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16.麦焼酎と石狩鍋

 屋台を終えた俺、脳内メモを頼りに買出しをする事にした。

 食材はもちろん、パラソルがあるから要らないかなとも思ったが、横からの雨除け風除けに良さそうなシート素材なんかも多めに購入。


 アスファルト舗装なんかないこの世界。砂ぼこりがやたらと酷いんだ。

 テーブルの上を囲える簡単なパーテーションを作れば、コンロの風よけにもなるだろう。

 それと…肉も探したんだがな。やはりこれという肉に出会えなかった。


 今日使った肉だって、みんな喜んで食ってくれてたけど、なーんか違うんだよ。

 俺のお好み焼きとしては、しっくりこない。

 宿に戻って猫吉先生を待っている間も肉肉肉肉と考えていたら、腹が減ってきた。


 タブレットで『猫吉食楽便』を開く。

 一食に結構な額を使うのはどうかとは俺だって思ってる…わかってはいるんだけど…今日はお祝いだから。

 ごにょごにょと一人で言い訳をしながらタブレットを操作した。


『New!』という赤い点滅の文字が目に入る。

 これは…新商品が掲載された時につくサインじゃないか?


 これは、俺が前々から押していた北海道・幻想漁港組合の…。

 ずっと掲載を頼み込んでいて、まだOKをもらえてなかったはずだがな。

 どういうことだろう。もしかしてオンラインというかなんというか…地球のリアルタイムで更新されてる可能性があるのか?


 だがしかし、お好み焼きのかめへん企画は大手冷凍食品会社との提携で、一年前にサイトから抜けている。

 これは…まさかの良いとこどり?

 いや、幻想漁港組合だけに、マボロシ…いやいや、馬鹿な事を考えていないでさっさと買ってしまおう。


 北海道・幻想漁港組合/石狩鍋セット(二人前):金貨1枚


 解凍しますか、もちろんYES。よし!幻じゃないぞ。


 これ…俺の願望で買えたって訳じゃなくて、俺の居なくなった後でスタッフが頑張ってくれたんなら嬉しいよな。スタッフが…解散せずに頑張っていてくれてるのかもしれない。

 それなら凄く嬉しい。みんなの頑張りをここからでも感じる事ができるし、何より、これから一体どんなお取り寄せが増えていくのか…楽しみが増えるじゃないか。


 さてと…本日の気分は麦焼酎。

 どれを頂こう…ちょっと気張って良いかな…良いよな…。なんてったって今日は屋台成功のお祝いなんだから。


 岐阜県・青山郷酒造/麦わら坊主:銀貨6枚


 こいつは乙類で40度ある。麹は米の麦焼酎…壱岐の焼酎でも有名なものがある。

 あれも大変に大変に美味いが、麦わら坊主も麦本来の香りが非常に際立っている一品だ。

 

 ちなみに…いつもいつもこんなお高い酒を飲んでいる訳では決してない。

 家では紙パック焼酎…芋の黒〇島やら、麦のい〇ちこを飲んでいるし、日本酒だって鶴・月・松あたりを無限ループしている。


 だが、このお取り寄せサイトではいわゆる大手企業の品はほぼ販売していないし…今日は猫吉先生と祝杯をあげたいからな…。ちょいと言い訳がましい事を考えながらポチる。


 飯の下ごしらえを済ませてもまだ猫吉先生は帰ってこない。先にシャワーを浴びてこよう。

 部屋を出るとちょうど帰ってきた先生と鉢合わせした。


「おかえり。あれ…猫吉先生、またずいぶんと汚れたな」


「そ、そうかな…。ちょっと今日は色んな所に行ったから…かな…うん…」


「ちょうどいい、先生も一緒に風呂へ行こう」


「げにゃ!」


「いいだろう?一回さっぱりしようや。今日は屋台成功のお祝いだからさ、風呂のあとは…お取り寄せグルメと美味い酒が部屋で待ってるんだぞ~!」


 猫吉先生は大の風呂嫌い、というより水嫌いだ。

 俺が子供の頃もはやり先生は水をずいぶん嫌がっていた。

 親父の感じから察するに、単なる水嫌い以上のなにか…水にまつわる事で酷い事をされてたのかもしれないと、子供ながらに思ったものだけれど…やはり、記憶からの忌避感があるのだろうか。


