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見習い魔法使いの世界旅路録  作者: 絵之色
第一章 透明の日々から羽ばたく日
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5色 少年ロルフと初めての食事

 クリスティアは暗い森から木々が少し開けた日差しが差す場所で、野宿をすることにした。

 少年を木々を利用した簡易ベットに寝かせて、旅行バックから取り出した布を少年のお腹にかけてから野宿の準備へと取り掛かった。

 木々の枝を集めて薪を作ったクリスティアは、周囲に燃え移らないようなるべく土が出ている部分で魔法を行使することにした。

 火種を用意するために少年を起こさないよう呪文を小声で唱える。


「我、願う。希う。サラマンダーの灯よ、眠る木々たちを糧とし命を燃やせ……チスパケマル」


 木の枝の中心に火種が燃えるように魔法の位置を調整しつつ、クリスティアは次に自分用の簡易ベットを作ることにした。魔獣が襲ってきてもいいよう、最低限の魔力を残しておくためである。

 一応、ある程度薪にくべれるようにある程度用意もしておかないと。

 クリスティアは軽く手に着いた土を払って、今日の晩御飯になる食材を探すことにした。

 少年は木々の上にいるから、このあたりの森で木々の上から襲ってくる魔獣は少ないのを知っているので、食材探しには困らないだろう。


「よし……やりますか」



 ◇ ◇ ◇



 夜になり、クリスティアは調理用の台を薪の近くに作ってから、少年と自分の分の料理を作ることにした。見つけてきた食材は数種類の果物と香草に水とフォレストラビットの肉だ。

 フォルストラビットは見た目が兎のような見た目に、身体に植物が生えているのが特徴的な魔獣だ。果物はこの森に採れる手軽な物を選んで、後は湧き水も近くに見つけたから問題はない。

 フォレストラビットの肉は果物が主食としているからか、肉が甘く柔らかくて子供には人気のお肉だ。ラビットの肉を焼くために毛皮を剥いで、丁寧にナイフで部位分けをしていく。

 多少の調理器具も調味料も、師匠から最後の食事の時に数種類貰っている。

 フライパンで、さっき取って来た香草と少量の油を入れてフォレストラビットの肉を焼く。

 焦げないよう細心の注意を払って、調理を本格的に開始する。


「…………うぅ、ここ、は……?」


 黒髪の少年は起き上がると、うとうととした目で簡易ベットから起き上がった。

 料理をしながらクリスティアは少年の方へと横目で見て声をかける。


「起きた? 僕君」

「……女神、さま?」


 私は唐突の少年の一言に吹き出しそうになるのを堪える。

 手元が少し狂いそうだから、私はフライパンを見て少年の疑問に答えることにした。


「違うよ、女神様なんて言えるほど私高貴な存在じゃないもの」

「……じゃあ、貴方は、誰、ですか?」

「ただの魔法使いだよ」


 クリスティアはフライ返しでフォレストラビットの肉を裏返しながら、少年に素直に言った。

 手慣れた手つきで肉を焼きながら、クリスティアは笑顔を浮かべる。


「……魔女、ってことですか? 魔法使いって、魔女の別称だって聞きました」

「君、頭がいいんだね」

「い、いえ。そんなことは……っ」


 謙遜してるけどきっとこの子は頭がいいんだろうな、年上に敬語を使えるし。

 この辺は田舎町くらいしかないはずだから、裕福な家庭の子供なのかもしれない。

 だとしたら、なおさら森に一人で行かせるはずがないと思うけどなぁ。


「君はどうしてこの森に来たの?」

「え、えっと、それは…………」


 少年が困ったように口籠ったのを見てクリスティアはなんとなく察し少年のためにごまかした。


「あ! 冒険譚に憧れて、友達と冒険しにみたいな感じかな。君も男の子だもんね」

「っ、は、はい! そう……なんです」

「だったら、他の子たちはもう家に帰ったりしてるかもしれないから、後で君の町まで送るよ。ここの森の近くある町はシュテルアだから、そこかな?」

「は、はい! そうなんです……ありがとうございます」


 クリスティアはフライパの上に乗ったフォレストラビットの肉を皿にのせて、木の実をいくつか別の皿に移す。そして、木製のコップに水を入れてから、フォークとナイフを持って少年の元へと近づいていく。少年は簡易ベットに座ったまま、私が皿を持ってやってきたのに驚いたようだった。


