14.ペールエール
何故またタブレットを開いたかって?
そりゃ、お好み焼きと言えば…
『地ビールリレー』でのトップバッター。ビールと言いつつ、エールじゃないか!とのツッコミをスタッフから入れられたのはさて置き、あのペールエール系の…
岐阜県・俺んち工房/俺にエールを!(6瓶):銀貨3枚
冷えていないのは仕方がない。
お取り寄せグルメを解凍してくれるなら、酒も冷やしてくれても良いのに…なんて。
それは欲しがりすぎってやつだ。
そう言えば、この世界のエールはどこの店でもキンキンに冷えていた。
魔石を使った冷蔵できる魔具などがあるんだろうか。
是非とも手に入れたいものだ。
調べる事リストを心に刻んでタブレットを閉じた。
そろそろ裏返しておこう…香ばしい色を付けた生地が顔を出す。辛抱たまらんと腹が鳴る。
とりあえずエールを飲んで腹のご機嫌を取ろう。
あ…瓶だった。
これ、蓋を開ける…オープナーがないじゃないか。
仕方なくスプーンを親指で押しあてながらエールを開けた。こんなことするのは学生時代以来。ゴミはあるけど必要なものが圧倒的に足りない、万年床の友人宅での飲み会を思い出す。
蓋が一つあれば、今度はこれを使って簡単に次の瓶を開ける事が出来る。
今後の事も考えて、リュックサックのサイドポケットへと蓋を突っ込んだ。
ぬるいがとても旨いエールを猫吉先生用の小皿へと入れてやる。
旨いぞ~、これは何度も試飲してるから間違いない。
何度もしたのは秘密だけど。
「にゃ!」
…先生もたまには猫らしい反応をするんだな。実に微笑ましい。
気付けばお好み焼きの香ばしい匂いが部屋に充満している。
猫吉先生は酸っぱいもの以外なら味が付いていても大丈夫だそうなので、ソースも全部かけてしまおう。ソースもほのかに酸味はあるがそれはセーフらしい。
ソースあってのお好み焼きだから良かったよ。
酸っぱいものはちょっと苦手なだけで、食べられない事もないらしいが、ふくの時のポン酢は断わられてしまっていたのだ。酸っぱいものが食べられないなんてもったいないぞ、先生。
――ジュ~
うーむ。まったくけしからん音だ。
ソースの上にマヨネーズを袋の細い切り口から波を描くようにかける。さらにかつおぶしと青のり。
猫吉先生は大きな口を開けて待っている。
おれはよく冷ましてから、その口へお好み焼きを放り込んだ。
猫吉先生の分は小皿へと取り分け、自分の分は鍋のまま食す。
お店独自のお好み焼き粉とたっぷりの山芋入りのオリジナル生地という事でフワッフワの食感。何枚でも食べられそうだ。エールを一口。お好み焼きを一口。
無心で交互に食べ進める。いくらでもいける。
2枚目を焼いている間に紅ショウガでエールをまた一口。箸休めにぴったりだ。
B級グルメって良いよなぁ。
ちょっと焦げたソースの匂いが何とも。
あっという間に二人で2枚とも平らげて、エール3本を消費した。
猫吉先生の足りないコールを受けて、お好み焼きをもう2枚追加購入する。
あとは…このパッケージのゴミをどうするかだ。
先日のふくの時も結構な量のゴミが出たんだよな。
大抵、お取り寄せグルメは冷凍のものが多いから、発砲スチロールの箱に入っている場合が多い。酒だって、外箱と瓶と…こんなことをずっと続けていったら、俺のリュックサックはとんでもないゴミ屋敷になる。多少、人様のマジックバックより大きそうだとはいえ、ゴミで必要な収納品が入らなくなる未来が見える。
この世界からしたら異世界ゴミだもんなぁ…。さすがにそのまま捨てるのはマズい気がする。
ビニール袋なんて、目端の利く奴に見られたら厄介だろうし。まぁ…ビニール袋は綺麗に洗って乾かして、リュックサックにしまってあるけれど。
町から離れた場所で、こっそり燃やして埋めるというのが妥当なんだろうが…一人で人里離れるのは正直怖い。
「ルノム、何を考えてる?」
いつの間にか膝の上によじ登ってきていた猫吉先生が、こちらをじっと見上げていた。俺は頭をナデながら答える。
「この地球ゴミをな、どうしようかと思ってさ…」
「なんだ、そんな事か」
「そんな事って言うけど、この異世界でこの地球ごみは結構捨てにく「あーん」」
「ん?…『あーん』って…なんだよ」
「だから、あーん」
猫吉先生が大きく口を開けている。
まさか…な。
「ほれ、早く。どれでも良いぞ」
「まじかよ…」
俺が手にしていた包装紙を、猫吉先生はパクっと咥えてしまった。
――もぐもぐ、ごっくん
「ほれほれ、瓶も良いぞ?」
「本当に?怪我とか病気とか…絶対に嫌だぞ?」
「こんなもの、いくらでも溶かせるわ」
「瓶は怖いからダメだ」
いや、怖いのは瓶だけじゃないけどさ。
気付けば勝手に発泡スチロールの箱を食べていた。
――きゅっきゅっ、ごっくん
その後も地球産のゴミを猫吉先生はどんどん飲み込んだ。
先生、大丈夫かよ…
§
師、曰く。これはこれ、あれはあれ。だ、そうだ。
美味しいものを飲んだり食べたりする時と、処理する時というのは味覚が全く違うらしい。むしろゴミも力の源になる仕組みだとかなんとか言っている。先生にとってはゴミも栄養になる、そう言う事だろうか。俺にはわからん。
いつもとなんら変わらずの様子で、ピスピスという寝息をかいている猫吉先生を見る。
大変に気持ちよさげに寝ていらっしゃる。体の具合は…大丈夫そうだな。
そう言えば、昨日リュックサックのゴミを一旦出してみようと言ってそのまま寝てしまったんだったな。って…あれ?ゴミがなくなっている!?
