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第1話

「あぁ…いってぇ」


「痛ったぁ…」


「痛っ……皆大丈夫か?」


固い石畳に石壁で囲われた空間で目が覚めて腰や頭を押さえながら周りを見渡す四人の少年少女達。

彼らはつい先程迄、日本のとある山奥の田舎町に住んでおり一緒に下校している途中で神社で他愛の無い話をしていると突然周りが暗くなり始め、ふと空を見ると皆既日食が起こり始めていた。

四人は、ノートの下敷きを使って日食を眺めていると突如足元にゲームに出てくる様な魔方陣と思われる図形が現れたかと思うと眩い閃光を放ち始める。

閃光は四人の少年少女を飲み込むと天高く伸び上がり光りの柱となっていく。日食が終わる頃には光の柱は跡形も無く消え、四人の少年少女の姿も何処にも見当たらなくなっていた。

目を覆う程の光りに包まれた四人は体が宙に浮く浮遊感を感じたのも束の間、今度は何かに引き寄せられるように落下していく感覚と地面に激突したような衝撃が体に伝わってくる。

体中から伝わる痛みと倦怠感に苛まれつつ、四人はお互いに手を貸しながら立ち上がり、周りを見渡す。


「此処は………どっかの洞窟か?」


「いや、この地面や壁の滑らかさは人工物だな。向こうに階段も在るみたいだ」


頭を押さえながら呟く少年草薙斗真(くさなぎとうま)の問い掛けに地面や近くの壁を触りながら答えるのは彼のクラスメイトの天宮恭弥(あまみやきょうや)

彼は普段から持ち歩いている手の平サイズの懐中電灯をカバンから取り出すとその光で自身が居る壁とは反対方向にある階段部分を照らす。


「ねぇ、コレって夢?それとも現実?私達さっきまで神社に居たよね?」


目元にうっすらと涙を浮かべて問い掛けるのは、斗真と恭弥の同じ学年の幼馴染の少女、水谷葵(みずたにあおい)

眼に涙を浮かべる彼女の頬を斗真は無言のまま摘まんで引っ張った。


痛い(ひはい)だけど……」


「ふむ、と言う事は夢では無さそうだな」


頬を引っ張られた葵の反応を見て静観していた恭弥は冷静に今現在の状況を分析する。

そしてもう一人のこの中で一際小柄な少女、天宮紗江(あまみやさえ)は、冷静に分析している恭弥に駆け寄り彼の腰回りにタックルをする勢いでしがみ付く。


「お兄ちゃん!!ここ何処!紗江達何でこんなところに居るの!?」


まだ九歳である紗江は眼から大粒の涙を流しながら兄の恭弥に問い掛けるも、恭弥自身状況が分からないので答えようも無く困った様に苦笑いを浮かべながら妹の頭を優しく撫でる。

そんな二人とは対照的に頬を抓ってきたお返しに葵は斗真にコブラツイストをお見舞いしていた。


「えぇっと……取り…敢えず状況をぉぉぉ整理してみっかぁぁぁぁぁぁ!ギブギブギブ!あぁああああああ!。」


突然の出来事に恐怖を抱き混乱する一同であったがそんな恐怖を吹き飛ばすかの如く、洞窟のように暗い空間に斗真の悲鳴が響き渡るのであった。


―――数分後―――


「よし、皆落ち着いたところで状況を整理しよう」


「お前、アレだけ関節決められたのにさも何事も無かったかのように話し進めんな」


「えぇ、細かい事は気にすんなよぉ恭弥」


ミシミシメキメキと不吉な音を響かせながら関節技を食らっていた斗真であったが開放されるや否やしれっと何事も無かったかのように振る舞うその様にツッコミを入れる恭弥。

今現在自分達に起きている状況も相まって恭弥は軽い頭痛がするのを感じ頭を抱え盛大に溜息を吐く。


「コホン。それじゃ先ず、俺達は学校帰りに神社でだべっている途中に皆既日食を見てたら突然足元が光り出したんだよな?」


「そうだな、未だに信じられねぇけどな」


「アレって、やっぱり魔方陣……だよね?」


「そうだよなぁ、葵の言う通り、あん時のアレは漫画とかに出てくる魔方陣の類だな」


「てことはだ…」


『此処が異世界である可能性が高い』


四人の声が重なるように暗い部屋の中に木霊する。

四人が導きだした答えは自分達の故郷で流行って居るファンタジー小説に出てくる設定と酷似していたのだ。


「つかこの場合、如何いうパターンになる?」


「幾つかあるが一番王道的な物で言えば何処かの国がお抱えの魔導士やら魔道具やらを使って呼び出したって可能性、まぁその場合、魔王を倒してとか敵国との戦争に駆り出される場合が多いな」