「ほら、もう遅いからご飯食べよう?」

「い、いいんですか……?」

「私もお腹空いたし、間違ってたくさん作っちゃったから、一緒に食べてくれると嬉しいな」

「……なら、ありがたくいただきます。その、下ろしてもらってもいいですか」

「いいよ、ちょっと待ってね」


 クリスティアは無詠唱で皿を風魔法で浮かばせてから、少年を簡易ベットから下ろした。

 

「ありがとうございます」

「どういたしまして! それじゃ、一緒に食べよっか」


 クリスティアは、少年と一緒に食事をとることにした。

 香草がと一緒に油で焼いたフォレストラビットの肉のステーキは、香ばしい香りが鼻腔の奥まで香ってくる。お腹がぎゅるぎゅると鳴らせる少年は、頬を真っ赤に染めた。


「…………っ」


 私はそんな少年が可愛らしくて、ついクス、っと少年に微笑んだ。

 クリスティアは少年と一緒に自分たちの目の前に置かれた皿を見た。

 少年が食べづらそうにしているので、先に私がフォークとナイフで、ステーキをパクリと一口食べる。

 香草と一緒に焼かれて生まれたラビットの肉の旨味のハーモニーが、舌の上で数多の楽器の演奏会が行われているとすら感じるくらいに充実感があった。

 舌に広がってくるさっぱりとした肉汁と芳醇な甘みにクリスティアは口の中で肉を噛みのをやめ唸る。


「んー! やっぱり、香草と一緒に焼くの、おいしいー!」

「…………香草って、なんですか?」

「あ、少年は知らない? 他の草たちと違って香りがある草なんだけど、これを一緒に焼くととっても美味しくなるの! 今度家で試してみて! 絶対ハマるから!!」

「は、はい」


 クリスティアが満面の笑みを浮かべる姿を見て、少年は警戒心が薄くなった。

 こんなに美味しそうに食べる人が自分を騙すような人じゃないという淡い期待を胸に抱く少年に、クリスティアからすれば森に一人の少年を放っておけないだけだから、変な気を使われるより素直でいてくれる方が気が楽だった。


「それから、匂いに釣られて他の魔獣が来るかもしれないから、早めに食べないと駄目だよ?」

「わ、わかりました!」


 少年が私の言葉を聞いて、急いでフォークとナイフを手に握って、フォレストラビットのステーキを食べ始める。私は自分の皿を太ももに置いて、自分と少年の分の水を魔法で唱えて持ってくることにした。


「我、願う。希う。シルフの風に揺れる可憐な花よ、我が眼前まで飛び立て……メンゲ」

「うわぁ……!!」


 薪から少し離れたところに置いておいたカップを風魔法で運んでくる。

 数距離ある場所から、ふわりとカップの中に入った水を零さないよう注意しながら、クリスティアは自分の両手で少年と自分の分のカップを手に持った。


「はい、僕君。どうぞ」

「あ、ありがとうございます……!!」 


 カップを持った私に少年はキラキラした目でこっちを見てくる。

 さすがにいたたまれなくなって、思わず少年に聞いた。


「どうかした?」

「い、いえ! 魔法を使ってるところ初めて見たので……!」

「そう?」

「はい!」


 少年にとっては物珍しい、のかな?

 まあ、魔女の素質がある人物って昔より減ってきているらしいからそうなのかもしれないのかな。


「それじゃ、ご飯食べよっか」

「はい!」


 少年が食べ始めるのを見てから、私も一緒に食事を開始した。

 少年は丁寧な食べ方だが、急ぎ気味で食事をするためのどに詰まらせかかったりして、背中を叩いたりしてあげた。気が付けば、少年はがつがつと口に頬張っていくので、クリスティアが食べ終わる前に食べきってしまっていた。

 少年は、残念そうに声を漏らした。


「あ、もうない……」


 私は自分ん分の最後のステーキを頬張ると、少年に尋ねる。


「もう少し食べたい?」

「え!? いいんですか!?」

「フォレストラビットの肉はもうないけど、果物程度ならあるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 少年から皿を受け取ると、使い終わった皿を薪近くの台に置いて、次に私は旅行バックから新しい皿を取り出すために魔法で呪文を唱えた。


「我、願う。希う。シルフの息に隠れた宝物(ほうもつ)よ、我が呼び声に答えその姿を晒せ……! ベズーヘン」


 クリスティアが呪文を唱えると、クリスティアの目の前に透明な空気の中から、旅行バックがゆっくりとクリスティアと少年の前へと現れる。


「……すごい大きなカバンですね」

「うん、錬金術で作った特別製だからね。こう見えて、入らないように見える大きい物はたくさん入るんだよ」


 師匠に入れられる物の制限をかける魔法をかけられたとはいえ、師匠からの課題で作った私の中での最高傑作ではある。どんな物でもある程度中に入ることができるから、使い勝手がいい。

