24.マイラップ
門の所にいたRPG風の田舎の兵士風兵士に身柄を渡す。
ちょっと嫌な顔をしている。わかるよ、普通に臭いからな。
小さくなったというか、元のサイズに戻った猫吉先生を抱っこしながら、兵士風兵士には聞こえないように、「もし取り調べで嘘をついたら一人ずつ潰す。こいつは全員の匂いを覚えたから、どこに逃げても絶対に潰す」と、チンピラ5人組に嘯いておいた。
未遂だしすぐに釈放されるのだろうが、これくらいのお灸は据えても良いはずだ。
猫吉先生の力で脅す、まさに口だけの俺。どっちがチンピラか、怪しくなってきた。
ダメもとで兵士に事の顛末を話して、ギルドの依頼を受けている最中だから、また依頼を済ませに戻りたいと言ってみた。
こちらに非がない事は、泣きながら「ごめんなさいごめんなさい牢に入れてください」と、わめくチンピラ5人組を見ても明らかだったからか、なんと俺達はその場で解放された。
自分でお願いしておいてなんだけど、まさかの即解放。
これは…こういう事件がよくあるって事なんだろうか。
この分だと、こいつらもこの場で釈放されてしまうのかもしれない。
とんでもない世界だったりして…少し不安になる。
兵士に宿屋を告げてから、せっかく散歩にケチが付いただなんだと猫吉先生はぶぅぶぅ文句を言うのを聞きつつ、また採取をしに町の外に戻った。
それにしても先生には驚かされたぜ、という話になる。
「そんなにでかくなるなんて、知らなかったよ」
「我も驚いた…我はサイズが変わるんだな」
「え…先生も知らなかったのか?てっきり大きくなって魔獣を倒していたのかと思った」
「違うぞ。でも、便利だと思ったが…大きくなって魔獣を狩ると、傷が大きくつくかもしれんな…ふむ…」
「へぇ…先生、意外とそう言う事をちゃんと考えるタイプだったんだ」
「意外と…」
しまった、先生が凹んでしまった…おやつを進呈しよう。
§
それから3時間程経っただろうか。無事に依頼ノルマは達成できたが、結構町から離れてしまったので、そろそろ戻った方が良いかと腰を上げた時、
「ルノム、こっちに何か来る!」
「ど、どこ?またチンピラか?」
「ルノムはそこにいて」
「わ、わかった」
魔獣だ!魔獣がいっぱいいる!
生きている魔獣、初めて見た!
これは壮観。サファ〇パークなんてもんじゃないぞ。
こいつの名前は知っている。
旅の始まりにふさわしい魔獣。アラージという角の生えた兎だ。
俺だってもう、ギルドの資料室でのリサーチで、基本的な魔獣の種類はちゃんと頭に入れているからな。
そう、このアラージとスライムが初級魔獣のお約束。
通常の先生と同じくらいのサイズのアラージがわちゃわちゃしている。
遠くから見るとぴょんぴょこしていてちょいと可愛いな、なんて思ったのに…もの凄いスピードで近づいてくるにつれ、どんどん可愛くなくなっていった。
なんだよあの爪。怖すぎるだろ…。
猫吉先生、すまねぇ。
自慢じゃないが俺は足がすくんで動けないから、後は頼んだ!
ゆ、雄姿を見せてくれ!
狂気な面構えでこちらに向かってくる…恐い怖い恐い怖い…そう思っていたら、突然脳裏に『結界展開:YES/NO』と出る。
結界…って防御系のアレ、だよな?
どんなものかわからないけれどYESYESYES。
頭で強く念じる。
途端に俺の周りに球体のクリア板のようなものが出現した。
これが結界?また…クリア板?
脳内表示がまんま、タブレットの『猫吉楽食便』、お取り寄せグルメの『解凍処理をしてお届け:YES/NO』と同じ感じだった。こんな時に何だが微妙な気分。
触りたいな。俺が出したんだ、触っても良いよな。
先生の雄姿をクリア板の向こうに確認しながら、勇気を出して人差し指を出す。
――つんつん
意外に柔らかい素材だ。不思議な弾力がある。
見た目はゾーブ?だったか?あれにそっくりだ。巨大な球体の中に人が入って遊ぶ、あれに似ている。
これは…ラップ?ラップをもの凄ーく丈夫にしたような感じ。
そういや俺、この球体から出られるのかな。
ずっとこのままとか…嫌だぞ。
さらに人差し指で強く押してみる。
少しの抵抗で指だけが、つぷん、とラップの外に出た。
弱っ!