「俺は命の危機に瀕していない限り戦なんかしたくねぇぞ?」


「それは此処に居る全員同じ気持ちだろ?」


「というか部活や道場で武芸を嗜んでいるとはいえ、私達に人とか殺せるはずないでしょ」


「それもそうだな」


「あともう一つの王道的な奴だとこの世界の神様によってこの地に召喚されたってパターンなんだが、この中で神と名乗る存在やそれに近い存在と相対したって奴居るか?」


斗真の問い掛けに対して他の三人は首を横に振る。

かく言う斗真自身もそんな事実は無いので同じように首を振る。

一通り状況の確認が済んだところで四人は自分達の持ち物を確認し合っていく。

とは言うものの、四人の持ち物は学校帰りの時に所持していたバックと教材が殆んどで紗江以外がスマホを持っている他は特に変わったものは無く四人は落胆してしまう。


「この所持品でいったい如何しろと?」


「因みに電波は、圏外だな…………ん?」


「如何した恭弥?」


「知らないアプリが入ってたんだが…これは一体?」


恭弥の言葉に驚いた斗真達は一斉に恭弥のスマホを覗き込む。

そこには、スマホ画面の端っこに剣と杖が交差しているデザインのファンタジー系のゲームアプリが映し出されていた。

それを見た斗真と葵の二人は自分のスマホに目を向け同じアプリがあることを確認する。

もちろん二人共、恭弥と同様そんなアプリは居れた覚えは無く怪訝そうに顔を見合わせる。


「…ぽちっと」


数秒の沈黙の後、斗真は意を決してそのアプリを起動する。


「……………何だこれは?」


【個体名:草薙斗真 

界:動物界 門:脊索動物門 綱:哺乳綱

目:霊長目 科:ヒト科 属:人属 種:人種 性別:男 年齢:14 魔力:999 霊力999 保有武装:妖刀/斑鳩 】


画面に映し出された情報に眉を寄せ額に皺を刻む斗真。

そこに表示されていたモノはゲームの様に斗真のステータスが表示されていたのだ。

SFやファンタジー系物のライトノベルなどを読んだりゲームをした事もあるので別段驚きはしていなかった斗真だったが自身のステータスを見て少々気になる点…否、ツッコミどころしか無い内容が表示されていた。


「何だこれ?スキルも攻撃力も防御力も職業も表示されてねぇ。つか魔力は分かるけどこの霊力ってなんだ?俺って霊感有ったのか?」


首を捻り乍ら疑問に思った事を口にする斗真。

その言葉につられて恭弥と葵も自分のスマホにインストールされていたアプリを起動し自身のステータス画面を開く。

二人の画面にも斗真と同じような内容の事が表示されていた。


【個体名:水谷葵

界:動物界 門:脊索動物門 綱:哺乳綱

目:霊長目 科:ヒト科 属:人属 種:人種 性別:女 年齢:14 魔力:478 霊力450 保有武装:妖刀/村雨 】



【個体名:天宮恭弥

界:動物界 門:脊索動物門 綱:哺乳綱

目:霊長目 科:ヒト科 属:人属 種:人種 性別:男 年齢:14 魔力:874 霊力820 保有武装:霊槍/鳴神 】



「魔力とか霊力は文字通りの意味だろう。それよりこの保有武装というのは、何だ?しかも俺のだけ妖刀じゃなくて霊槍になってるし………」


「まさかとは思うが、タップしたらその保有武装とやらが出て来たりしてな」


「そんな都合よく事が運ぶと――」


「むらさめ?村雨?」


恭弥は首を捻り疑問符を浮かべていると斗真が冗談交じりに案を出す。しかし、そう上手く行くかと恭弥が口にした正にその時二人の間で葵がぼそりと呟いたかと思いきやスマホ画面が光り、画面から光の球体が飛び出した。

