30.ギルマス氏と再会②
「小さな頃に色々あってそのまま田舎を飛び出した、か…」
「はい、家族の縁が薄かったもので…みんなが知っているような事を知らなかったりするんです。だから、魔法も…。基本的な事だけで良いので教えて貰いたい…そんな感じです」
親父、お袋…なんかごめん。二人共早死にしちまったが、決して縁は薄くなかったと思ってるからな。
「なるほどな。従魔は…一緒に受けるのか?つまらんだろう」
「猫吉先生、外に遊びに行くか?」
「にゃーん(一緒にいるぞ!)」
「つまんないかもよ?」
「にゃん(一緒にいる!)」
猫吉先生が俺の膝の上でご機嫌そうに返事を返した。
「…一緒に受けるそうです。構いませんか?」
「もちろん。くくく…面白いよな、お前たち。それじゃぁ早速だが…まずは魔法の基礎の基礎の話からだがな、自分の魔力量は知っているか?」
「…はい」
「そうか、じゃぁ教会へは行ったんだな」
「えぇ…」
なんだ?教会って…。
教会に行くと魔力量を教えて貰えるのか?
「教会もあれだよな、最近じゃ、魔水晶で飯食ってるみたいなもんだから」
「そうですよねぇ」
サラリーマン時代に培った悪癖、“意味不明でもとりあえず相槌”を発動する。
若い奴らは知らないだろうが、ひと昔前はこれがマジョリティだったんだぜ(俺調べ)。
魔水晶というもので魔力量が見えるという事らしい…無限メモ帳にメモる。
ネタの取材だと思えばなかなかに楽しい。
なんたって魔法についての取材だぜ。こんな事、なかなかできる事じゃない。
「今、ペコペコ暦1998年だから、あと2年後か。来年くらいにはまた教会も騒がしくなって、お布施も増えるだろうよ」
「え?何かあるんですか?」
「お前…まぁ…若い奴らは興味もねぇか…。えーっとな、100年おきに女神が顕現するって言われてるんだ。それで次の顕現がペコペコ暦2000年らしいんだよ」
「へぇぇ…」
「ほら、各教会には女神像があるだろう?世界のどこかの像に顕現するって話だぜ」
「そうなんですか…」
よし、教会に行こう!
教会に行ってコスプレ女児の像があったら…なんとなく腑に落ちる気がする。
美女が祀られてたら、謎は深まるけどな。
「魔力は思春期頃に確定して、それ以上は増えないって話ですが…魔法の種類は増えたりする事ってあるんですか?」
「うーん。聞かないなぁ。ただ、隠している奴もいるだろうから、本当の所はわからねえ。それに、大人になって働きだしたら、冒険者でもしていない限り、わざわざ教会に行ってまで何度も調べたりしないだろう?気付いていない奴らもいるかもしれない」
「そうですよねぇ…。そう言えば…魔力量ってだいたい平均って、どの程度なんですか?」
「そりゃぁ100の奴もいりゃ10000なんてとんでもない奴らもいるからなんともな。まぁ、そうだなぁ…1000くらいあれば、生活魔法や簡単な魔法なんかは、安心して使えるだろうし、3000くらいあれば、冒険者として有利だよな。人の魔力量なんて教えあったりはしないから、平均と言われると正直な所、わからんが」
「そうなんですね」
「それで…どういう事を知りたいんだ?」
「今使える魔法の事を詳しく知りたいっていうのと、もう少し使い勝手を良くするにはどうしたら良いかって相談ですかね。あと、従魔の魔法に関しても知りたいんです」
「なるほど。それは…従魔の使える魔法を知っているって事か?」
「はい…はい?」
教会では従魔の魔法は調べる事が出来ないって事かな?
