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23.五人六脚

 先生が戦ってる姿か…俺も一度は見てみたいな。採取依頼、受けてみるか。


 依頼書をカウンターへ提示し、ギルドタグに依頼中の刻印を入れてもらう。

 受注したのは期限の長い、いつも張り出されているような初心者用の採取依頼だ。これならまず失敗はしないだろうが、依頼の未達成が続くようならばスターの取り消し、いわゆる降格処分もあるという。この刻印は依頼状況を管理するためのものらしい。


 その足でさっそく町を出ようと門に向かって歩いていたら、猫吉先生がとある店の前から動かなくなってしまった。

 ここは…従魔用の魔具を装着してもらった装飾品店じゃないか。


 猫吉先生は店の中をじっと見つめている。

 動かない…ここ、冷やかしでは入りにくいんだがな…。


「いらっしゃいませ。おや…今日はいかがいたしました?」


「すまん。俺の従魔が店先で動かなくなっちまってな。少し中を見させてもらっても構わないか?」


「左様でございますか。どうぞどうぞ、ご自由に」


 先生は陳列棚の間をさまよっている。

 その様子を見ながら俺は店主に聞いてみた。


「なぁ…魔法の事に店主は詳しいんだろう?」


「そうですねぇ…魔法付与についてでしたらまぁ、職業ですし」


「変な事を聞くけど…魔力ってのはいつ頃出てくるとか…みんな決まっているものなのか?大人になって急に増えたりとかする時期ってあるのかな?」


「そうですねぇ…。その…男女とも…思春期を迎えて体が大人にと変わる頃に魔力量が定まるのが一般的で…それ以外で急に増えるという事は…あまり存じませんねぇ…」


「体が大人になる頃に魔力量が決まって、それ以降はあまり増えたりはしないって事だよな?」


「左様です。その後に増えるというのはあまり聞いた事がありません…」


「そうか…変な事を聞いてすまなかった。どうもありがとう」


 聞きたい事の半分も聞けてはいないけれど、とりあえずはこれでも十分な情報だ。

 俺の体の変調というか…あの謎のスッキリ感が妙に気になっていたんだ。

 

 体が正常な状態へとリセットされて、体の中に魔力とやらが正しく循環され始めたのかなと推測していたんだけど。なんとなく俺の考えは当たっているような気がする。

 

 なんせ転生したんだ、思春期と二十歳、若干の時差は誤差だろう。

 もう少し詳しく聞きたいけれど、聞きようもない。

 諦めよう。この諦めの早さが俺の良い所だからな。


 猫吉先生を見ると、ひとつの陳列棚をじっと見上げている。その棚には小さな宝石がいくつか置かれていた。

 抱き上げて陳列棚を見せていると、どうやら二つの小さな金色の宝石を見ているようだった。


 価格の横に魔法付与“増幅”と小さく書いてある。

 何が増幅されるのかは書いていない。

 だが、これはたぶん…お守りみたいな感じなんじゃないかと思う。

 何故なら値段は二つで白金貨5枚だから。俺からしたら非常に高額だが、この店の宝石としては安い部類。


「先生、それが気に入ったのか?」


「う…うん…」


「そうか」


 先生がすんごく欲しそうな顔をしているのを見ると買ってやりたい。買ってやりたいが…贅沢品を買うよりは今は金を貯めたい。それが猫吉先生が稼いだ金だとしても!

 俺が迷っていると店主が近寄ってきて囁いた。


「稀に自分と相性の良い宝石を見極める者がいると申します。もしご購入できるようでしたら是非。あの様子でしたら…損はないと思いますよ」


 商売下手な店主だとばかり思っていたのに、ただの商売上手だったが。


「なぁ、この増幅ってどういう意味だ?」


「持ち主の持つ性質のうちの“何か”を増幅させるものです。それが何かはわかりません。それに…効果のほども持ち主の力量によりますので、それも、わかりません。ただし、増幅している間は宝石が少し違う輝きを放つはずですから、身に着けていればわかるでしょう」


 にっこり笑いながら言う店主。わからないだらけのものが白金貨5枚…。

 その間も宝石をじっと見つめている猫吉先生。

 ゴールデンジルコンという宝石らしい。石の良し悪しはまったくわからないけど、猫吉先生の閉じられた瞳の色に似ていた。


 ぐぐぐ…俺は猫吉先生には弱いんだ。

 宝石の前から動けなくなっている先生を見ていると…くそっ。

 明日からお好み焼きを売りまくるぞ!と決意して、清水の舞台から大ジャンプした。


 俺達の魔具に宝石を付けてもらう。タグにはめ込まれた黒い石の横に金色の宝石がプラスされた。そう、先生の魔具に一つ。俺の持つ魔具にも一つ。


 お好み焼きを売りまくる算段をしながら、町の外へ出る。

 外と言っても、今日受けた依頼は町や町に続く道周辺の採取で済むものばかりだ。

 決して危険な依頼を受けている訳ではない。


 まずは町の外壁に沿った川べりに多く生息するホシツ草を採取する。ホシツ草は色んな塗り薬に使われるベースとなる草で、生息域も広い為、大抵のギルドでいつも依頼が出ている植物、という位置づけらしい。魔獣で言えばアラージやスライムみたいな感じだ。


