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第3話

 エイルスフェルト皇国の東側に位置する辺境の地バーテンベルク。

 北に強大な山脈が聳え立ち東に広大な密林が広がり、西に長大な河川が流れる自然豊かで長閑(のどか)な地域で人口は凡そ7万人が暮らしている。

 この世界にはギルドと呼ばれる職業組合組織が数多く存在し存在し薬草採取や工事の手伝いなどの雑事から盗賊や魔物と呼ばれる生物を退治するような命懸けの仕事をハンターと呼ばれる者達に斡旋及び依頼を受注している。このハンターが多く在籍しているギルドをハンターギルドという。

他にも魔法や魔術関連に特化した魔導ギルドや武具や防具や日常で使う金物を取り扱う工業ギルド等、専門分野に特化したギルドも数多く存在している。

 そして、此処バーテンベルクを拠点としているハンターギルド【ヴァルハラ】の受付で甲冑に身を包んだ一人の女性が先日受けていた依頼の報酬を受け取りにやってきていた。


「こんにちわレイラ、昨日の依頼の報酬貰いに来たわよ」


「こんにちわミーシャさん。報酬ですね、ではギルドカードかスマホを提示してください」


 鎧を着ている女性の名はミーシャ・クロイツ。

 元貴族の令嬢であったが両親が死に二人の兄が相続で揉め、自身に飛び火するのが嫌なので家を飛び出したのがちょうど一年前。なんやかんやあって此処バーテンベルク領へと流れ着きハンターとして細々と暮らしている。

 そんな彼女は、流れ着いた当初は最低ランクのEランクであったがここ一年の間にBランクまで昇進しておりもう直ぐAに上がるのではと皆から期待されている。


「はい、いつもみたいにギルドカードにお願いね」


「かしこまりました。少々お待ちください。………はい、ジャイアントフロッグ討伐の報酬の5万エンの振込完了いたしました」


「ありがとう。」


「あ、そうだ!先日の謎の光の柱の件は御存じです?」


「あぁ、何か魔の森の方で空から光が降り注いだって言うアレの事?」


「そうそうそれです!何でもあの時、高エネルギー反応があった模様で魔の森は昨日から魔獣や魔物が活発化している様です。」


「へぇ~そうなんだ?」


「それで一応、明日、遅くても明後日には領主様が軍を派遣して調査を行うそうです。それに伴って、軍から調査協力が入ってまして今高ランクのハンターがそちらに流れているので何時もより依頼が残ってて今なら選びたい放題ですよ!」


営業スマイルを浮かべながら依頼用紙が多く挟まれている分厚いファイルを討伐系、採取系、護衛依頼と種別事に3冊ずつカウンターに乗せミーシャにどれが良いか尋ねるレイラ。

そんなレイラの押しの強さはいつもの事と慣れているミーシャは、軽く苦笑いを浮かべつつもファイルを手に取りどれを受けようか吟味する。


「そうねぇ~。討伐系の依頼でC級かB級でお勧めは無いかしら?」


「そうですねえ………討伐系ですと魔の森の東側に生息するフォレストウルフ、人食植物の一種であるプレデターマッシュルーム、あと、これはまだ未確定ですが大楯蟹が現れたとの情報がありますね」


「そうねえ……それじゃあ」


「ゴブリンの討伐をお願いできますかな?」


 ミーシャとレイラの会話に割って入ってきたのは、レイラの上司であるチャールズという眼鏡をかけた男性職員。

 彼は一枚の依頼書をカウンターに置いて眼鏡のズレを修正しながら含みの有る笑顔を浮かべている。


「隣町の街道に森が在るのですがそこでゴブリンが目撃されたようでして、それの調査とついでに駆除をお願いしたいのです」


「未確定の依頼ですか?それにゴブリンってE級の魔物、ミーシャさんじゃなくても」


「いえいえ、目撃されたとのことですが、何体居るか正確な数が不明ですので念には念をといった具合ですよ」


 怪訝そうに尋ねるレイラにチャールズはに笑顔を絶やさずにこやかに応じる。

 そんな二人のやり取りを眺めていたミーシャは、小さく溜息をそっと漏らしながら依頼書をレイラから受け取る。


「ゴブリンの目撃情報有り、目撃情報の有った周辺区域の調査及びゴブリンを発見し次第速やかに討伐。報酬は……基本報酬800エン、ゴブリン1匹討伐につき50エン……良いわ、この依頼受けるわ」