光りの球体は葵の目の前でふよふよと浮かび、次の瞬間、一振りの刀へと変貌を遂げる。


「…………」


「…………」


「…………」


「「「なんか知らんが刀が出て来た!!」」」


刀が出現した後、三人は顔を見合わせ少し間を開けた後、同時に驚きの声を上げる。


「わぁ♪すごいすごい!ねぇコレって魔法?」


驚きを露にする三人とは裏腹に紗江は先程まで怯えていたのが嘘の様にキャッキャと燥ぐ。


「コレってもしかして」


所謂(いわゆる)、チート武器って奴か?」


葵が恐る恐る自分の手にある刀を見ながら発した言葉に斗真が若干嬉しそうに言いながら自身のスマホに表示されているステータス画面の項目をもう一度読み直す。


「葵、一応確認するけどこの保有武装の項目の部分を読んだんだよな?」


「う、うん。村雨って表示されてたからちょっと驚いて声に出ちゃった」


「オイオイ、村雨ってゲームとか漫画で妖刀としてよく出てくる刀じゃねぇか?」


「まさか。同じ名称ってだけの刀だろ?もしコレが俺達の知ってる奴なら、確か変な呪いとかあるんじゃなかったか?」


「呪いがある奴は村正って奴じゃなかったっけ?」


「それ製作者の名前じゃなかったっけ?」


「「ん?あれ?」」


斗真と恭弥が頭に疑問符を浮かべている間に刀の所有者である葵はスマホを適当に操作していると手にしている刀の詳細が表示されたのでそれを流し読みする。

そんな葵と一緒にスマホを眺める紗江であったが此処である事に気が付いてしまう。

それは、紗江はスマホを所持していないという事だ。


「ねぇ、葵お姉ちゃん。紗江はスマホ持ってないから魔法とか使えないの?」


「えっと……如何だろ?私も未だ使えるか分からないし」


「でもさっきこの刀出したよね?」


「アレって魔法と言って良いのか疑問なんだけど…」


仲睦まじい様子で葵と紗江が話している横でスマホ画面を見ていた斗真と恭弥の手元に葵の時と同じように武器が出現した。

斗真の武器は葵と同じ日本刀の様な形状をしており違う点を挙げると葵の刀は、鞘と柄が紺色なのに対し斗真の刀は鞘も柄も真っ黒なデザインと言う位だ。

そんな二人とは打って変わって恭弥の武器は、槍で鉾と柄の境目に真っ白な動物の体毛の様な毛が付いた代物であった。


「おぉ、出て来た。へぇ~……………この斑鳩(いかるが)って刀、中々良さそうだな」


「すげぇっ。……俺のは、鳴神(なるかみ)っていう槍だな。」


自身が手にした武器を眺めながら呟くように零れた言葉を発する二人は、数秒固まった後、徐に立ち上がりストレッチをし始める。

そんな二人を怪訝そうな表情を浮かべた葵が二人に問い掛ける。


「ちょっと二人共!行き成り何やってるの?」


「……神社で駄弁ってたら突然足元に生じた魔方陣らしきモノから生じた光り」


「眩しくて目を閉じ、再び目を開くと景色は一変して遺跡の様な洞窟内に居た」


「更に、スマホには訳の分からんアプリがインストールされていて魔力と霊力という単語が並び、何も無い所から武器まで出現する始末」


「以上の状況を鑑みて此処が地球では無い可能性とラノベとかに出てくるような異世界である可能性が極めて高くなっている」


入念にストレッチをしながら葵の問い掛けに交互に応えていく斗真と恭弥。

二人が述べた事は、葵も薄々気が付いていたがそんな荒唐無稽なおとぎ話みたいな事が有ってたまるかと半ば目を逸らしてはいたものの状況を鑑みるに斗真と恭弥の言っていた事が現実味を帯びてきている。まだ此処が何処であるかもここを出たらどのような環境なのかも分からないので此処がもしかしたら地球上のどこか異国であるという淡い希望を抱きながら葵はそっと溜息を漏らす。