俺の結界とやら、俺と同じく弱すぎだろう。
これでは全く使い物にならないではないか。
別に出られない訳じゃないみたいだから、まぁ良いがな…そう思って俺はその場から出てみようと一歩足を踏み出した。
だが、俺が一歩動くと球体も一歩動く。
出られるが、出られない。
球体の中で先生の活躍を応援すると決め込んだ。
俺がつんつん結界をつついている間に、先生はアラージをどんどん屠ってゆく。
量が多いだけで戦闘能力に差がありすぎて…なんというか…素人ながら安心して観戦できる。
ボケーっと先生と大量のアラージとを見ていたら、急にアラージの一匹がこちらに向かって突進してきた。
いいい一匹なら、おおお俺だって!
手にある採取用ナイフをぐっと握りなおす。
俺に向かって突進してくるアラージに気づいた猫吉先生、こちらに向かって同じく突進してくる。
いやいやいや…先生もそんなに突進してきたら、俺も吹っ飛ばされそうだから。
それにしてもアラージは素早い。アッという間に俺の目の前に…。
あ…やべぇ、これはダメなやつだ。
俺はナイフを握ったまま、ぎゅっと目を瞑ってしまった。
敵前降伏。もちろんそんなものは魔獣には通じないだろう。
詰んだ…。
――ぼよよん
衝撃を覚悟していた俺、何も起こらないのを不思議に思い、薄目を開ける。
ちょうど俺の結界とやらに弾かれたらしい魔獣が、ぼよよんと自らの突進の速度と比例した様で、勢いよく吹き飛ばされていた。
おぉぉぉ!アラージ一匹なら防げる結界だった!
弱っ!とか思ってごめん!
先生はそれを見て安心したかのように、俺の結界の前に陣取り、例の「シャー」をやっている。先生を追ってこちらに向かってきていた残りのアラージは、見事に気絶してしまっていた。
「シャー」…すげぇな。
生き物はマジックバッグには入らない。
しかし、気絶しているアラージを絞めるのは…嫌だな。
魔獣は“もし生け捕りに出来たなら、研究材料として買い取ってくれる”と、ギルドの資料で読んだ。
手足をしっかり縛り上げる事を条件に、町に運び込んでOKという事だった。
俺は五人六脚ですっかり手際のよくなった縄捌きを披露。気絶したアラージの手足を縛り上げた。
横では猫吉先生が哀れなアラージ達の死骸を、よだれ掛けにしまい込んでいる。
自分だけマイラップの中に隠れていたし、いざ魔獣を前にして思いっきり目を瞑ってしまってなんだけど…アラージくらいは倒せるようになりたい。
チンピラの件もあるし、最低限、自分を守れるくらいにはなりたい。魔獣を目の前に、目を瞑ってしまわないようになりたい。
せめて…戦う先生の邪魔にならないくらいの存在になりたい。
そんな事を思って、空中で一人のの字を書きながら、我が身の不甲斐なさにしょんぼりとしていたが、先生が何やらしきりに騒いでいる事に気が付いた。
「入れて入れて!」
入れてって…何だ?
「猫吉先生、何を入れるんだ?」
「そのルノムの周りの丸っこいの。どこから入るんだ?」
「周り?あ…そうだった。解除!オフ?ひっこめ~!」
すっという音もなく、俺を守ってくれていた球体が消える。
猫吉先生が飛びついてきた。
俺は先生を抱き上げナデナデしながら、存分に活躍を褒めちぎった。
気絶しているアラージ達を麻袋に入れていたら、先生が運んでくれると言って1mサイズになった。
自由自在かよ。凄いな、早速使いこなしているじゃないか。
町に入る時に先ほどチンピラ5人組臭に顔をしかめていた兵士が、気絶しただけのアラージを運ぶとギルドへ連絡を入れてくれる。
そういうルールになっているらしい。すぐに屈強な男たちがガヤガヤとやってきた。確かに…死んでない魔獣をそうそう町には入れられないよな。
1mサイズの先生をみんながガン見してくる。
先生はキジトラだ。このサイズだとまさしく虎。
猫吉先生、かっちょいい!




