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見習い魔法使いの世界旅路録  作者: 絵之色
第一章 透明の日々から羽ばたく日
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3色 旅たちの日

 ――――ピピ、ピ、ピピ!


「ん、ふぁああ……朝、か」


 サエドリの囀りで目覚めたクリスティアは、ぼーっとする中で両頬を叩いてから起き上がった。

 ピンクのモフモフパジャマと下着を脱いで、私がお気に入りコレクションの一つである上下が揃った白い花のレースの下着に着替え終える。師匠に渡された服を靴と魔法を行使しやすくする杖である簡易杖(かんいつえ)以外自分のベットのシーツに並ばせて順番に着替え始める。白シャツに腕を通して、ボタンを一つ一つ落ち着いて止めていく。

 師匠のお客さん関連の人たちの前で着ることが多かったので、シャツのボタンを留めるのはお手の物だ。私が普段の私服にも着ることのあるこげ茶色のニーソックスに片方ずつ足を入れて師匠から渡されたミニスカートを履いた。サスペンダーでスカートを止めてから、ローブを上から被る。

 そして最後に、赤いリボンが紙の後ろの中央にある帽子を被って質素な姿見で自分の恰好を確認する。


「うん……うん! うん、うん! 素敵!」


 姿見の前で色々なポーズをとる中、ふと気になるところを発見した。

 クリスティアは首元にそっと手を触れる。


「……やっぱり、首元がなんだかさびしいかも」


 師匠が魔法で出してくれた服は、リボンタイやネクタイのようなものがなかった。

 つまりニーハイのように自由にしてもいいところ、なのだろうか?

 クリスティアは首元に触れていた手を見る。


「あ、手袋もした方がいいかも。旅に出るんだし素肌はたぶん危険だよね……ニーハイはぁ、ギリギリセーフ……かな?」


 クリスティアはバックをちらっと後ろで一度見た後、棚に置いてある白い手袋を見つけた。


「あ、あったあった! それじゃ……」


 クリスティアは目を閉じると簡易杖を持って、手袋の方へと杖を差した。


「我、願う。希う。シルフの風に揺れる可憐の花よ、我が眼前まで飛び立て、メンゲ!」


 手袋は宙をひらひらと舞い、蝶々とまではいかないが、風に乗ってやってくる。

 クリスティアの元へと伝書鳩(でんしょばと)のように彼女の手元へとやって来た手袋にそっと触れた。


「うんうん。次はもう少し無詠唱(むえいしょう)でスマートに来させたいなぁ……よし、後は、っと」


 私は首元をとりあえず何もつけていないのは何か物足りないので、師匠にもらったレースのひだ飾りであるジャボを首に巻いた。


「うん、大体こんなものだよね……後は、最後の挨拶だけ」


 クリスティアはガッツポーズをして、そろそろ朝ごはんを食べ終わったであろう師匠の元へと一階へ向かうため階段を駆け抜けていく。

 いつもより階段を下りる足取りが軽く、そして少しの名残惜しさがあった。

 けれどクリスティアは、意識しまいと笑顔を浮かべながらリビングへと入る。


「おはよう、クリスティア」

「……おはようございます、アヴェリ師匠」

「外まで送るわ」

「ありがとうございます」



 ◇ ◇ ◇



「……本当に、お別れなんですね」

「そうね、寂しい?」

「……当たり前ですよ」


 クリスティアは涙目になりながら、本音を漏らす。

 アヴェリスティーヌは落ち着いた様子で弟子であるクリスティアに微笑む。

 余裕そうな笑顔があまりにもいつも通りで、クリスティアの物寂しさが爆発しそうだったがなんとか堪えていた。クリスティアは袖で涙を拭いて、アヴェリスティーヌに最後の挨拶を始めた。


