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見習い魔法使いの世界旅路録  作者: 絵之色
第一章 透明の日々から羽ばたく日
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8色 二度目の色死獣との戦闘

 黒い靄のような、光る赤い目をした色死獣(しきしじゅう)はクリスティアたちの前に現れた。

 クリスティアは簡易杖で呪文を唱える。


「我、願う。希う。シルフの呼び声よ、我が指先に大輪の花を咲かせ! ヴァンデルン!!」

 

 疾風がロルフの頬へと過ぎ去る。

 クリスティアは師匠にもらった杖を自分の手へと出現させた。

 まるで彼女の手元に初めからあったかのように光が現れると金色に輝く杖が彼女の手に握られている。


「ク、クリスさん!!」

「ベットに戻って、あそこなら大丈夫だから!」

「は、はい!!」


 クリスティアは後ろを振り返らずにロルフに指示する。

 ロルフは彼女の言葉に従い、簡易ベットに避難した。


「……昨日のヤツだね、君」

『ギュルアアアアアアアアアアアアアア!!』

「彼は食べさせないよ」


 クリスティアが色死獣(しきしじゅう)を睨んでから、その目蓋を閉じる。

 彼女の立っている場所から次第に彼女の周りに風が吹き始めた。

 まるで台風の目が彼女だと、風たちが告げられている気が湧くロルフはただ黙り込む。


「我は代行者クリスティア・ハートフィールド、彼方(かなた)の末端を触れる愚か者。願わくば、我が望みを希わん」


 ロルフは、今まで聞いてきた彼女の呪文が違うことに瞬時に気づいた。

 まるでさっきまでの呪文が、今のこの呪文を省略させたものだと察せてしまう。

 色死獣(しきしじゅう)はグルルル……と、唸り声をあげながら、クリスティアを睨みつけている。

 彼女の周囲の地面に鮮明に輝く緑の魔法陣になる円が描かれ始めた。


緑彩色(りょくさいしき)のシルフの疾風よ。微睡む息を漏らす私に、かの者を導くための爪先を」


 次にクリスティアの持っている杖の青の宝石が輝く。

 それは彼女の言葉に呼応してか、それとも彼女の意志と比例していることを象徴しているからか。

 そんなことは恐怖に怯えるロルフには考えもできないことだった。


緑彩色(りょくさいしき)のシルフの息吹よ、揺蕩う夢を祈る私に、かの者を薙ぎ払う指先を」


 囁き声で、クリスティアは杖を胸に抱く。せめて、幼い彼を守るためにもこの色死獣を倒さなくては、と決意を胸に秘め彼女は詠唱を続ける。


「巡れ、巡れ、巡れ!! シルフの呼び声よ、可憐な花となる小さき蕾のかの者を守るための切っ先を、我が手に!!」


 祈るように強く、強く杖を胸に抱きしめるクリスティア。


「――――――――綺麗だ」


 ロルフは、ベットに乗りながらクリスティアの後ろ姿に感嘆する。

 彼女は囁き謳うような呪文も、彼女のその後ろ姿すらも。

 石の輝きを瞬かせていた杖の石は緑光のごとき瞬きを持った鮮緑の光が灯る。


「始祖、シルフよ!! 我が眼前に潜む、立ちふさがる害意にかの者を守り給え!! シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 クリスティアは目蓋を開け、眼前の色死獣(しきしじゅう)に向けて杖を突きつける。

 彼女が完全に呪文を唱え終えると、緑色の輝きを放つ魔法陣から彼女の周囲に薄青の風が溢れ出した。


『ギュルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 色死獣(しきしじゅう)は痛々しい悲鳴を上げながら、空気と一緒に溶けて消えていく。

 まるで初めから存在していなかったと錯覚してしまいそうな消え方にロルフは身体を震わせる。

 金色の杖を構える彼女の姿はロルフにとって、まるで冒険譚の主人公のように目に映った。


「……ふぅ、つっかれたぁー! 色死獣(しきしじゅう)も、もう少しタイミングって物読んでよぉ……もう!」


 クリスティアが地面に尻餅をつくと、さっきまで一緒に話していたのほほんとしたクリスティアに戻ったのを見て、ベットの中で胸を撫で下ろすロルフ。

 もちろん、そんなことを知りもしないクリスティアは、ロルフへと振り向いた。


「大丈夫だった? ロルフ君」

「はい、大丈夫です」

「よかったぁ、昨日の夜にロルフ君が眠ってから一応魔法を付与しておいていたから、そこまで不安じゃなかったのはあったから襲ってくるわけないとは思ってたけど…………やっぱり色死獣(しきしじゅう)は、匂いに敏感なんだなぁ」


 クリスティアははぁ、と重い溜息を漏らす。

 ロルフは不思議そうにしながらも、クリスティアの身を案じた。


「でも、クリスティアさんも無事でよかったです」

「あはは、ありがとう。私もロルフ君が無事でよかったよぉ……はぁ、疲れたぁ。お風呂に入りたーい!」

「この森の近くには川があるから、そこで水浴びをするのはどうですか?」

「え!? 本当!?」


 私はロルフ君の発言に思わず目を見開いて、がっついてしまう。

 ロルフ君は笑顔で、はい、と頷いた。


「じゃあ、ロルフ君も一緒に行こうよ!」

「はい! ……え? えぇええええええええええ!?」


 その時、ロルフ君の悲鳴が森中に響いたのは私と彼だけの秘密である。

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