 家猫という概念のないだろう世界。たっぷり外遊びをしてもらいたい。

 でもな…どんな遊びをしてるのか知らないけれど、お前さんは汚れ具合が半端ないんだよ。

 出濡れタオルで足や顔などは毎日拭いているけれど、今日は諦めたまえ。 

 

 部屋で水分補給してから盥と先生用のタオルや石鹸を入れた袋をリュックサックから取り出しながら、シャワーブースへと向かう。

 とぼとぼと諦め顔で俺の後ろからついてくる先生。悪いとは思うが面白くて笑ってしまう。


 いつかは俺をもっと信用して…安心して風呂に入ってもらえる様になったら嬉しいんだがな。

 そう思いながら、牛歩で頑張る先生を抱き上げて風呂へ入れた。


 先生用の桶にお湯を張ってわしゃわしゃと洗う。

 お湯を三度入れ替えた頃には、すっかり大人しくされるがままになっていた。

 それでも顔を洗われるのは苦手らしく、プイプイするのがたまらなく可愛い。


 部屋へ戻って猫吉先生をしっかりタオルドライしながら、風呂上がりの水分補給。

 ドライヤーが欲しい!この世界にあるのかないのか知らないけれど、猫吉先生用に欲しい!


 水を飲み終わった先生は、すでに酒の箱に視線は釘付けのご様子だ。

 はいはい、さっそく命の水を頂きましょう。


「度数が高いけど、そのまま飲むか?」


「少しだけそのままで飲んでから、その後は水で割ろう!」


「それならお湯割りもいいな。体が温まるし」


 ドライヤーがないからな、風邪でも引いたら大変だ。なるべく体を温かくしないと。

 とは言っても、コンロは一つ。まずはお湯割りで、その後は…水割りだな。


 コンロがもう一つ欲しい…酒用の。さすがに無駄遣いだと考えを打ち消す。

 俺はお湯を沸かしながら、酒を猫吉先生の皿に入れた。


 俺ももちろん、いただきます。うん…ずっとストレートでも良いけどな。

 酒をひと舐めふた舐め、どうやら美味しいらしく先生は皿からなかなか顔をあげなかった。

 満足げに顔をあげたところで、お湯割りの焼酎を皿に入れてから、今度は鍋に取りかかる。


 ところでこの石狩鍋セットは金貨一枚だ。俺換算で10000円。ちょいと高いと思わないか?

 確かに素材も良いのだけれど…この北海道の幻想漁港組合が出しているこの石狩鍋セットには、とあるものがついてくる。

 出汁はもちろん、鮭・帆立・牡蛎・イカ・つみれ・海老・だし汁・野菜とキノコ数種。そして…北海道のブランド米。


 そう、なんとこの石狩鍋セットには精米が付いてくるんだ。

 米が食いたいなと思ったら、この石狩鍋セットを購入すれば良いという事に気が付いてしまった俺。現在若干浮かれ気味。


 だがしかし、魔法だかスキルだかなんてものは突然手にしたものだから、突然消失する事だって考えられる。ちょくちょくこの石狩鍋セットを購入して、リュックサックにこの精米を備蓄するとともに、出来ればこの世界のどこかに米食の文化がないか探っていきたい。稲作だろうがダンジョン産であろうが米なら何だって構わない。


 トロンジョの焼いたのを食した時に、すりおろして醤油をかけてご飯の上に乗せたら旨そうだな、なんて思って以降、実はすっかりホームシック…いや、米粒シックだったのだ。お米は風呂へ行く前に、もちろん研いで水につけてある。ぬかりはない。


『猫吉食楽便』の掲載品は全て頭に入っているつもりだが、付属食品までを瞬間に思い出せるわけではないからな。他にも付属食品で楽しめそうなものがあるはずだ。うむむ…お取り寄せグルメ…やめられん。


 とにかく、幻想漁港組合さん、サイト登録を頑張ってくれたスタッフのみんな、ありがとう!石狩鍋セット、ありがとう!