 次は少し町から離れた道沿いでの採取。ギシギシギシの葉やボチョージの根など、依頼書にあった植物の採取を黙々とこなしていった。

 確かに一度に全部の植物は覚えられないけれど、これくらいの数ずつを請け負って覚えていけばいいのだから、採取依頼を受けるのも悪くないかもしれない。。


 猫吉先生を見ると、あっちふらふらこっちふらふらと、やけに楽しそうに遊んでいた。


「猫吉先生、楽しいか?」


「ルノムとの散歩だからな、すっごく楽しいんだ」


 おい、聞いたか俺!なんてくっそ可愛いんだ、うちの猫は。

 思わず一緒に遊んでしまう。こういうの、まったくもって悪くない。


 せっかくの俺の気分の良さは、一瞬のうちに吹き飛ぶ事になる。

 何故か?

 それは気付けは5人の男達が俺達の周りを取り囲んでいたから。

 いかにもたちの悪そうな連中だ。


 盗賊だろうか…?

 こんな町に近い所で?

 普通に何人も冒険者や行商人が通過しているすぐそばで?

 うそーん。


「何か御用ですか?」


 俺は意外に落ち着いた声が出て驚く。

 中身がおじさんで良かった。若い頃なら、その場で自らジャンプしながら小銭を落としまくって、且つ、速攻チビっていたと思う。


「ずいぶん可愛い従魔がいるって噂になっててさぁ…お兄さん、その子を俺らに譲ってくれねぇかなぁ」


 えーーーっ!

 魔獣に遭遇する前にそういう感じになっちゃう感じ?

 ギルマスのハイドさんにフラグを立てられた気はしたけれど、平和な町だと思っていたから…こういうのは正直想定していなかった。

 どうやら俺が思うより治安が悪かったみたいだな。


「いや、断わる」


「優しく言ってるうちに譲ってくれれば、こっちも手荒な事はしないつもりだよぉ、つもりだけどなぁぁ」


 ひゃひゃひゃと下卑た笑い声が響く。


 5人か…採取用に使っている小型ナイフをでたらめに振り回したところで、俺に勝算なんて全くない。

 先生は強いのだろうが人間はこズルい生き物だ。魔獣とは訳が違う。

 俺がなんとかこいつらの意識を逸らせて、その間に先生を逃がせれば…。


 そう考えた時、尻尾を膨らませて背中を丸め、「シャー」と威嚇しながら臨戦態勢を取っている猫吉先生の背後から、大きな麻袋を広げた二人が襲い掛かった。


 その瞬間、猫吉先生が3mくらいの大きさになって…え?

 ニヤニヤと話しかけていた奴は、その膨らんだ体躯に吹っ飛ばされて腰を抜かしてるし…俺だって驚いても良いよな、これ。


 3mの猫吉先生に威嚇されたチンピラ5人組は…と見ると、チビるどころじゃない、全力ションベン野郎がいて、そのおかげですーっと冷静さを取り戻した俺。

 みんなでおしくらまんじゅうみたいに固まって、耳を押さえながらしゃがみ込み、動けなくなってしまっている。


「その音は…やめてくれ!」と先生に懇願するチンピラ5人組。完全に戦意喪失している。

 まさか、先生の威嚇音にやられてるのか?俺には「シャー」としか聞こえないけれど…。

 ちょっと怖くなってきた…。


「先生…殺しちゃダメだぞ」


「そんなの、わかっている!」


 猫吉先生を見ると、いつもは閉じている片目を少しだけ開いてチンピラ5人組を見ている。その隙間から覗かせた金色の目と共鳴するかのように、先ほど購入した金色の宝石が先生の瞳と同じ光彩を放っていた。


「ルノム…捕縛じゃ!」


「え…捕縛じゃ!?わ、わかった!」


 先生は俺が小さい頃に大好きだったアニメの主人公の台詞をちょいちょい使ってくる。独特の喋り口調もそっくりだし。

 …呑気にそんな事を考えている場合じゃなかった。確か、リュックサックにシートを屋台に括りつける為に買っておいた紐が入っているはずだ。


 きっちり手足をひもで縛り、5人の二人三脚みたいにしてやった。五人六脚。


 今度は1mくらいの体躯になった先生が、チンピラ5人組の周りで小さく威嚇をしている。

 もう、いつもの…片目の猫吉先生に戻っていた。

 先生の首元をみると金色の宝石も、先ほどのような光を宿してはいない。

 これは…威嚇音を“増幅”させたという事だろうか。

 

 考えてもわからん…。思考を早々に放棄した俺は、すっかり大人しくなったチンピラ5人組を見た。

 五人六脚の真ん中はもちろんションベン野郎。

 冷静さを取り戻せば取り戻すほど匂ってくる。まったくもって近づきたくない俺は、距離をしっかりと取りながら言った。


 「両手をあげたまま一本道を進んで町へと向かってくれ。もし転んだら、そのままこの従魔がお前たちを引きずって、全力で町まで走ってくれるそうだ」


 青ざめた5人は必死に「いちっにっ、いちっにっ」と掛け声をかけて歩調を合わせている。

 そうそうその調子、頑張ってくれたまえ。

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