21.うなぎおこわ
トロンジョの町の食堂で、お好み焼き講座を無事に終えた俺は、トロンジョの町を出る算段を始める事にした。
前々から決めていた通り西方向へと進み、まずは興味のあった海沿いの町へ行く。そこで異世界魚介をたっぷりと楽しむ。そして次にスキャイブ村を目指す。
やはり調味料玉ダンジョンに入ってみたいからな。
だって…面白そうじゃないか。
子供達の遊び場になっているダンジョンだ、俺だって入っても大丈夫だと思うんだよ。もちろん猫吉先生にも一緒に来てもらうけど。
あとは定住できそうな町をピックアップ。
さらには隣国なんかも行けそうなら足を延ばしてみたい。
とにかく計画だけは盛りだくさんだ。
トロンジョの町も治安も良いし、住むには品揃えもそこそこ、長閑で良い町だとは思う。
でもここ、俺にとってはやっぱり“始まりの村”、なんだよなぁ。
まずはこの世界の庶民も足である乗合馬車の偵察をしに行く。
従魔連れでももちろん乗れるし、小さい従魔は俺一人分の料金で乗せてくれるらしい。
俺にとっては有難いけれど、大きな従魔がいる人達は大変だろう。移動も食事もお金がかかりそうだ。
西方向へ向かおうと思っていたが、馬車で東に3時間ほど行ったファタイルという村が、織物に力を入れているというので、始まりの村からの巣立ち前に、早速、寄り道を決め込んだ。自分で言うのもなんだが、これからの道中が思いやられる。
しかし、3時間ならトロンジョの町から日帰りで行って帰って来られる。馬車の旅なんてしたことがないから、旅の予行練習にピッタリだ。
そうと決めたら即行動。俺達はさっそく乗合馬車に乗り込んだ。
馬車はなかなかに…ピー音で妨害されるような悪態を連発したくなるような乗り心地だった。
ついさっきまで隣国へも夢を馳せていたのに、正直、もうトロンジョの町で定住したくなってきた…。
リュックサックに忍ばせていたダンボールを尻の下に敷いてやり過ごす。猫吉先生は俺の膝で余裕の表情。俺は体中から発せられる悲鳴を、先生を無心で撫でまくる事で抑え込んでいた
地獄の3時間。這う這うの体でファタイルの村に到着。
織物の村。猫吉先生用に肌触りの良いタオルなんかを揃えたいと思っている。
今後は長い移動もあるだろうから、箱か籠にふかふかなタオルを沢山敷き詰めたり…。
肌触りが良いものがあれば、少々お高くても手に入れる事にしよう。
あと猫吉先生に必要な物はあるかな…あ、そう言えば…
「猫吉先生は眼帯をしていないな」
「それはあのキャラクターの時にしていたやつか?」
「そうそう」
「別に必要なかろ?」
「…ちょっと拗らせてる感じがしてあれはあれで気に入ってたんだけどなぁ。眼帯、要らない?」
「いらないぞ!」
眼帯用に綺麗な端切れでも買っておこうかと思ったのに、即決お断りをくらってしまった。
「ざーんねん。なぁ…先生の目って、どうなっているんだ?」
子供の頃の先生は目ヤニが酷くて、それを清潔に保つのが日課となっていたが、この世界に来てからはまったく綺麗なものだった。瞑ったままだから、見えないのは見えないのだろうが…少し気になっていたんだ。
「視えはしないがな。随分と具合が良いんだ」
猫吉先生がいつも閉じている片目をそっと開けた。
「へぇ…綺麗な金色だぜ」
青と金のオッドアイ。
透明度のある不思議な光彩を放っていた。
「そうなのか?我は見た事がないからわからん」
そう言いながら、目を閉じているのに慣れてしまったと言って、また閉じてしまった。
確か…英知が宿ってる設定だった。
その英知パワーで、物知りだという設定の先生は『猫吉先生のお取り寄せレッスン』なんていうコラム枠も確保してたっけ。英知パワーなんてものがあったら面白いのにな。
眼帯は断られてしまったが、織物を売る店で、フカフカなタオルや子供用だというサイズの小さな柔らかいタオルケットを手に入れた。
村を楽しく散策した後、ひぃひぃ言いながら乗合馬車でトロンジョの町に戻った。一泊くらいすれば良かった…
§
宿に帰って、さて夕食。食堂に行く元気はない。こういう時にこそお取り寄せグルメだろう。
何にしようかな…冷えたビールをリュックサックから出して、猫吉先生と分け合いながら考える。
先生が狩ってきてくれた例の肉を焼いても良いけれど、とにかく肉が多い食生活。お好み焼きのお陰で野菜も摂取できるようになったが、タブレットを開き、『猫吉楽食便』でついつい魚介類系でソートをかけてしまう。
とにかく今日は座っていた時間が多かったのに、この異世界に来てから一番疲れたからな…主に腰と尻が。米も食べたいな…あ…これはどうだ?
静岡県・鰻処十一九/笹包みうなぎおこわ(6食):銀貨8枚、銅貨4枚
解凍処理はもちろんYES。
薄い木を円筒状に曲げて作った弁当箱のような、わっぱの中には、笹に包まれたうなぎおこわ。
コンロの用意をして鍋にそこの広い皿を一枚裏返しに入れて水を入れる。その上にわっぱごとうなぎおこわをそっと置いた。
ゆっくりと蒸しあがりを待つ。
しばし我慢のひと時――
わっぱの中で重なり合う笹を開く。笹独特の香りと甘辛いうなぎのたれの匂いが胃袋を直撃してきた。一つずつしか蒸せないから、先生と半分こ。付属の山椒をさっとかける。先生は鼻がむずむずすると言うから山椒はなしだ…グルメ猫設定はどこに行ったんだよ。
「「いただきます!」」
たれが十分に染みているふわっふわに蒸されたうなぎを一口。次はうなぎを上に置いてもっちりとした米と一緒に一口。うんまい。
次のおこわを鍋にセッティングしながら、金物屋に鍋の中に置くタイプの蒸し台を作って貰おうと考える。蚊取り線香に三本足がついたみたいなあれだ。『猫吉楽食便』には他のおこわやちまき、それに点心セットなんてものもあるからな。是非、作って貰わねば。
ベッドの上でぼんやりと猫吉先生を撫でながら、うなぎおこわの蒸しあがりを待つ。
あぁ、幸せだ…腰は痛いけど、幸せ。




