12.複写師
少し外の空気を吸おうと、ギルドの外へ出て休憩する。
あまり腹は減っていないから、無限水筒を出して水を飲んだ。
ギルドの資料室に通うメリットはでかい。この世界で普通に生きてきた人々にとっては物足りない資料室と映るのかもしれないが、俺にとっては違う。
冊子や資料はどんな人が作っているんだろう。
奥付表示はなかったが、編集者や出版社があるのだろうか。
職業病だな、気になって仕方がない。
ギルドへ戻ると受付が暇そうにしていた。俺は気になっていた複写師の事を質問してみた。
「なぁ、複写師ってのはどこの町にもいるのか?」
「フクシャシ?あぁ…複写師か。そりゃどこの町にも沢山いるさ」
「そうなのか」
「あぁ…大抵は副業でやってるから、冒険者にも多いぞ。頼むならギルドへ依頼を出して貰えれば、すぐに受けて貰えるだろうよ」
「そうか、ギルドへ依頼を出せばいいのか…」
「ん?何か頼みたいのか?」
「あ、いや…今すぐにって訳じゃないがな」
相当暇だったのだろう、色々と話をしてくれた。
特殊な紙に書かれたものは複写が出来ないそうだ。資料室の資料だと、地図は複写不可らしい。後は大事な契約書なんかは複写不可。なんでもそういう複写を防ぐ用紙があるらしい。
地図を無限メモ帳に書き写していたのは正解だった。今後の生活でも武器になるだろうから、地図を見かけたらどんどん書き足していこう。
そもそも地図や繊細なスケッチなんかは、複写の技術が高い人でないとゆがみが出るらしい。文字や簡単なスケッチならば普通レベルの複写師で十分とのこと。
ついでに依頼料なんかの話も聞いておいた。
「そりゃまた、ずいぶん安いんだな」
「スキルがあれば紙一枚数秒で済むし、あれは魔力量もそんなに使わないらしいから」
「そうか。変な事聞くけど…どうやって複写するんだ?」
「そりゃお前…魔力を使ってちょいちょいっと。いや、俺も実際に見た事ないからわかんねぇけど…」
手書きじゃなかった!人間プリンターがこの世界には存在するって事だよな。
しかも文字と簡単なスケッチだけなら凄くお安くて複写が可能。
道理で小さな町だというこのギルドでも、あれだけの冊子や資料がある訳だ。
なるほど、なるほど。
また資料室へと籠り、猫吉先生が二本の尻尾で窓を叩くまでしっかりとお勉強した。
暫くはここに通おうと決めてギルドを後にした。
§
この宿に泊ってから6日が過ぎた。俺が異世界に来てから6日。
ここで生きていくしかないのだ。おじさんの割には順応性が高かった事に若干の安堵を覚える。
もっと異世界ファンタジーとかいうジャンルの小説やアニメを見ておけば、色々とセオリーが飲み込みやすかったかもしれないが、あいにくそういう世代ではない。
どちらかというと、異世界へ行く世代ではなく異人は日本にやって来るんだ。もしくは宇宙で戦うもんなんだよ。
そんな事はさて置き…これからどうするか。
いかん、俺が宿を予約したのはたしか一週間分だった。延泊か、それともどこか別の町へ行ってみるか…。いや、そもそも今から延泊できるのか?
別の町に行くにも準備ってもんがあるよな。
急いで延泊を頼みに宿屋の受付へと向かった。
延泊を無事頼めたので、そのまま俺達は宿を出て屋台で朝食だ。
気の良さそうな屋台の主人に聞いてみた。
「俺も屋台を出したいんだけどさ、どこで許可を受ければ良いのか教えてくれないか?」
「出店許可はギルドで出してくれるぞ。ギルド会員か?だったらこの町は金がかからねぇ」
「金のかかる町もあるのか?」
「あぁ、町によって色々な流儀があるもんさ。昔は町から町へと移動してみたりもしたもんだが、結局は金がかからないのが有難くてな、ここに落ち着いちまったって訳よ」
町によって仕組みは違うが、概ねギルドが許可を出しているらしい。
事前の出店料支払いもないし、売り上げからの徴収もなし。税金、屋台にはかからないって事かな。税金って制度は…あるよな?なんとなく1~2割は覚悟していたんだけど、これは嬉しい誤算だった。
初めて出店するには本当にもってこいの町じゃないか。さすがは俺的、始まりの村。
そしてこの町に延泊を決めた俺が訪ねたのは金物屋。『オーダー承ります』という看板が目に入ったので、思わず飛び込んだんだ。
いやなに、今からやろうとしている事には欠かせないものを作って貰おうと思ってさ。
「本当にこんな形で作るのか?いや、仕事だから構わないが。そうだな…明日また来てくれよ」
少し不安げな様子の店主に、とにかく頼むと依頼して、市へと戻る。
野菜、肉、収納箱をいくつか、それと油…色々と買い集めた。
猫吉先生を連れていると、もの凄くオマケがついてくる。
買い物には猫吉先生が必須だ。
その必須先生が突然鼻をヒクヒクさせ始めた。
「猫吉先生、どうかしたか?」
「ルノム…あっちに調味料玉がある!」
「本当か!」
俺が探しているという事を知っていて気にかけてくれていたらしい。
先生に引っ張っていかれたコンパクトな屋台では、小さな女の子が一人で店番をしていた。
たくさんの瓶が目に入る。
「いらっしゃい。調味料玉だよ、是非見ていって!」
「珍しいな。この町で売っているところを初めて見たよ」
「うん…ニンチドが低いからね。…って、お父さんが言ってた」
「そうか…どれ、ちょっと見せてくれ」
「はい!」
瓶の中身は俺が持っているのと同じ形状の玉だった。
鼻利き先生に屋台の売り子をしている女の子の目は釘付けだ。
俺の方をちらっと見た先生は、するりとリュックサックの定位置から降りて、女の子へとすり寄っていった。
女の子は大喜びで猫吉先生を抱き上げ撫でくりまわし始めた。
さてさて、お待ちかねの質問タイムですよ。




