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15.トロンジョのお好み焼き

 今日も今日とてお好み焼き焼き。

 先生の感想は結構良い線ついてくるんだ。鼻が利くからだろうけど、悔しいが良い指摘ばかりなんだよな。


 猫吉先生は良いよ…言うだけ言って、自分は遊びに行っちまうんだからさ。

 自由を楽しむ先生を邪魔するつもりはないがな。ちょっとムカつく俺はそう、懐が狭い男。


 ぶちぶちととっくに姿のない猫吉先生に八つ当たりしながら、お好み焼きを大量に焼いていく。もし売れなくても自分達が食べれば良い。気にせずどんどん焼いていった。


 ワイン片手に焼き続けていると、なんとなく口寂しくなってくる。

 お好み焼きには匂いを嗅ぎすぎて少々飽きがきていたから、そうだな、なにか…さっぱりしたつまみが欲しい。


 しばしの休息。トロンジョを短冊切りにしてショーユ玉をパラパラと、そしてリュックサックからレモンを取り出しひと絞りした。


 ――サクッ


 おお、これはいけるぞ!

 トロンジョの生食は人気がないと言っていたから、これを販売するのは厳しいだろうけれど…お好み焼きの生地にする以外にも、この町を出る時はトロンジョをたくさん仕入れていこう。俺の酒のつまみ、異世界版第一号に認定だ。


 食品保存用の箱をいくつか買ってきていたので、そこにお好み焼きをしまっては温かいうちにリュックサックへ入れる。

 焼き上げては収納、焼き上げては収納を繰り返し、下ごしらえは完成だ。


 §


 屋台で朝食を取ったら、猫吉先生とは別行動。

 一体どこでどんな遊びをしているのか。気にならないと言ったら嘘になるが、猫吉先生には先生の人生…猫生があるからな。是非、今世の自由な猫生を満喫してもらいたい。


 朝、エールを堪能し終わった俺が、ごそごそと身支度をしていたからか、猫吉先生も起き出してきた。水を飲んだ後はまたベッドの上でゴロゴロして遊んでいる。身支度がいらないのは羨ましい限り。まぁ、俺もそんなに身支度らしい身支度はしないんだけど。


 朝食は、もちろん先生がチョイスした屋台の魔獣肉を食べる。

 ハズレなし。旨い、旨い。


 早速許可証を貰った俺は、猫吉先生と別れて屋台が沢山出ている市へと向かった。

 市にはギルド関係の人が常駐しているらしい。全く気付かなかったが、よくよく見たら確かに腕にギルドマークの腕章をつけた人が巡回していた。


「屋台を出したいんだが、なにか決まり事とか注意事項とかがあるのか?」


「朝の5時から夜の11時までで、場所は早い者勝ち。迷惑行為は禁止。それくらいかな」


「そうか。この時間だと結構埋まってしまっているな」


「そうでもないぞ?朝早い奴らがそろそろ閉める時間だから、そういう所を狙えばいい。ほら…あそこを見てみろ、片づけ始めているだろう?」


「本当だ、行ってみる。どうもありがとう」


 俺はビギナーズラックと言うべきか、比較的良いポジションをゲットして、屋台の場所を確保した。


 日差しがきついな…。食べ物の屋台だから、直射日光は気になる。

 本日は晴天なりで雨の心配はなさそうだが、屋台をするとしたら日よけやら…ついでに雨風を凌げるシートのようなものも必要になるだろう。それか屋根付きの屋台の骨組みを考えるべきか。考えるべきリストに追加しておこう。


 この世界に来て、リュックサックの中を中調べた時に最初に驚かされた、例のしっかりした大きなテーブルを取り出す。

 まずコンロを出して…皿代わの薄いスライスパン、調味料玉とその他諸々のブレンドで作り上げたオリジナルソースの壺、肉は使う分だけ出して…。


 そう言えば…海の家で貸し出していそうなパラソルがあったよな。あれが使えないだろうか?

 他の屋台ではあんなものを差したりしていないから、凄く目立つけど…目立った方が良いから良いだろう。思い切ってパラソルを出してみる。なんか…思いもよらず可愛いらしい屋台に仕上がってしまった。

 あり物で作った屋台をなんとか完成させて、何とか開店に漕ぎつける。


「お好み焼き~、トロンジョのお好み焼きいかがっすか~。銀貨1枚だよ~」


 §


 少し高めの設定だし、すぐに売れるとは思ってなかったが…全く売れない。

 これはやはり作戦が必要か?


 ①猫吉先生をマスコットにして客寄せ

 ②小さくカットして試食


 ①は…最終手段。

 今、出来る事はもちろん②。そう、試食だ。


 俺は1枚のお好み焼きを犠牲にして、試食品を作った。

 小さく切ったパンに小さく切ったお好み焼きをのせる。


 立食パーティーでよく出てくるオードブルみたいだ。なんだっけ…カナッペ?

 懐かしい言い方だとリ〇ツパーティーとも言う。こっちのほうがしっくりくるのは何故。

 まぁ、こちとら見た目はオシャレ感ゼロのオール茶色だけど、これはこれでなんか美味しそう。


 結局、皿や紙を用意すると高くつくから、朝よく食べる魔獣肉と同じくパンに乗せて提供するスタイルにしたんだよ。これなら腹持ちダブルだし!


 炭水化物+炭水化物=糖質MAX!


 糖質制限とか言い出す奴はこの世界には居ないはず。…たぶんな。


 試食品を作っている時に気が付いた。

 客が来てからソースをかけようと思っていたが、それじゃ駄目だったんだ。

 そう、匂いパフォーマンス。ソースをかけてから、周囲の目がにわかにこちらへと向くようになった。


 皆の者、このおソース様のかぐわしい香りを存分に嗅ぐがよい!


「一口試食はいかが~。トロンジョのお好み焼きだよ~」


 遠巻きに見ていた人の中から、勇気あるおじさんが一歩踏み出した。そしてその足は俺の屋台テリトリーに入る。よし、捕らえたっ!


「試食をどうぞ~!」


 おじさんに笑顔で差し出す。


「トロンジョが入ってるのか?」


「そうだ。まぁ、食べてみてくれよ」


「…ん!なんだこりゃ、すっげー旨い!ちょっと高いなって思ったけど…これなら納得だ。おい、1枚…いや、2枚くれ!」


 その様子を見ていた他の人も試食してくれて口々に「美味い!」、「へぇ、美味しいわね」なんて言って、勝手に宣伝してくれた。


「まいどあり~!」


 一番最初に試食したおじさんはとても声が大きかった。

 さくらのバイト、俺頼んだっけ?っていうくらい。演技も(演技じゃないけど)自然で良かったよ、君。ありがとうありがとう。

 

 呼び水おじさんのおかげで、せっせと宿で焼いた分を無事に売り切る事が出来た。完売御礼だ。


 大きな手ごたえを感じつつ、今日の手際の悪かった部分を反省したりしながら、即席屋台を片づける。最後に大きなテーブルをしまえば本日終了、である。


 猫吉先生を…路頭に迷わせなくて済むだろうか。

 この世界に来てしまってから、生活の糧がない事に焦りを感じていた。猫吉先生が来てくれてからはなおさら。


 何としても生き延びて見せるからな。猫吉先生と一緒に!

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