13.豚玉お好み焼き
「調味料玉のダンジョンってたくさんあるのかな?」
「うーん。私の住んでる村と、他にもいくつかあるらしいけど…あ、他の国にもあるっておじいちゃんが言ってたよ」
「ふうん。結構あるもんなんだな。お嬢ちゃんはどこから来たんだ?」
「スキャイブ村ってところ」
俺はギルドの資料室で見た地図を思い出す。かなり頭に叩き込んだ地図だ。
確か…この町の西側にそんな村があったはず。
「ここから西に行ったところか?」
「うん、そうそう。たまに村の買い付けをしに代表で出てくるの。お父さんは腕っぷしが強いから、よく代表に選ばれるんだ。買い付けの間に私は調味料玉を売ってるの」
なんでも、スキャイブダンジョンは子供が遊びで潜る様なダンジョンで、強い魔獣は出ないらしい。そして採れるのは調味料玉だけ。他から冒険者なんか来ない、と。やはり人気がないのか…。
ただ、村の子供達には絶好の遊び場になっており、調味料玉が売れればお小遣いになるので、女の子はお父さんの買い付けの合間で屋台を開いては、調味料玉を売っているという話だった。
「へぇ、俺もそのダンジョンに潜ってみたいな」
「うふふ。調味料玉しか採れないよ?」
「面白そうじゃないか」
安全に調味料玉が採れるダンジョン。それは是非行かねばなるまい。
全部買い上げても構わないかと聞いたら、女の子が目をまんまるにした。
猫吉先生を名残り惜しそうに地面におろすと、いそいそとスコップのようなもので袋詰めを始めた。
「こんなにたくさん買って貰えたの、初めて!」
「そうなのか?」
「使い道がないからだって、みんなが言ってるけど…本当に全部買ってくれるの?」
「あぁ、全部くれ」
この異世界に来てからというもの、確かに塩以外の味付けの料理はお目にかかっていない。
たぶん、とにかく安くて腹がいっぱいになるという事に重点を置いて…いや、置きすぎてしまった結果だろう。
間違ってはいない。間違ってはいないのだが、せっかくダンジョンで採れる色々な味が楽しめる調味料玉なんてものがあるのに…これは惜しいよな。
「これから色々な場所に行ってみるつもりなんだ。スキャイブ村へも行くかもしれないから、そうしたら調味料玉が取れるダンジョンを案内してくれよ」
「わかった!こんなに沢山買ってくれたお兄さんだもん。サービスしちゃうよ!」
少女よ、その言い方は何かと心配になるから気をつけろ。
苦笑いしながら手を振り、屋台を後にした。
リュックサックの背に乗った猫吉先生を撫でながら考える。
俺は先生を授けてくれた御恩返しに、あのコスプレ女児には出来る限り協力したい。
最初は、まぁ気が向いたら…くらいに思っていたが、先生が来てくれたのなら話は別。真剣に思っている。
しかしなぁ、『この世界の食文化の発展』に関する事って…一体何が出来るんだ?