そんな葵の心情を知ってか知らずか斗真と恭弥は、ストレッチを終えると手に持つ得物を振るって使い心地を確かめる。


「此処が異世界だとして、遺跡の様な洞窟からの出口が一つあってその先に進んだら多分きっと魔物とかが居て高確率で戦闘が起こる可能性が高い訳だ」


「そんな状況でやる事と言えば一つしか有るまい」


そう言いながら斗真と恭弥は数メートル離れて向かい合いそれぞれの武器を構える。


「自分自身の力量がどれ程のものか」


「確認せねば始まるまい!」


「「いざ!尋常に!勝負!!」」


二人同時に叫びながら間合いを詰め刃を切り結ぶ。

斗真が上段に振り上げた刀を、唐竹に振り下ろしてくるのに対し恭弥は、槍を左中段からの胸部への刺突を繰り出す。

突き出された槍を斗真が左下へ切り落とし攻撃を弾くがすぐさま刺突が連続して繰り出される。

繰り出される刺突を斗真は、切り上げ、左へ払い、最後に自身の右側へいなすと同時に刀身を槍に被せる様にして抑え込みそのまま刃を滑らせ横一文字に切りつける。

しかし、恭弥もそれを見切り、大きく体を仰け反らせ攻撃を回避する。

その後も数十回の攻防を行いお互いに間合いを切って離れた所でお互いに大きくゆっくりと息を吐き矛を収める。


「……なんか、変わって無くね?」


「……確かに、獲物が木製で無いとはいえ、特に超人的なパワーが出てるかって言うとそう言うのを全く感じないというのが正直な感想だな」


二人は、己の体を確認しながら感想を端的に述べる。


「向こうの壁から反対側まで目測で25メートルあるか?」


「それ位在りそうだな」


「んじゃちょっと二往復してみっからタイム計って」


「オッケー。」


斗真は刀を鞘に納めて壁際へと進み壁に背中を向け恭弥の掛け声と共に全力で反対側の壁へ走り出す。

壁に手をついて往復を二回繰り返したタイムをスマホに備えられているストップウォッチ機能で計測したがタイムは中学高校生の平均よりやや早いくらいで何かが変わっている様子は見受けられ無かった。

その後も、反復横跳びや跳躍力、壁を殴っての打撃力も普通よりも強いと実感できるかどうかと言う僅かな差しか無く、とてもチートと呼べるものでは無かった。


「ぜぇ、ぜぇ、一通り計ってみたけどあんま変わってねぇな」


「という事は、身体能力的には年相応かそれより少し優れているくらいでチートキャラみたいな超人とか化け物では無く、一般的な常人の括りか?」


「そう言うことに成るな」


腰を下ろして呼吸を整えながら斗真は、自身の身体能力に変化があまり見受けられ無いと口にする。

恭弥と葵と紗江も四人で向かい合う様に腰を下ろす。


「さて、困った事に成ってきたな」


「何か問題があるの?」


「良い質問だねぇ紗江ちゃん。さっきも言ったが俺達は、多分だけど異世界転移している可能性が在るって事なんだが大体の流れって分かる?」


「うん、お兄ちゃんに借りて漫画とか読んでたから何となくだけど、チートハーレムとか知識無双とかああ言うのでしょ?」


「そうそう、だいたいそう言うのが多いよねぇ。それでだ、如何やら俺達は元の世界の時と身体能力があんまり変わってない様なんだ」


「うんうん」


「この世界にどう言った生物が生息しているのかは不明なんだけど、俺達は刀とか槍とか取り敢えず武器を手にしているわけなんだが、“今まで碌に戦闘訓練なんて受けても無い少年少女が飛び道具無しで熊とか寅とかそう言う類の生き物を倒せるかな?”」


「・・・・無理だね」


「無理ね」


「無理だな」


満面の笑みで問いかける斗真に対し一拍おいて紗江は首を横に振りながら答える。

紗江の言葉に同調するように葵と恭弥も首を横に振る。

よく熊なら素手で倒せるという輩が居るが現実はそう甘くは無い。分厚い筋肉と毛皮で覆われた肉体に鋭利で鋭い牙と爪を持ちその巨体に似合わず人間よりも早く動ける熊に武器無しでは倒す事等ゼロに近い。例え刀剣の様な近接武器があったとしても大抵の人間は足が竦み、恐怖で硬直し武器を構える前や武器を振るう前に殺されるのが関の山だ。

ましてやそれが、平穏な日常を送っていた一学生に、対処などできる事等、略不可能に近いのだ。


「まぁでも、此処から出て外の状況を確認しなくちゃ此処がホンとに異世界かも分からんし、何も始まらねぇからな」


「そうだな、何時迄も此処に居る訳にもいかん。水や食料の確保しなければだしな」


「それに此処が異世界だったとして元の世界に帰る方法も探さなきゃ出し」


斗真の言葉に恭弥と葵が続き、三人の言葉に同意する様に紗江はうんうんと首を縦に振る。


「それじゃ決まりだな。此処を出たら何処へ向かうかは出てから考えりゃいいしな」


「そうだな出た時の外の状況で選択肢が変わってくるからな」


四人は所持品を再度確認して恭弥は懐中電灯を、葵と斗真はスマホのライトを使い階段の奥に続く暗闇を照らして慎重に進むのであった。



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