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力隠してオーラ隠れずっていう話

ナカノ区の警察病院、その一室に須堂カノ、比屋根コースケ、比屋根リュウジ、九葉隆の4人が集まっていた。

一見すると道端で倒れた学生と連絡を受けた父親がいる病室にクラスメイトが見舞いにやってきて、そこに学生を助けた警官が来た、ただそれだけに思える一場面だった。

病室は個室だが15㎡ほどの正方形の部屋で窓側にあるベッドにコースケは横になっており、リュウジがベッドの頭側にあるディスプレイ脇のイスに座り、カノはベッドの足側の空いたスペースにリュウジが持ってきたイスに座っている。

カノとリュウジは対面する位置に座っており、隆は扉の前で2人に挟まれるように立ちながら会話をしていた。


「えー、そうなんですよ、そこでアレですよ、比屋根君、いや、コースケ君と呼ばせていただきますけど、彼が倒れてるのを見つけまして」

「その節は本当にありがとう、九葉さんがいなかったらコースケがどうなってたか」


リュウジが座りながらお礼をして、コースケを発見した時の状況の説明が終わったようだ。

カノは聞いていていいものかわからないがリュウジに引き留められた手前、2人のやり取りを静観していた。


「そこでですね、コースケ君に少し聞きたいことがありまして」

「え、俺に?」


ベッドに横になっていたコースケだが隆が来てからベッドに付いているリモコンを操作し、上半身だけ起き上がっていた。


「はい、封鎖されていた路地で見つかった手前、2~3質問しなくてはいけなくて」


隆は頬をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに伝える。


「そうなんですね、わかりました」

「感謝です」


そう言うと隆は胸元から手帳を取り出し、質問を始める。


「では、まずどうやってあそこまで来たのですか?」


コースケは、えーっと、っとリュウジの顔をチラチラ見ている。

カノでもわかる程度の行為なのでもちろん隆もわかっているだろう。

先ほどのコースケのわかりましたとは何がわかったのだろうか、とカノは思った。


「九葉さん、コースケはまだ起きたばかりだし、私も先ほどコースケから聞いたので私から説明してもいいかな?」


コースケから視線を受けたリュウジが隆に向き直り提案する。


「あ、もちろん大丈夫ですよ、不明な点があったら本人に答えてもらう形になりますけど」

「ありがとう、それでは」


リュウジはコースケから聞いた話として隆に伝えつつ、途中、何度かコースケにも確認を取る。


「わかりました、これであの場所までの道筋を辿れますね。では続いて、現場近くということで怪しい人物は見かけませんでした?」


コースケはリュウジを見て答える。


「人物、は見てないですね」


そう答えた時にリュウジの眼が少し鋭くなったようにカノは感じた。

そのまま隆を見ると笑顔で手帳にメモを取っていた。


「なるほど、ありがとうございます。では次の質問で最後にしますね」

「は、はい」


そう言うと隆は意図的に間を取り、コースケへの視線、周りの息遣いを確認しつつ、室内の緊張感を高めているように見えた。

そして徐にコースケの眼を見て、笑顔を消して口を開く。


「なぜ、あの場所だったんですか?」

「な、なぜ?」


また、コースケはリュウジを見るが、リュウジは見定めるように隆に視線を向けていた。

カノは質問の意図がわからなかったが、コースケの力を間近で見ていることもあり、何かあるのかと考える。


「回答は難しいですか?」


沈黙が続く中、隆はコースケに回答をせまる。

コースケは天井を向いたまま、回答できずにいるがリュウジも何かを考えているようだった。

そのコースケとリュウジの様子を見て、カノはやはりあの力が関係していると確信した。

そして父親のリュウジもそれを知っている、と。


リュウジが隆を見て、諭すように話し出す。


「九葉さん、息子はまだ病み上がりなんですよ。それに未成年がいる病室で尋問みたいな空気感出しちゃダメだろう」

「これは失礼しました。ただ、あの場所になぜいたのか、が気になりまして。ただ単に野次馬だというなら場所が違う、普通は一番サイレンが鳴っていた大通りを見るでしょう」


隆はリュウジに顔を向けて話をする、リュウジが何か言おうとしたがそれを遮る。


「それにね、私があそこに行ったのは理由があるからです。偶々じゃないんですよ」

「偶々じゃない?」


リュウジからの問いかけを受け、隆は右手の薬指で眼鏡を直して話を続ける。


「最初にお伝えしましたが私、特別事象犯罪対策課に所属してます。聞いたことないですよね、何をやってるところか説明しますと、超常現象とかそういう未知の事象で起きた事件を扱ってるんですよ。正直、課長と私の2人、寂しい部署ですけど」