「流石エリートハンター!そう言っていただけると思いました!」


「ミーシャさん本当にいいんですか?」


「良いわよ。それにこの目撃情報があった場所って行商人とか多く行きかってる所だし此処が使えなくなってしまうとみんな困るじゃない」


「ミーシャさん…」


「おお、流石ミーシャさん。そうですかそうですか、そう言って頂けると助かります。それでは直ぐに手続きをしますね」


 そう言ってチャールズは書類にハンコを押し手続きの処理を行う。

 それに伴い心配そうな顔をしていたレイラも不承不承ながらもミーシャのギルドカードを受け取り依頼の受注を記録する。


「はい、依頼の登録完了しました。気を付けてくださいね」


「うん、分かってるわ。無理無茶無謀は極力しないようにがもっとうだもの」


 レイラの心配をよそに明るく振舞いながらミーシャはギルドを後にしゴブリンの討伐へと向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


 異世界での初めての夜が明け、斗真達は昨日残しておいた魚を焼いて軽い朝食を済ませた後、荷物をまとめ洞窟を後にした。

 ジャングルの様に鬱蒼と生い茂る草木を掻き分け、森の中を進む斗真達四人。

 こまめに休憩を挟みながら進んでいると昨日斗真と恭弥が出くわした四つ腕の熊が大きなヘラジカみたいな生き物を捕食しているところに遭遇したが熊は食べる事に夢中で四人には気付いていない様なのでそっと気づかれないように通り過ぎる。

 その後も一本角の大きなサイの様な生き物や大きな嘴と人の胴体よりも太い脚をもった化け物じみた鳥や、幅60センチ全長3メートルを有する巨大なムカデの様な生物等々、恐竜図鑑や絶滅動物図鑑で見た事在る様な無い様なそんな奇妙奇天烈な生物たちがひしめく森を彷徨う事3時間が経過し、四人は疲れが限界に達した頃、丁度明るく開けた場所を見つけたのでそこで休憩をとる事にしたのだった。


「ぜぇ…ぜぇ…なんなんだよこの森は!!あんな化け物みたいなやつがわんさか居るなんて聞いてねぇぞ!!」


「昨日の熊もそうだったが今日出くわした奴らも相当ヤバそうだな」


「というか改めて思ったけど、ホントに異世界なのね…」


腰を下ろし深々と息を吐きながら愚痴を零す斗真と恭弥と葵の横で紗江はしっかりと水分を取りながら道中見つけた洋ナシに似た形の水色の果実に口をつける。


「お兄ちゃん、シャリシャリ。これからどうする?」


「街を目指す、それしか無い」


「そうだな、兎にも角にもこんな人外魔境の森なんかさっさと抜けて人を探そう…って紗江ちゃんさっきから何食べてるの?」


「見つけたヤツ?」


「見つけたって…毒とか大丈夫?」


「キノコや山菜と違って木の実は毒あまり無いだろ?まだ有るからお前も食ってみろよ。美味いぞこれ」


恭弥の言葉に苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる斗真は、恭弥から手渡された果実を受け取りゴクリと喉を鳴らす。

そして意を決して果実を一口齧る。シャリシャリとした触感と口の中に広がる果肉と果汁の程よい甘みと後から来る酸味が予想を上回る程美味しく空腹と相まって何度も噛り付き、あっという間に食べ終えてしまった。


