僕が彼女たちの事情を無視して、一方的に召喚したのは事実だ。けど、召喚術というのは、そもそもそういうものだよね。問題はそのあと。僕が大事に育てていた果実を、彼女たちは勝手に食べたんだ。絶対にダメだと何度も言っておいたのに」

 いや、どう考えても罠だろ。


 エーデルワイスは地団駄を踏んだ。

「あんなにしつこく食べるなって言われたら、食べたくなるでしょ! だからパイにして食べたわ! みんなでね!」

 園児服で駄々をこねていると、本当にガキみたいだ。


 少年は苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

「ともあれ、彼女たちは罪を償う必要があったんだ。その結果がこれさ」

 姑息な手段だ。

 妖精をハメるために、わざと果実を見せつけたに決まっている。


 俺は溜め息をついた。

「事情は分かったよ。だが俺のオーダーは変わらない。承諾するのかしないのか、それだけ聞かせてくれ」

「承諾してもいいけど、結果は変わらないと思うよ」

「なぜ?」

「ヒロインが複数いたら、必ず葬送は実施されるから。そして最後の一人になるまで終わらない。この点は呪縛ではなくルールだから、変更の対象にはならない」

「ええと……つまり、どういうことだ?」

「葬送が始まったら、呪縛による強制ではなく、自発的な殺し合いをしてもらうことになるだけ」

 なにを言ってるんだこいつは。


 俺はつとめて冷静に、こう応じた。

「なら葬送を廃止してくれ」

「それは難しいね。呪縛だけなら僕の都合で解除できるけど。世界のルールを再構築するには、途方もない時間と労力が要るんだ。世界をゼロから構築するならともかく、途中から変更するとなると、他のルールとも整合しなくなる……。ヘタすると世界が滅ぶよ」

 ごちゃごちゃ言っているが、要するに「やりたくない」ということだ。


「どうあっても死んで欲しいってことか。なら、もうひとつだけ確認させてくれ。もし呪縛が解けた状態なら、俺がヒロインを一人に絞っても、他のメンバーは敵対しなくて済むんだよな?」

「イエスと答えてもいいけど、その表現は正確じゃないね。強制的な敵対はなくなるよ。けど、みんながどう判断するかは……僕には分からないよ」

 そこは妖精次第ってことか。

 強制じゃなければいい。

 たぶん。


 ともあれ、この要求が通れば、作戦の幅が広がるのは間違いない。

 少なくとも俺は、妖精を殺す必要がなくなる。

 これまで想定していた六名ではなく、七名の妖精と協力できるようになる。


「分かった。なら要求を通してくれ。彼女たちの呪縛を解くんだ」

「あの子を殺せたらね」

「見ててくれ」

 交渉成立だ。

 しかし少年が育ててた木の実というのは、いったいどんなものだったのだろう。おいしかったのだろうか。俺もパイを食べたかった。

 意外とただのリンゴだったりしてな……。


(続く)

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