2色 旅立ちへの準備
唐突の最終課題宣告により、私は朝食を食べ終えてから急ピッチで荷物をまとめていた。
「もう、師匠も唐突なんだから……!!」
クリスティアは頬をむぅっと頬を膨らませながら、今回の旅のための品々をバックへと仕舞っている。荷物を入れているバックはアヴェリ師匠と一緒に錬金術で作った革製の旅行バックで、私好みにカスタマイズしてある世界に一つしかない私だけの特注品だ。
いろんなものが収納できるから便利だろうなーと作った時は喜んでいたのだが、なぜか師匠が作った直後に魔法をかけて私が成長すればするほど収納が増えていくようにさせられたのは、今でも不満だ。
ハッと気づいたクリスティアは整理する手を止めた。
「……もしかして、こういう時のためにわざと……?」
私は鞄のの方に視線を向ける。
師匠の真意はそれだったのかもしれないと淡い期待交じりの答えを口にした。
師匠は基本的に厳しいけど、優しいところは優しい……けど、でもこういう時も何か理由があることがいくつもあった。だから、その可能性はきっとゼロではないとは思う。
「って! 明日には出立するんだから、急がないと……!!」
クリスティアは首を横に振って作業に戻る。
とりあえず自分用の日用品はもちろん、お気に入りの衣服や、医療キットと魔法薬を少々。
……よし、旅に出るのだから生傷も考えてこれくらいでいいだろう。
「よし! 後は……うん! 全部入れられたかな」
額に出てもいない汗を腕で拭うとコンコンコンと、ノックが三回扉から聞こえてくる。
……間違いなく、師匠だよな。
一体、何の用だろう?
「クリス、入ってもいい?」
「はい! どうぞ」
ガラッと師匠は私の部屋の扉を開ける。
入る前笑顔だった師匠はすぐに眉をハの字にさせて、あからさまに呆れていた。
「……まだパジャマだったの?」
「だ、だって師匠が明日にここを立てって言ったんじゃないですか! 着替えてる余裕なんて――――――へぶ!」
強烈のデコピンをクリスティアを喰らわせるアヴェリスティーヌ。
クリスティアは悶絶して、ベットの上で額を抑えたまま一度ベットへと沈む。
数分悶えながら、クリスティアはアヴェリスティーヌをキッと睨む。
「っふ、ふぃ、っふ……っふ、な、何するんですか!! 師匠!!」
「そういう無頓着なところもこれからの旅で磨いてきなさい。旅でそんな甘えなんて言ってられないんだから」
「デコピンした意味は!?」
「怠けている弟子への師匠による正当な制裁権利です。拒否権は貴方が私の弟子である限り認めません」
「そ、そんなぁ……っ!!」
「ちゃんと着替えてたならしなかったわよ、自分の怠惰を恨みなさい」
「うぅ…………っ」
抗議するも、師匠の正論に黙らせられるクリスティアはずきずきと痛む額に涙した。
「それで、師匠は、一体何しにここへ?」
「渡しにきたものがあるの。受け取ってちょうだい」
師匠は人差し指を立てて私に向けると、ポンと音が鳴ったのが聞こえると私の太ももに服が現れる。可愛らしい赤いリボン付きの帽子と、貴族でも着そうな金糸をあしらった刺繍が施されたローブ。
白いシャツとシンプルなサスペンダー、そして帽子とローブと同じく濡羽色のミニスカートと靴が出てきた。私は無詠唱で出現させた服たちに、私は思わずうっとりと見とれてしまう……それに、やっぱり師匠の無詠唱で簡単に物を出現させるのには本当に尊敬してしまった。
「わぁー……!! 師匠、これって一体なんですか?」
「宮廷魔法士を目指す魔女専用の衣装よ。旅では基本的にこれを着なさい」
私はじーっと師匠が出してくれた服を手に取って師匠に聞く。
師匠の言葉を聞いて、私はピキっと一瞬だけ凍り付く。
……私が幼い頃に母に呼んでもらった冒険譚も、服とかどうしているのかなーとか、色々思ったことがあったけど、念のため、ここは聞かずにはいられないだろう。
「毎日、ってことですか?」
「予備も何着か用意してあるわ、さすがにもし泥や魔物の血とか、洗い落としきれないでシミにでもなったら他の見習いの魔女たちの子に下に見られるでしょう?」
「あ、あはは……ありがとうございます、師匠」
「どういたしまして」
師匠はまた指を立てるとポン、とさっき師匠が出してくれた衣装と同じ物が数着ベットへと並べられた。クリスティアはホッと胸を撫で下ろすと、アヴェリスティーヌは注意深く言う。
「この服は明日の朝になったら着るように、いいわね?」
「は、はい! わかりました!」
師匠に敬礼すると、穏やかな笑みを浮かべながら私の部屋を去った。
クリスティアはまた服をバックに詰める作業に戻ると、最初に師匠が出してくれた衣服を手に取る。
「……この服たちを着て、私は明日旅経つんだなぁ」
……師匠は、あんまり寂しがるタイプじゃないよな。
師匠が言っていた他世界でのことわざで、『去る者は追わず、来るもの拒まず』なんて言葉があるそうだけど、基本放任主義なところが師匠にはある。
でもこういう時に心配してくれるってことはあの人なりの優しさであり、気遣いで……私を弟子と認めてくれているからこそのお節介、なんだとは思うから。
「私も、旅縁の魔女アヴェリスティーヌの弟子として! そして、魔法士になる者として、頑張らないと!」
その日、クリスティアは荷物をまとめ終えると、アヴェリスティーヌとの最後の食事を済ませ、翌日までゆっくりと眠りにつくのであった。