17.白米、トロンジョ飯、おじや
猫吉先生のイタいものを見るような視線をやり過ごしながら、残しておいた大き目な鮭の身をご飯の上に乗せ、汁をかけ、鮭の身を少しほぐす。これは先生用の猫まんま。美味そう。
石狩鍋の残りをまたコンロへ戻して温めた。
鍋を温めてる間の俺のご飯のお供は、俺のつまみでお馴染み、トロンジョの短冊切り。
トロンジョをシャクっと一口。ホカホカのご飯を一口。
少しだけ…もう少しだけ…そう思っている間に、あっという間に一膳。
いかん、トロンジョをすりおろして食べる予定だったのに。
トロンジョをすりおろしてそのままご飯の上に。ショーユ玉とカツオ玉を乗せて…。
トロンジョ飯。美味い!
二人共、これまた無言で飯を食らう。
石狩鍋が温まってきたので、鍋から具材をさらった。
「おじやを作るけど、食べるか?」
あ、こいつ…すんげぇ、よだれを垂らしていやがった。
よだれ掛けって言ってるけど、それはマジックバッグだからな…拭くなよ。
よだれをタオルで拭って、鍋からさらった具材を先生用の皿に入れた。
「ご飯ができるまでこれを食ってろ…って、もう食べてる…」
皿から顔を上げずに肯く先生。よく食うなぁ…。
炊き立てご飯でおじやを作るのは気が引けるが、俺達のリビドーは止められない止まらない。
石狩鍋の残り汁でご飯をぐつぐつ煮込み、味を染み込ませる。
残しておいたつみれを荒く潰してご飯と混ぜて…卵を投下!
日本じゃないから卵の菌には気を付けないとならない。鍋の中で卵をスプーンで溶いて、しっかりと火を通す。
待つことしばし――
「熱いから、気をつけてな」
「我は猫舌ではないのだ」
「そうか。でも、注意しろよ」
俺も最後はおじやで〆だ。
野菜と魚介から出た旨味と幻想漁港組合オリジナルの石狩鍋のスープでおじや。
不味い訳がない!
先生は妖怪設定のお陰で禁忌食がない。ネギだってぶどうだってなんだって食べられる。塩分たっぷりも大丈夫。
鍋を一緒につつける幸せ。最後まで一緒に味わいつくそうではないか。
一口食べたらもう止まらない。行儀は悪いが、がつがつとかっこんで食べる。
明日のリメイクレシピをまだ考えていなかったけれど、必要なかったな。見事に完食。
石狩鍋もご飯も…絶品。
やっぱり鍋は良いなぁ。夏でも俺は鍋OK派。
野菜も沢山食べられるし、自分で作っても準備も調理も後片付けも楽。言うことなし!
食事を終えて鍋を洗い、湯を沸かす。
もちろん、食後のコーヒーだ。
宿で夕食を楽しむ時くらいはコーヒーを飲みたい…これくらいの贅沢は許される生活にしていきたいものだ。
朝はコンロを出すのが面倒なので、暫く…どこかに落ち着くまでは、夕食後のお楽しみになるだろう。水から作れるインスタントコーヒーは非常食…非常飲料?だから、そうそう手は付けない。
あ…コーヒーを作ってリュックサックにしまえば良いんじゃないか!?俺のバカ!
あの開封時の香りを毎回味わえないのはもったいないが、沢山作っておいて、すぐにリュックサックにしまえば、いつだってコーヒーが飲める!
ドリップコーヒーを袋から開けてお湯を注ぐ。
コーヒー、ひたすら量産。
これで毎朝のコーヒーは俺のもの。
コーヒー保管用の入れ物を買おう。
脳内メモに買い物リストを追加する。
よく考えたら焼酎お湯割り用のお湯も、リュックサックに入れておけば良いんじゃないのか?
万が一を考えて熱湯じゃなくても温かいお湯くらいだったら良いだろう。
保管用の入れ物を真剣に吟味しなければ。
ひたすらコーヒー量産マシーンと化した俺、ふいにベッドでゴロゴロしていた猫吉先生が目に入る。あれ?やっぱり長くなってる!?
先生よ…俺の身長くらいあるように見えるが。マボロシか?幻想漁港組合を引きずる俺。やっぱりマボロシだったのか?
いや、これはどう考えてもおかしい。
妖怪は妖怪でも猫又ではなく一反木綿じゃないか。キジトラ柄の一反木綿。
そんな俺の心配を露知らず、伸びきった本人はまったく気にせず話をし始めた。
「我、ルノムに土産を持ってきたんだった」
「土産?」
「うん。袋に入れておいたんだ」
よだれ掛けを前足でつつく先生。
「なんだなんだ?」
「明日、外で見せる」
「わかった。けど…外で?…なんだろうな?」
ねずみとかヘビとか…そういうのはいらないぞ、先生。
…これはフラグじゃないからな。
§
ねずみ。
翌朝、得意げな猫吉先生に宿屋の近くにある原っぱに連れていかれた俺。
目の前に出された土産はそう、ねずみ。
なんだよ、フラグを立てた俺が悪いってのか?
こういう時は褒めてやらなきゃならない…褒めてやらなきゃ…うぐぐ。
でも、何と言いますか…ねずみはねずみだけれど…これは…。
2メートルはある巨大なねずみなんですよ!
恐怖を通り越して、思わず凝視してしまった俺の脳裏に『魔獣:ビッグマウス、食用可』と出たから、ねずみには違いなかろうが…なんともまぁ、異世界感出てるお土産を持ってきたもんだ。
それにしても俺の鑑定は言葉は少ないが、結構知りたい事を的確に返してくれている気がする。鑑定、案外、出来が良いのかも…いや、そんな事は今はどうでも良い。
「これは…凄いな」
「凄かろう。土産だぞ」
ビッグマウスって日本では大口をたたく事を言うが、英語だと口が軽い人の事を指すんだったか…。そんな現実逃避をしても、目の前の光景は消えなかった。
「猫吉先生、これ…一体どうしたんだ?」
「我が狩ったんだ。ルノムが言ってた豚肉。匂いが似てるぞ」
「そ、そうか…すごいな。猫吉先生、ありがとうな」
しかしまぁ、これはどうすりゃいいんだろうな。
そのまま焼いて食べる訳にもいかん…というか、無理だろう。俺、自慢じゃないけど、魚だってろくに下ろせないんだ。
魔獣肉は普通に食しているが、死骸…処理前の魔獣を見るのは初めてだ。
勇気を出して触ってみると、狩ってからすぐにマジックバッグに収納したらしく、まだ少し温かかった。死後硬直もまだみたいだ。とれとれぴちぴち魔獣である。
そうだ、ギルド!買い取りと解体という札のかかったカウンターがあった。きっと頼めるに違いない。解体って…そう言う事だよな?
「あと10匹以上入ってるんだ!早く食べてみたいな」
事もなげに恐ろしい話をしてくる猫吉先生。
これが10匹以上…。
「そ、そうか。解体方法がわからないから、まずはギルドへ行って聞いてみようぜ」
猫吉先生はこくんとひとつ大きく肯くと、そそくさと獲物を自分のよだれ掛けに収納した。
猫吉先生ってグルメ猫だったよな。
なんか…戦闘特化してないか?