 師匠から、私に『錬金術や魔法も、質量保存の法則とか関係なかったりするのよね』って、笑ってたっけ。私が旅行バックを作った時に言われた言葉だったな。しつりょうほぞんのほうそく……って、どういう意味なのか説明してもらったけど、上手く理解できなかったけなぁ。

 革製の旅行バックから少年のために新しい皿を取り出して、集めた果物を少年の皿に置いて、少年の元へと戻った。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます、あの……お姉さんの名前は、なんて言うんですか?」


 少年の隣にもう一度座り直すクリスティア。

 ……その質問をするってことは、君の名前も聞いても問題ないのかな。

 クリスティアは素直に、少年に自分のことを話すことにした。


「私の名前はクリスティア・ハートフィールド。魔法士を目指す見習い魔法使いだよ」

「え? 魔法士ですか? 魔女のクリスティアさんには必要ないんじゃ……?」

「確かに魔女として一生を過ごすなら、魔女のままでも問題はないけど……私は、クラールハイトヴェルトのみんなのためにできることがたくさんある魔法士にどうしてもなりたいんだ」

「……どうして、ですか?」


 私は自然に言うために自分の皿にある果物を一つ食べながら、少年に理由を答えることにした。


「師匠が言うには、昔の私の両親が魔法士だったらしいから……だから、なってみたいなって思ってたの」

「……だったらしい、って」

「私、小さい時、両親が魔獣に殺されたんだ。それで孤児になって……流れる形で、アヴェリスティーヌ師匠に引き取られたの」

「アヴェリスティーヌ……って、あの変人って言われてる、旅縁(りょえん)の魔女、ですか?」

「そう! 君詳しいね、でも以外でしょう?」

「い、いえ、すみません! そういうつもりじゃ、なくて、その」

「あはは、気にしなくていいよ。私からしても、あの人は変な人だもん。自由人っていうか、なんというか……で、大好きな師匠なの」

「……素敵な、師匠なんですね」

「うん、あ! でも、本人に会うようなことがあったら、絶対言わないでね? 調子に乗るから」

「わ、わかりました……その、魔女にも、専門学校みたいなところってあるんですか?」

「あったよー? 私も通ったことあるけど、でも魔女の学校って魔法についての知識を深めるための授業ばっかりだったから、今みたいに旅に出ることなんて一度もなかったんだ」

「……? 魔法士って、旅に出なくちゃ行けないんですか?」


 クリスティアはこくりと、静かに頷く。

 続けて、彼女は魔女の説明を続けた。


「師匠から、最終課題を出されるまで魔法士になれる方法を教えてもらわなかったんだ。師匠が言うには、魔法士を目指すためにはクラールハイトヴェルトを旅をしながら、師匠である魔女の推薦にふさわしい功績をいくつか得ないとなれないんだって」

「……そのために、旅をしているんですね」

「……まだ、旅を始めたばかりだけど魔法士になるために頑張るつもり」

「応援してます」

「ありがとう! 僕君は優しいね!」


 クリスティアは、小さな少年と話が盛り上がったことが今まで一度もなかったせいか、とっても話が弾んで、少し舞い上がっていた。


「それで、僕君の名前……は、聞いてもいいのかな」


 私は食べ終えた皿を置いて、両足を抱えながら少年の顔を覗く。

 彼の漆黒の夜空の瞳が、火の温かい光が(はえ)る。

 星空が私たちを包む中薪にくべられた炎が、ぱちり、と火花を鳴らした。 


「……はい。僕の名前はロルフ、ロルフ・カペルです」

「いい名前だね、ロルフ君……って呼んでもいい?」


 クリスティアは、ロルフににこやかに微笑む。

 ロルフは、嬉しそうに笑いながら


「ありがとうございます……その、クリスティアさんは」

「クリスでいいよ、君、色々話せる人みたいだから」

「ク、クリスさん。その、魔法について、教えてもらってもいいですか?」

「別にいいけど……これ以上はさすがに長くなっちゃうから、明日にしない?」

「それだと、今、聞けなくなっちゃうと思うので……ダメ、でしょうか」

「……しょうがないなぁ、じゃあ、君が食べ終えてからで、魔法についてのことだけだよ?」

「はい!」


 うわぁ、私こういう小さい子のキラキラした目、本当に弱いよなぁ。

 でも、教えたら眠ってくれるだろうし、いいかな。

 ロルフが食べ終えるのを待ちながら、私は薪が消えないように調整することにした。

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