瓶、空瓶も全部なくなっているじゃないか!
先生…食いやがったな。
気持ちよさげに眠ってるけど…不安になってきた。
具合が悪くなったらどうしよう。
俺はぬるいが旨いエールを飲んで、猫吉先生の目覚めを待つ。
§
「どうだ?持ち手の部分はこんな感じで改良してみたが…」
「うん…これは良いな。たぶんこれで完成形になると思う。ちょいと細かな改善点が出たら悪いがまた作ってくれるか?」
「おう、任せとけ」
金物屋に頼んでいたものが完成した。
俺が以前からこの金物屋に入り浸り改良に改良を重ねて作ったもの、それはすりおろし器。
転売ヤ―は最後の手段だからな、出来る限りの努力は試みてみたい。
一緒に鉄板とフライパンなども作って貰ったが、そこはさすがプロ。ノー修正一発納品だった。
だが、すりおろし器というものはそうはいかない。
いや…全原因は俺なんだが。
すりおろし器とはどんなものだったか…うまく説明できない。
ふんわり説明で意図を汲んで作ってくれた店主には感謝しきりだ。
事前にお好み焼きを焼いて、注文後に一枚一枚鍋で温めなおして売ろうかと思っていたのだが、やはり人の波を捉えるにはある程度のスピード感も必要じゃないかと思い至り、小ぶりなお好み焼きを4枚同時に焼けるサイズの鉄板を頼んだ。
持っているコンロで使えるギリギリサイズを作って貰ったんだ。
ちなみに…ついでに作って貰ったフライパンは、ただ単に、俺が使いたかっただけです。
これは何をしているのかというと…トロンジョをすりおろして、お好み焼きの生地に出来ないかと考えている。その第一歩だ。トロンジョの焼いたの、以外の料理。
誰でも失敗せずできる美味しい料理、お好み焼き。
クズ野菜や安く手に入った肉なんかと一緒に焼き上げれば、絶対にうまい…はず。
最後にあの調味料玉…カツオ玉は上からかけても生地に混ぜても良い。ショーユ玉も隠し味に良いよな。
最終形態のすりおろし器を持って宿屋へ戻り、トロンジョでのお好み焼き作りに専念する。
小麦粉も何種類か買ってあるから、価格と味のバランスと、色々考慮して最善の割合をだそう。
小麦は数種類あるが一般家庭用とお屋敷用でも分かれているのが面白い。家庭用ならすごくリーズナブルな価格で手に入るんだ。これを使ってお好み焼きが出来たら、儲けが出しやすいんだけどな…。
恐らくもんじゃより、しっかりしたお好み焼きの方がウケるだろう。
美味いけど…ビジュアル的に、あれはちょいとハードルが高すぎるから。
もくもくと試行錯誤を繰り返し、その晩は大量の試作品で夕飯となった。
途端に酒が飲みたくなってきた。お好み焼きか、ワインも良いよな…。
岡山県・ドレミワイナリー/ソラ白ワイン:銀貨3枚
ワインのコルクにそっとナイフを入れて、ぐぐぐっと差し込む…それから、ゆっくり回しながら引いて…ここで失敗するとコルククズだらけのワインを飲む羽目になるからな…慎重に慎重に…。
――ポンッ
ここのワインの特徴はこの香りだ。コルクを開けた瞬間のこの香り。
一気に華やかな気分になる。
オレンジとライラック、そして第三は、かすかにシナモンのようなスパイシーさ。
レモンのような黄色味を帯びた…これはコップでは見えないのが残念…。
ライトボディで軽い口当たり。軽やかで賑やかで、そして爽やか。
白なら辛口ばかりを選んでしまう俺だが、たまにはこういうワインも良い。
自作のお好み焼きにぴったりな気がしてくる。
若くて過去のない味。失敗したってなんてことないさ、良い意味でそんな気分にさせられる。
§
俺はその日から、ひたすらにお好み焼きを作り続けた。
これだけ数をこなすと、だいぶ手際も良くなってきている。
猫吉先生はふらり出かけては、戻って来てお好み焼きを食べる。偉そうに感想を言い、また出かけて行く。
ちなみに先生は地球ゴミを全てのみ込んでも平常運転だった。
こいつ、とんでもなくチートな猫なんじゃなかろうか…。
ほぼほぼ、お好み焼きは完成。調味料玉も沢山在庫がある。目下の悩みは…肉。
豚肉っぽい味わいの肉を探しているが、なかなかこれだという肉に巡り合えずにいる。
とりあえず、一番俺のイメージにあう魔獣肉を買ってきたけど…なんか違うんだよなぁ。
これは俺の完全なる嗜好というか…お好み焼きの豚肉が大好きなんだよ。カリっと焼いてある香ばしい肉と生地の一体感。絶対に譲れない!
猫吉先生にそんな謎の俺お好み焼き理論を展開しながら、試作品を口に運んだ。
猫吉先生からも及第点をもらった事だし、お好み焼きの生地自体はほぼ、完成したと言っていいだろう。
あとはやはり肉。
誰か俺にイイ感じの肉をくれ!




