僕、冒険者になりたい!
勇者と魔王の死闘から24年ほどが経過し魔王城では今日も元気にとある家族が暮らしていた。
「「「「いただきます」」」」
兄妹が机を囲んで声をそろえて言う。これから夕食の時間のようだ。
この兄弟は、勇者ジークとその妻ソフィアの子供たちである理由から生まれたときから魔王城に住んでいるのだ。
「ん~!!やっぱヨルさんの料理は最高だぜ!。ヨルさんおかわりっ!!」
この赤髪でムキムキの巨漢はギルガメッシュ・ビルフォード。
四人兄妹の一番目の子供で年は22。みんなからギルと呼ばれ慕われている、家族想いのいい漢である。
「お褒めいただき誠に光栄でございます。」
この青い左目、黒い左目を持った笑顔が似合う高身長青髪イケメンはヨルムンガンドのヨルさん。
ひょんなことから勇者と共に行動するようになり、今は四人兄妹のお手伝いさんとして魔王城で暮らしている。
「ちょっと兄さんもうちょっと綺麗に食べてよ。」
この赤髪ロングでグラマラスな体型の美人はエリザベス・ビルフォード。
四人兄妹の二番目の子供で年は18。みんなからはエリーと呼ばれている、しっかり者のお姉さんだ。
「あ!悪りぃ、悪りぃ。次は気をつけるわ!!」
「全く.....」
「エリ姉言っても無駄だよ。脳筋は学習しないんだから。」
この銀髪が煌めく少女は、ララ・ビルフォード。
四人兄妹の三番目の子供で年は13。口が悪い悪魔的少女である。
「勝手に言っとけ。ぺったん娘」
「うっさい。筋肉オバケ」
「お兄ちゃん。ララお姉ちゃん。喧嘩しちゃダメ!!」
二人の喧嘩を止めるこの銀髪がよく似合う男の子は、アーサー・ビルフォード。
四人兄妹の四番目の子供で年は9。とても可愛らしい男の子であり家族が大好きな子だ
「ごめんね。ギル兄。脳筋とか言って」
「俺の方こそ謝るよ。」
今にも泣きだしそうな目の前の天使を前に二人はし考える暇もなく仲直りを実行する。
「はいはい。あんたら、さっさと食べちゃいなさい。せっかくのおいしい料理が台無しよ?」
「「「はーい」」」
ギルガメッシュとララ、アーサーは元気よく返事をした。
夕食を片付け、程なくしてギルガメッシュが口を開いた。
「それはそうとアーサー、話ってなんだ?」
「うん、ぼ.....僕ね....冒険者になりたいんだ!!」
「「「え!?」」」
「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!!??」」」
ギルガメッシュ、ララ、エリザべス、三人の大声が城内に響き渡った。
「ぼ、ぼ、ぼ、冒険者ぁ!?。アーくん、冒険者になりたいの!?何で!?何で!?」
かなり取り乱した様子でララが聞く。
「......外の世界を見てみたいんだ」
「.....何でそんないきなり!?」
エリザベスも取り乱した様子で聞く
「......アーサー、気持ちはわかるけど、外の世界はお前が思ってるよりいいものじゃないぞ。」
「.....。」
「何より危険だ。俺でも冒険者になったのは16才の時、お前は9才。あまりにも早すぎる。せめて16才になってからじゃないと、」
「でも.....どうしても見てみたいんだ。」
「うーん....この話は後日にすることにしよう。」
「......わかった。」
四人の間に重たい空気が流れる。
「じゃあララは部屋に戻るね!アーくん行こ!」
「.....うん。」
二人はそう言って部屋から出ていった。
それから4時間ほど経ち深夜、とある部屋で怪しい会議が行われていた。
「ララ。アーサーは寝ているな。」
「うん何度も確認したよ。ばっちり眠ってる。」
「よし、なら大丈夫だ。」
ギルガメッシュは真剣そうな面持ちでそう言った。
「ではこれよりアーサーの成長を見守ろうの会の儀を始める。エリー今日の議題を。」
「皆知っていると思うけれど、今日アーサーが冒険者になりたいと言い出したわ。これが今日の議題よ」
「本当に困ったな。アーサーがあの歳で自分のやりたいことを見つけた、それはめっちゃいいことだ。でも、でもそれ以上にアーサーを外に出すことによる危険の方が高すぎる!。俺たちはどうすればいいんだぁぁぁ!!」
ギルガメシュは叫んだ。
「うるさい、ギル兄!!アーくんが起きちゃうでしょ!!」
ララは声を張り上げ立ち上がった。
「ララ、あんたもね」
「あ.....」
「.....それよりどうするの?アーサーのこと」
「本来なら親父やお袋も交えて話さないといけない事なんだがな....。」
「いつ戻ってくるかわからない母さんや父さんの話したってしょうがないでしょ。」
「そうだよな.....悪りぃ。」
彼らの両親は基本的に放任主義であり、子供たちを置いてずっとどこかに行ってしまっているのだ。尚且つ詳細は子供たちにも不明にしており、基本的には謎なのだ。
「ララは......ララは.....アーくんを冒険者にしてもいいと思う....。」
「本気か?」
「うん。ララはアーくんの事が大好きだし、大切だし、どこかに行ってほしくないけど、ララはなによりアーくんの気持ちを尊重してあげたいの。」
「そうかぁ.....でもなぁ.......」
少しの静寂が流れたあとエリザベスが口を開く。
「一回、外に出してみるのはどう?誰かを付き添わせて」
「それも問題を先送りにしているだけな気もするが.....悪くないな.....」
「決定ね!」
「じゃあララがアーくんと一緒に行く!」
「却下、お前じゃアーサーと同じで幼すぎる。やはりここは俺が適任だろ!!」
「残~念!兄さんは一家の責任者代理として家に残るべきね!!ここは私が行くべきよ!」
「お前は外の世界を知らないだろ。アーサーの付き添いはは外の世界を見たことがある奴じゃないと務まらない。だからやっぱり俺が適任なんだよ。」
「アーくんの付き添いっていう大事な仕事が脳筋に務まるわけないでしょ。やっぱりアーくんの事を一番理解しているララが行くべきだよ。」
誰がアーサーの付き添いとして行くべきなのかと、建前と欲望による駆け引きが行われている。やはり3人ともアーサーと一緒に居たいのだろう。
「ギルガメッシュ様、エリザベス様、ララ様ここは私が行った方がいいと思うのですがいかがでしょうか?」
それまでずっと無言で見守っていたヨルさんが急にしゃべりだす。
「「「え!?何で!?」」」
「私なら、ここにいる誰よりも外の世界について詳しいですし、アーサー様を守る力も有していると自負しております。いかがでしょう?」
「確かに....ヨルさんなら問題は.....ないか......。」
「そうね.....」
「う...うん」
「では私が責任をもってアーサー様を守り抜きます。」
「「「お願いします!」」」
「ではこれをもって会議を終了する。」
次の日.....
「色々あってヨルさんの付き添いでアーサー、お前を外に出すことにした。」
「やった!!」
「ただし、絶対にヨルさんと一緒に居るんだぞ!くれぐれも一人で行動するなよ。」
「わかったよ!」
「本当にわかってんのか.......」
こうして冒険者を目指すアーサーとその家族の物語は続いていくのであった。
次回「アーサー、初めての世界」編お楽しみに。