俺が出来る事なんて、もの凄く限られているのに。
得意な事は…リサーチや記事を書く事。この世界には不向きな得意分野とも言える。
そしてもらった恩恵は猫吉先生と…スキルというか、よくわからない能力はタブレット…俺が作ったネットサイト『猫吉楽食便』のグルメお取り寄せ、それと言葉少な目な控えめな『鑑定』。
『猫吉楽食便』で購入したお取り寄せグルメのものを売るのは難しい。そう、金額的に庶民に売るには高すぎるんだ。
お偉いさん方に取り入るのは柄じゃないし、面倒ごとには巻き込まれたくない。上層部と絡むと碌な事にならないというのは、サラリーマン時代に十二分に学んだからな。
職に結びつけられるアイデアはまだないけれど、この二つを武器に各地を巡りながら、異世界を楽しむってのも悪くない気がする。
コスプレ女児の願いを俺なりに昇華しつつ、俺達が楽しくこの異世界を生きる術。
なんかないかな…。
§
「そういう訳で、今日はこれだ!」
タブレットを操作して、お取り寄せグルメを出す。
本日のお取り寄せは…
大阪府・かめへん企画/一番シンプルな豚玉お好み焼き:銅貨5枚
お好み焼き、日本円で換算すると1枚500円くらいなイメージ。
確か、このお好み焼きは税抜き500円だったから、銅貨1枚=100円という俺が思っている貨幣価値が合っているように思う。
ワンコイン飯。『猫吉楽食便』のお取り寄せ商品にしては最安値だ。
しかも1枚だけ買っても、この仕組みには送料という概念がないから、お得感が半端ない。
それにしても…確かこのかめへん企画は、大手粉もの冷凍食品会社にブランドが吸収されて、一年前にこのサイトから抜けたと記憶してるんだがな。このタブレットにある『猫吉楽食便』のラインナップ…何やらタイムラグがあるみたいだ。
ここのお好み焼き、美味しかったんだよ。また食べられるなんて純粋に嬉しい。
お好み焼き――
俺の商売に出来ないだろうか。
お好み焼きなら俺も作れるし、調味料玉が手元に沢山ある。小麦粉も卵も手に入れられる食材だし。
ソース玉やカツオ玉、他の調味料玉や手持ちの調味料で工夫すれば、最低限の味は整うだろう。
俺の罪悪感を麻痺させて…かめへん企画のお好み焼きを屋台で出しても良い。ちょいと転売ヤーっぽい感じが否めないし、出来ればそんな事はしたくないけど…最悪、それで生きていける気がする。
異世界転売ヤーか…。俺には家族がいるし…背に腹はかえられん。誰にも迷惑かけてないし。
これ、完全に悪事に足ツッコむ瞬間みたいな思考だけどな。
この世界の食事、例えばトロンジョの焼いたのは銀貨1枚。少し高いが、大きさが半端ないから納得の価格だ。
ちなみにあの粗悪なエールは銅貨5枚。
あれは冷え冷えキンキン代金も入ってるから、安く感じるほどだ。
まぁ、屋台の食事はだいたいが銅貨5枚から銀貨1枚くらい。
やはりそのラインで価格設定できるものが良いんだ。
銅貨5枚のお好み焼きを…銀貨1枚で売る、とかさ。
電子レンジなんてものはないから…鉄板か…フライパンを作って貰って焼きあげるスタイルの屋台はどうだろう。
あのリュックサックがあるなら、多少の荷物は屁でもない。生地は焼いておいてリュックサックにしまっておけばいいだろう。ちょいと稼ぎの浮き沈みが想定できるが、それでもニート生活脱却の一助にならないだろうか。
ただしこの場合、この地でまずはお好み焼きというものを普及させるのが肝。
もしこの世界に似たような料理がない場合、色々と聞かれたり後々探られたりするかもしれない。探られても別に構わないけれど、コソコソ嗅ぎまわられたりするのは嫌だ。
そんな時に『トロンジョの町で同じような料理がある』と言えるとなれば、怪しさ半減というもの。
我ながら実に名案だ。
「ルノム…悪い顔で何考えてるんだ?早く食べたい!」
「わかったわかった…今作るから」
大阪府・かめへん企画/一番シンプルな豚玉お好み焼き:銅貨5枚
『解凍処理をしてお届け:YES/NO』
YES。2枚購入してタブレットを閉じた。
§
コンロを取り出して浅めの鍋に油をたっぷりひく。
熱した油に既に丸い形に成型されているお好み焼きをのせた。
――ジュッ
この音だけで幸せな気分になる。粉ものサイコー!
横にはすでによだれを垂らさんばかりの猫吉先生がスタンバイ。
口が『あ』の形でフリーズしていて、開いた片目だけがきょときょとせわしなく動いている。うちの子、面白い。
付属品はソースとマヨネーズ、青のり、鰹節に紅生姜と、いたれりつくせりで楊枝までがセットになっている。うん、青のりがね…楊枝、欲しくなるんだ。わかってらっしゃる。
焼いてのっけておしまいの一品、焦がさないようにだけ気を付けていればいい。楽ちん。
部屋に漂い始めた生地の焼ける匂いを存分に楽しみながら、タブレットを開いた。