 まずは石狩鍋を存分に楽しもう。だし汁と白菜やキノコ類は鍋に同時に入れてしまう。今日の気分はくたくた白菜。ぐつぐつし出したところで魚介類を入れて…


 ――はふはふ


 ――はふはふ


 これが至福。これぞ至福。


 そうか、ミソ玉があるから、工夫すれば異世界石狩鍋も出来るかもしれない。異世界に石狩があるのかはさておき。

 鍋の屋台なんてどうだろうか。いや…だめだ、鍋とコンロがいっぱい必要になるし面倒、却下。


 あ、この牡蛎…プリっとしていて絶品だな。帆立も…海老も…俺も先生も無言で食べ進める。


 リメイク一品として、石狩鍋クリームパスタが俺は好きだけど、残ったら何にしようかな。

 これだけ魚介の旨味が溶けだした汁だ、なんでも美味いに決まっているけど。


 この石狩鍋セットは今後も何度かお世話になるつもりだから、是非ともリメイク品を考えておきたい。

 バターがあれば…出来るか?牛乳っぽい乳製品はこの世界でも見た事がある。探せばきっとバターも…チーズだってあるかもしれない。

 この時点でもう石狩クリームおじやはできるじゃないか。

 おじやじゃなくてもパンを浸して食べても美味しそうだな。

 パンがあるんだから探せばパスタのようなものだってあるかもしれない。


 パスタ…バター…やはり他の町にも行ってみたい。

 近くには海沿いの町もある。異世界魚介も食べてみたい。


 ギルドの資料室で穴が開くほど見つめて、頭に叩き込んだ地図を思い出す。

 トロンジョの町から西にある海沿いの町、その先にはあの調味料玉が手に入るダンジョンがあるというスキャイブ村もあるし…。


 うん。トロンジョのお好み焼きを少しメジャーに出来たら、海沿いの町へ行ってみよう。


 鍋を半分ほど食べたところでコンロから石狩鍋はおろす。

 コンロはひとつだからな。これから米を炊くんだ。上手に炊けなければ途中で石狩鍋の汁へ入れて煮込んだって良い。


 慣れない鍋で米を炊くって…失敗の未来しか見えない。俺、米炊きの火加減とか知らないし。仕方なく水に浸してある米の入った鍋に油を少し入れ、かき混ぜてから火にかけた。


 北海道一押しのブランド米に古米にするようなこの所業。チクリと罪悪感。

 だが…全滅よりは絶対にマシだろう?


 二杯目の麦わら坊主もやはりストレートで飲む事にした。

 ついでに昨日作ったトロンジョのつまみを出して箸休め。

 猫吉先生は「酸っぱいからいらない」、だとさ。


 グルメ猫なのに酸味が嫌いってどんな設定だ?そこは元々の好き嫌いか?

 先生が今をリアルに生きている感じがして、悪くはないけどな。


 しばし後、祈りなのか執念なのか、お米がちゃんと炊き上がる。

 水加減も火加減も適当だったのに、普段のおこないが良いのかもしれない。きっとそうだ。

 だってなべ底には、立派なおこげ付きなんだぜ。これを完璧と言わず何と言う。


 しかしながら…油を入れていなかったら、勿体ない事になっていたかもしれない。米を上手く炊く方法、これから極めていかねばならん!ルノム君、これは任務だ!

 ツヤツヤ光る米、見ているだけでも元気が出てくる。一人ガッツポーズからの謎のマッチョポーズ数種で決意を新たにした。

 

 あれ…先生、なんでそんな目で俺を見てるんだ?

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