「今日まで、面倒をみてくださりありがとうございました、旅縁の魔女アヴェリスティーヌ様。私、魔法士になるために頑張ります」

「……決意は、変わらないのね?」

「はい!」

「……なら、餞別にこれを受け取って頂戴」

「え……?」


 ひし形のエメラルドのブローチを持った師匠は私のジャボに軽く触れる。

 そして、ジャボの結び目にベルキャッチで留めてブローチが飾られた。

 私はブローチに触れながら師匠に尋ねる。


「……? これは?」

「もしも、どうしても困った時があればそれを使って私に連絡して頂戴」

「つまり、これって通信機器みたいなものなんですか?」

「それは使ってみてからのお楽しみ、貴方が挫けそうになることがたくさんあるとは思うわ。けれど、耐え忍んで耐え続けた先に、貴方のなりたい夢がきっと待っているはずよ」


 師匠は綺麗な口紅が付いた唇にそっと自分の指を当てながら微笑む。

 ……一部から、魔女、なだけに魔性の女と評されているアヴェリスティーヌ師匠だけど、ちょっと否定できないのが悔しい。

 私も負けずにアヴェリ師匠に一礼する。


「……わかりました、助言ありがとうございます」

「まだ渡すの物が二つあるわ」

「え? まだあるんですか? 師匠は心配性だなぁ」

「心配性な師匠で、困ったことはないでしょう?」

「あ、あはは……」


 師匠は無詠唱(むえいしょう)で魔法を唱えると、そこには大きな青色の石を取り込むように黄金の杖が現れた。

 あまりにも立派な杖に私は釘付けだった。


「わぁー……すごい! こんな品、師匠がくれるんですか!?」

「当たり前でしょう、弟子の将来、使い続けるであろう品なのだもの。丹精込めて作ったから、受け取って」

「は、はい! ありがとうございます!」


 よくよく杖を見れば、錬金術で作られたのだろうとすぐ推察できた。

 杖の全体的に金色で、角か何かのようなしなやかさがある。

 その杖の上の方に、硝子のような白い羽根がある。

 その隣には月のように囲まれた中にある青い宝石、いや、水晶のように巨体で、ネオンブルーアパタイトのように煌めく大きい空色の石がはめ込まれている。

 そして、月と杖の部分の間の部分から持ち手となる部分に巻かれている深紅色の長いリボンがつけられていた。

 私好みの、とっても素敵な杖だ。


「そして最後の贈り物は、これよ」


 師匠がそう言うと手品をしたかのように手から綺麗な見慣れた卵が出てきた。


「わ! え? サエドリの卵? ……どうして」

「私が弟子を魔法士に送り出す時は、必ず相棒としてサエドリのを持たせるルールがあるの。クリス、貴方にももちろん従ってもらうわ」


 唐突の師匠の発言に目をパチクリとさせながら、卵を見る。

 今日から私の相棒……なんだ。この子が。

 まだ、この子は孵っていないけれどいつか私の相棒になる子だと思うと、余計愛着が湧き始めている自分がいる。


「あの、この子の名前って?」

「貴方が決めなさい」

「え!? で、でももし私を見なかったら、親鳥だって思わないんじゃ……!」

「それは貴方が注意してその子を育てればいいだけでしょう。いつまでも怯えていたって、冒険は始まらないのよ」

「う、うぅ……否定できない」


 でも、師匠がこんなに物を持たせてくれるなんて、正直言って意外というか。

 ある意味、寂しくないようにっていう師匠なりの気遣いなのかな?

 ブローチもそうだし……いや、まさかな。


「でも、魔法士になるためには乗り越えなくちゃいけない壁ですよね。やってやります」

「その調子で頑張ってちょうだい。まあ、音を上げる用ならいつでも私の屋敷に戻ってくるのね。その時は、頭を撫でて慰めてあげるわ」

「……それって、応援してくれないじゃないですか! もう!」


 私はぎゅっと優しく私の相棒になってくれるサエドリの卵を鞄に入れる。

 杖を手に取って、師匠に微笑む。


「簡単な諦めるような夢だったなら、そうしろと言うだけよ」

「……ふふ、絶対ないです! だって、私は絶対に魔法士になるんだから!」

「そう……行ってきなさい」

「……はい! 行ってきます!」


 彼女の愛する世界、クラールハイトヴェルトはこれからたくさんの色を少女に見せるだろう。

 時には穏やかな日常の色を、時には苛烈な非日常の色を。

 けれどきっと彼女は振り返らずに前へと進んでいく。

 これは、彼女が魔法士という夢を叶えるための、冒険譚の始まりの日である。

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