リュウジはため息をつく。


「なるほど、わかりました。それと偶々息子を見つけたのにどんな関係が?」

「それは後程説明しますが、比屋根君の立場はあまり宜しくないです。現場近くでただ倒れていただけじゃなく、あえて大通りを避けたように人の気配のない路地で気絶していた。外傷と言う外傷もなく、発見時には痙攣を起こし、鼻からの出血、嘔吐もしている。でも病院の検査は異常なし。私の質問にも明確に答えられないというなら、その原因がわからず、今起きている事件と関係がないとは言い切れない。」


隆は厳しい目つきで話す。


「息子の立ち位置が厳しいということですか」

「はい。重要参考人程ではないですが、居場所は把握した方が良いと言われていますね。」


リュウジは髭を撫でてコースケを見る。


「息子はね、大切な存在なんだよ」

「血のつながり以上の意味を感じますね」


隆はリュウジの台詞に被せるように答える。


「何が言いたいのかな?」


リュウジは隆の歯に詰まった物言いに嫌悪感を露わにした。


「比屋根さん、アレです、貴方たち家族に嫌なことを言いたいとかしたい訳ではないんですよ。」


隆はそんなリュウジの感情をぶつけられても真顔のままだ。


「だから何が言いたいんだ」


リュウジは多少イライラしながら隆に改めて聞いた。


「僕はコースケくんを見つけた時にびっくりしたんですよね。」

「何にびっくりしたんだよ?」


リュウジに代わり、コースケが攻撃的な言葉遣いで隆に聞く。

隆は一息ついて室内の全員を見渡して話し出す。


「さっきの偶々の説明も兼ねますが、みなさん、普通じゃないですよね?」


コースケもリュウジも目を見開いた。

ガタン、とイスが倒れる音がした。

隆の言葉に一番大きく反応したのがカノだった。


「カ、カノ?」


音に驚いてコースケが振り返ると、普段のカノを知っている者が見たら驚くような冷たい表情で固まっていた。

隆はコースケの意識がカノに向かっているとわかるとカノを一度見て、咳払いをして注意を自身に向け、またコースケに話しだす。


「コースケくん、あの場所だけど、とても異常でしたよ。それに先ほど、人物はいないと答えましたよね。誰もや何もじゃなく、人物は、いないと。あそこには何がいたんですか?」


コースケはリュウジに顔を向けるとリュウジは静かに頷いた。


「人間じゃない何か、かな。」


コースケは自身が遭遇した出来事を話す。

コースケはどうやってあそこまで行ったのか、あの場所で何があったのかを細かく説明した。

話をしている最中、隆は要所要所で手帳に何かを書き込み、カノはずっと固まったまま、その話を聞いていた。


「あんたが来たところで気を失って。そして、気づいたらこのベッドで寝てた。これが覚えてることだよ」


コースケが話を終えると、隆は手帳から顔あげて笑顔で礼を言う。


「コースケくん、感謝です。僕は嘘がわかるので正直に話してくれてとても助かります」


実際は嘘を話した際の目の動きやしぐさ、隆はそれ以上に空気の揺らめきや肌の温度などからわかる程度なので真実を隠される、というのは見破ることはできないが隆はあえてそう伝えた。


「比屋根さんにも感謝です、そして先ほどは無礼な態度を取ってしまって申し訳ありませんでした。どうしても知りたかったのです」

「これで息子は無罪放免という訳にはいかないんだろうが少しは信頼されたと思っていいのかな?」

リュウジは隆の事件への真摯な態度を見て、先ほどまでのマイナスの感情は霧散させていた。

「うーん、そうですね、僕個人の判断であれば大丈夫そうです。ただ事件解決まで監視の目はありますし、ご協力いただくことが多々あると思いますが」


リュウジは少し安堵した表情を見せた。

部屋の端っこで顔を強張らせて立っているカノを隆は見る。


「そして、須堂さん、貴女が聞きたいことがこの先にあると思います」


カノは急に名前を呼ばれたので身体が硬直する。


「おい、カノが聞きたいことってなんだよ、カノに関しては本当に偶々だろ、ここにいるの」


コースケが隆に突っかかる。


「そうですね、でも偶然は必然とも言いますし、須堂さんはコースケくんだからここまで来たんだと思いますよ」


そう言われるとコースケは驚きと共に顔を赤らめる。


「な、え、そ、そうなの?」


カノをそっと見て、コースケは質問する。


「そう」


カノの素っ気ない、でも肯定した回答を聞いてコースケの顔は更に真っ赤になった。


「そうなんだけど、たぶんコースケくんが思ってるのとは少し違うとおもう」


カノは下を向きながら伝える。


「え?」


コースケの表情は赤から青になり、コースケも下を向く。


「コースケくん、すみません、私の伝え方が悪かったです」


隆はそんなコースケを見て謝罪する。


「べ、別に気にしてねぇし」


カノが聞きたいこととは裏腹にコースケの恋が静かに幕を閉じた。



読んでいただきありがとうございます!まだまだ続きますのでがんばります!


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