壁に耳あり障子に目ありって話
朝方に起きたヨドバシ市場での爆破事件と併せてある噂話が広まったのは昼頃だった。
ヨドバシ市場での爆破事件は一昨日のカブキ町に続いてのものだったので教員たちは教育委員会からの指示と学校独自の対策としてどうするかという会議を午前中から職員室で行っていた。
そんな中、2年の比屋根コースケが現場近くで意識を失い倒れているのが発見され、救急搬送されたと警察から連絡が入り、更に教員たちは頭を抱えることとなった。
学生たちは教室で待機しているところだが教室から抜け出して職員室前をたまたま歩いていた生徒がその話を聞きつけ、仲間内のSNSに発信、瞬く間に学生たちにその話は広まった。
「おい、コースケが病院に運ばれたらしいぜ」
「まじか、なんでよ」
「しかも今朝起きた爆発したとこの近くから運ばれたらしいよ」
「大好きな学校来てないもんな」
「なんでそんなとこにいたんだろうね」
「警察に保護されたって聞いたぞ」
「うそん、病院じゃないってこと?事件の関係者??」
「そんなわけないだろ」
「どっちかって言うと野次馬して、勢いで転んで骨折ったとかのが似合うな」
「わかるー」
コースケが在籍するクラスもご多聞に漏れることなく、情報が入ってきていた。
生徒たちはそれぞれに入ってくる情報を広げながら話しを膨らませている。
カノはその話を聞きながら半信半疑ではあるものの、カブキ町の爆破事件のときのコースケを思い出す。
「たぶん、また聞こえた、そういうことかな。本当に搬送されたなら、病院の場所がわかれば行くのにな」
机で唸っていると女生徒が近寄ってきた。
「どしたのカノ、お腹でも痛いの?」
カノはその言葉を聞いてパッと明るい顔になるとすぐに立ち上がる。
「うん、ちょっと保健室に行ってくる」
そう言いながら自分の鞄を持って教室を出ていく。
話しかけた女生徒含めクラスメイトが呆然としていると。
「保健室行くのに鞄って、絶対あいつ帰るだろ。あ、コースケに会いにとか?」
男子生徒が呟いたのが聞こえた。
そんなことないかー、と誰かの声が聞こえると笑い声が交じり、教室はまた騒がしくなる。
クラスを後にしたカノはまず職員室に向かった。
廊下を歩いていると全クラスが自習となっているがどの教室からも笑い声が聞こえてきた。
爆破事件があったとは言え、自分たちには影響がない、むしろ自習になってラッキーと言ったところかな、とカノは考えているが自身の前世の記憶もあり、カノはいつも物事を慎重に考えるように心がけていた。
職員室に向かう間にコースケにはメッセージを送ったが返信が来る可能性は低い。
病院がわかったところでどうにもできないかもしれないけど、何か胸騒ぎがする、カノは自身の制服の胸元を掴む。
「さて、と。どうしようかな。」
そんなことを考えていると職員室前に到着。
ただ行き当たりばったりで来たので珍しく来たあとのことは何も考えてはいなかった。
職員室の壁を背に廊下に座り込んで中の話を聞くぐらいしかできない自分に苛立ちもあるが今はやれることをやろうと、一人頷く。
職員室からは下校の仕方、明日以降を登校か休校か時短にするのかなど、決まったことの発表や話し合いが必要なものの内容が聞こえる。
朝8時過ぎに爆破事件があったが、1時間目は通常通りに授業が行われたが2時間目の途中に校内放送が流れ、教員が呼ばれた。
生徒は教室で待機となったので職員室の会議は10時過ぎから既に2時間程度行われていることになる。
司会をしていたのか、教頭から他に何か質問がないか、教員に対して確認の問いかけが出た。
会議が終わりそうな雰囲気の職員室、カノもそろそろ立ち去らないとまずいかな、と立ち上がろうしたそのとき。
「比屋根の件はどうしますか?」
意識して聞いていたのもあるが室内の会話が途切れたタイミングだった為、聞こえた瞬間にカノは声が出そうになるのを我慢した。
そっと職員室の扉から中を見ると自身のクラスを担任する教員が手を挙げて立ち上がっていた。
他の教員たちからざわめきが起きるものの、校長か教頭からの回答を待つ為に改めて静かになる。
「比屋根君の件は生徒たち含めて外部には伏せておきましょう。保護者とも連絡が取れていますし、公にしないでほしい旨の内容も受けております」
教頭がそう回答する。
「わかりました。ただ私は受け持ちなので生徒から聞かれた場合はどう答えればいいでしょうか?授業担当の先生方もいるので出来たらここで答え方を統一しておきたいです」
再度クラスの担任から質問が出た。
会議が終わりそうなところから話を出してくれたことにカノは内心でガッツポーズをして、次に担任に会ったら感謝を伝えると心に決めた。
「そうですね、現在ナカノ区の警察病院に搬送されたことまではわかっていますがなぜ現場付近で倒れていたか、どういった症状なのかは今のところ不明です。既に保護者にバトンは渡しましたがこちらに詳細を教えるかどうかはわかりませんし、学校として積極的に関わる内容ではないと思っています。」
教頭は一度咳払いをすると。
「学生たちに聞かれてそのまま伝えてしまうと不安になるでしょうし、入院ということもできたら伏せたいですね。何かいい案はありますか?」
教頭からの逆の問いに教員たちがざわめくのを聞いて、カノはもう必要な情報は出てこないと判断し、立ち上がると玄関に向かって歩き出した。
携帯で警察病院を調べたところ、最寄り駅がナカノ駅なのがわかった。
ナカノ駅までは、学校からタカダノババ駅までの徒歩も入れて電車で20分、ナカノ駅から病院までは歩いて10分程度。
学校から出て行き方を調べながら駅に着いたカノは爆破事件の影響で遅れて到着した電車に乗り、ナカノ駅、コースケのいる警察病院を目指す。
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