第1話
ほのぼのタグをつけましたが、物語の展開的に最初はシリアスになります。
また、少々残酷、またいじめ、性的な表現(間接的)もあります。
もしもそういったものが苦手な方はご注意ください。
目に刺さる車のライト。全身を砕く激しい痛み。
それとは対照的な、腕の中の柔らかいぬくもり。
車に轢かれながら安堵する。このぬくもりの命を救えた事実に。
私の命でこの子を助けられるなら、今までのくだらない人生にも少しは意味があったように思える。
・・・あぁ、でも。もしも、もしできることならば。
今度は、人間じゃなくて、ネコに、なり・・・たい、な・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゆっくりと、走馬灯が流れる。
思い返しても、あまりいい人生とは言えない。
両親の仲は、小さい頃からあまり良くなかった。
いや、正確に言えば幼少期から夫婦関係は破綻していた。ただ、私が独り立ちするまでは“家族”でいるという暗黙の了承があったから、あの家にいただけの関係だった。
地元の学校に通っていた頃は、ただ本が好きというインドア趣味なだけで根暗だといじめられた。今から思えば一番平和だった頃だが、それでも度々持ち物はなくなるか落書きされていた。
大学は都会に進学したので静かに過ごせるかと思ったがそんなことはなく、電車に乗れば痴漢、夜道を歩けば不審者。冬になれば人気の少ない道で露出狂に遭い、郵便ポストには変質者からの手紙が入っていたこともある。
引っ越してすぐの頃は警察に通報して対応してもらったが、何度目かの時には呆れられ「君自身どこかに隙があったりしたんじゃないか?」なんて言われてしまった。
就職したら、アットホームな会社との触れ込みは男尊女卑の間違いで、始業前の清掃やらお茶出しは当たり前。就業時間内であっても男性社員に頼まれ、私用の買い出しに何度も行かせられる。
定時間際に急ぎの仕事を押し付けられ残業するのは数え切れないほど。そのくせ、仕事が遅いだとか要領悪いだとか、愛想がないだとかと小言を言われる。
挙げ句の果てに、「そんなんじゃ嫁にもらって貰えないぞ!」とのありがたーーーいアドバイス、いやクソバイス。録音しとけばよかったと後悔するくらいのモラハラ発言だ。
そんな私を同僚女性たちは助け同情・・・してくれるどころか、孤立させられていた。入社試験の面接で社長に甚く気に入られていたらしく、月に一度社長室に呼ばれては「リフレッシュ」と称してマッサージをさせられ、帰り際には謎の「お小遣い」を握らされた。
そこが女性陣には気に食わなかったらしい。特に私が入社するまで社長のお気に入りだった女性社員からはキツく当たられ、他の女性たちは彼女に逆らえず私は避けられていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな状況で私を支えてくれたのは、本と猫だ。
辛い現実から離れて、夢に溢れた空想の世界へ連れて行ってくれる本。特にファンタジー小説は大人になってからも読み続けていた。定期的に図書館や本屋を巡っては本を漁り、休日以外にも仕事の昼休みなどのちょっとした隙間時間ですらも、食事をしながらページをめくった。
本を読んでいる間は集中しているせいか、周りの音すら聞こえなくなるのがむしろ好都合で、本を開く前に携帯のアラームをセットしてバイブをオンにした状態でポケットに入れておかないと、職場ですら仕事をほっぽりだして没頭してしまいそうになる。
そして猫、私の理想の生き物。柔らかくて温かくて、こちらから寄っていくと離れてしまい、かと思えばいつの間にか隣にいる。一撫ですれば心が解れ、抱っこすれば母性本能をくすぐられて自然と優しい気持ちになれる。
一人暮らしだったため飼いこそしなかったが、近隣の猫カフェには足繁く通った。また、社長からの「お小遣い」のほとんどを保護猫活動団体に寄付した。渡された理由が理由なだけに自分のために使うのは気持ち悪かったし、どんなお金であろうとそれで猫が救われるのならそのほうがよかった。
だからあの時、ほとんど反射的に体が動いていた。
処女作になります。拙いながら頑張って書き進めていきますので、どうかよろしくお願いします。