き、聞けない…聞き方がわからない…。
「…ふむ。まぁいい、さっそく訓練場へ行くぞ。行きながら話をしよう」
「はい、宜しくお願いします」
§
「ええと。基礎的な訓練に加えて、知りたいのは俺の『結界』という魔法の事で、結界の強度を鍛えたり、範囲を広げたりという事が出来るかどうかを知りたいんです」
「はっ、お前、白魔法持ちかよ!」
結界は白魔法。メモメモ。よし、俺は白魔法だけ持ちという事にしておこう。
「え?…は、はい、そうなんですが、小さな結界ですよ?それしか使えません」
「いや、使えるだけでも凄いだろうよ。名のあるパーティーからスカウトされてもおかしくねぇ」
「いえいえ…俺はそういうのは向いていないんで。非戦闘系ですから」
「もったいねぇなぁ。でも結界だと、結構魔力を持ってかれるって話だから、そこそこ魔力はあるんだろうな?」
「そうですね…冒険者として困らないくらいには…」
暗に3000程だとほのめかす。嘘は言ってない、一言も言ってはいないからな。
「冒険者やればイイ線いきそうなんだがなぁ」
「いやいや。そ、それと従魔の魔法だかスキルだかに関して何ですが…」
「なぁ…従魔の魔法はどうやって知ったんだ?」
「え?…えっと…頭に急に流れ込んできて…」
「へぇぇ。そういやお前さんたちは、意思疎通が完璧だもんな。ふぅん…そんな事があるのか…やっぱりすげぇよ、お前ら」
「凄いかどうかはわかりませんが…その、聞いた事のない魔法だかスキルだかで、どんなものだか知りたいんです」
「あぁ…そう言う事なら、この国なら王都と…どこだったかど忘れしたが、どっかの町には魔法についての資料があるぞ」
「え!?資料って魔法のですか?」
「そうそう。大抵の魔法とスキルが網羅されている資料があるんだ。この国にはその二か所にあるはずだ。あれは女神が顕現した地にだけ置くって決まりだからな。巡礼させて資金源にしてるんだろうよ。それにしてもお前さん、本当に何も知らないんだな。まぁ、家庭の事情ってやつは難儀だよ。子供は親を選べねぇ」
かさねがさね…父上、母上、なんか…すいません。
「申し訳ない…」
「よせやい、謝るな。俺が聞いても良けりゃ聞くが、俺も知らなければ答えられないから、王都かナントカ町に行ったら教会で調べてみるんだな。そこの教会に行けば町の名前は教えて貰えるから」
「わかりました。えぇと、それで…『口砲』っていうんですが、ご存じないでしょうか?」
「『口砲』?…聞いた事がない魔法だな。だいたい従魔の魔法やスキルがわかるなんて、尋常じゃねぇよ」
「そうなんですか?」
「みんながみんな従魔と意思疎通が完璧に出来るわけじゃないって事がわかってねぇな?そりゃ、従魔が使う魔法が初級攻撃魔法なんかに似ていれば、それが使えるなってわかるだろうが…普通はそれくらいのもんさ」
下手に聞かないようにと頑張っていたのに、そもそも従魔の使う魔法を飼い主が知らないなんて思いもしなかった。
色々教えて欲しいけど、聞き方が難しい。
§
「魔力は増えないが、魔力を体に上手く循環させることで、良い影響がある。例えば発動までの時間が短くなったり、魔法の使用時間が長くなったり。使用魔力量が少なくて済むようになることもある。だから、まずは魔力を好循環させる事が一つ目だ」
「はい」
「にゃん(はい)」
いつもの定位置で先生も一緒に返事をしている。
いかついギルマス氏の顔が緩む。怖い。
「なんだか、俺の話している事も理解しているみたいだよな」
「わかっていると思いますよ?」
「え?そうなのか?」
「え?…はい」
何気ない相槌だけでドツボに嵌る俺は一体。
従魔は飼い主以外とは意思疎通が出来ないのか?…先生は従魔じゃないけれど、従魔って…なんなんだ?
「簡単な言葉を理解する賢い従魔もいるが…飼い主以外の言葉を…会話を理解するってのは…なぁ、ルノム。あんまり人様に言いふらさない方が良いぞ」
「わかりました…」
ギルマス氏は悪い人じゃなさそうだけれど、こりゃ、他では相当気を付けないとダメだな。
§
ギルドにある訓練場に到着した俺達。
猫吉先生は訓練場の匂いを嗅ぎまくっている。マーキングするなよ…。
「それじゃぁ、手を出せ」
そう言って俺の手を前に出させて、ギルマス氏はその手を下から支えた。
なんていうか、俺が両手で“お手”している状態。違うな、ダンスとかする時みたいな感じか?したことないけど…。
そしてギルマス氏は俺の手をぎゅっと握り込んだ。
そういう趣味はありません!と言いたくなったが、ぐっと堪える。
これが魔力循環と無関係なら先生に猫パンチしてもらうけど!