「いや~意外と美味かったな」


「まったくだな。色合いが食欲を削ぐが其処に目を瞑ればリンゴに近い触感だしな。」


そう言いながら二つ目に手を伸ばした恭弥は、そこでふと手を止める。

それと同時に斗真も何かを感じて周囲を警戒し始める。

そんな二人の様子につられる様にして直ぐに移動できるよう準備を始める葵と紗江。

二人が片づけを終え斗真達と同じように周囲を探ると風に乗って遠くから声が聞こえて来る。

四人は耳を澄ませつつ声のする方へゆっくりと進んでいくとその声は段々と大きくはっきりと聞こえる様になりそれが人のものである事が分かった。


「おっと、異世界に来てついに現地人と邂逅か?」


「声的に女性っぽいな?」


「あと、サルみたいな鳴き声も聞こえて来るわね」


「それって今まで見てきた化け物みたいな奴と戦ってるか襲われてるんじゃない?」


紗江の言葉に斗真達は一度立ち止まり相談を始めた。


「なぁ、如何する?」


「如何するって行くしか無いだろ?」


「でもこれ行ったら確実に戦闘だろ?」


「でも人が居るってことは旨くいけば町まで案内してくれるかもだよ?」


「確かに。少なからず情報を得るチャンスではある、か…」


相談の後、暫しの沈黙。そして深々と大きな溜息を吐き舌打ちを一つして斗真は、三人に告げる。


「よし!行くか!」


その言葉で三人は笑みを浮かべながら力強く頷く。

腹を括り覚悟を決めた四人は慎重に且つ足早に声の聞こえる方向へ向かいつつ風下へと回る。

茂みに身を潜めそっと様子を窺うと、其処には、百匹近い数の猿の様な生き物と鎧を身に纏い両刃の長剣を振るい気合と共に猿の様な生き物を切り伏せていく女性の姿があった。


「おぉ、女騎士だ。リアル女騎士だ」


「騎士がこんな森ん中に一人でいるか?」


「逸れたとか?」


「それより、あの戦ってるのって猿?で良いの?」


「猿じゃ無くね?毛が無いし、耳尖ってるし、体が黄緑色だし」


「つか、野生動物が棍棒とか短剣なんか振り回すか?」


四人は茂みに身を潜めひそひそと小声で言葉を交わしつつ観察をしていく。

その間にも鎧を着た女性は長剣で次々に襲い来る人型生物を斬り伏せていく。

斬りつけた瞬間に飛び散る鮮血と人型生物の断末魔の叫び声が木霊し四人は咄嗟に耳を塞ぐ。


「お兄ちゃん………」


両手を耳で押さえながら目に涙を浮かべる紗江は恭弥の裾をつかみ恐怖で悲鳴を上げそうになるのを必死に我慢している。

映画やテレビの様な作り物では無く、現実で起きている戦闘、命の奪い合いを生まれて初めて目の当りにした紗江はまだ小学生。

刺激が強いどころかトラウマに成り兼ねない程の光景なのだ。


「わかった、紗江は此処で隠れてろ。葵、すまないが紗江を頼む」


「良いけど、アレに突っ込むの?」


「出来れば御免がな。そうも言ってられんだろ?」


「俺達が介入しなくても大丈夫だろうけど、あの数に一人は不味いだろ?余計なお節介だろうけど見捨てて死なれるよりはマシだしな」


心配そうに問う葵に対し淡々と答える恭弥と飄々とおどける様に明るく振舞う斗真。

二人は平静を装っているが前日の四つ腕の熊との戦闘を思い出しておりどくどくと心臓が早鐘を打ち緊張状態に入っていたりする。

そんな二人を葵は心配そうに見つめながらも自分が紗江を守ると覚悟を決めるのであった。


「わかった、二人とも無理はしないでね」


「お兄ちゃん気を付けてね」


「死なない程度に頑張るさ!」


「ああ、行ってくる!!」


心配そうに声をかける葵と紗江の二人に明るく返事をする斗真と恭弥。

二人はそれぞれ武器を構えタイミングを計り同時に茂みから飛び出す。



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