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いざ行かん、王都へ

前回のあらすじ

 ルミナスと結託してハリベルに勇者を押し付けることにしたカインとエルザ。


 地下ダンジョンの存在が明らかになって以降、パイポカ村には沢山の馬車が訪れるようになっていた。

 逆もまた然り、五年前に比べて王都を目指す行商人のキャラバンが一週間に一回のペースから三日に一回のペースにまで増えていた。


「なあ、やっぱり【勇者】を詐称するのは良くないと思うんだけど……」


 合流してから数分、二回目になるぼやきをハリベルがぶつぶつと呟く。


「田舎暮らしの私に王侯貴族と会話が成り立つと思うの?」

「それは、そうだけどさあ……」


 エルザの一言でハリベルは閉口したが、納得していない様子だ。

 ごねるハリベルを俺とエルザとルミナスの三人がかりで宥めすかして説得して、決定的な情報が見つかるまではハリベルを暫定的なリーダーにするという話で落ち着いた。


「っと、そろそろ馬車が来る時間だな」


 女に戻った俺はエルザの尻尾を撫でさすりながら時間を確認する。

 エルザの犬耳はふわふわな赤毛なのに、尻尾はさらさらな黒色。実に不思議だ。


 女に戻った時に分かったのだが、どうやらダンジョンコアによる性転換は、肉体の分解・再構築ではない類の肉体変化だ。

 昔に一度だけ見た竜人(ドラコニド)の変身が一番近い。

 簡単に言えば、スペアの肉体に魂を入れ替えているのだ。


 そのスペアの肉体がどこから来ているのか、それはまだ分からない。

 それも【魔神の法則】を解析できれば、明らかになるかもしれない。

 そのことをネイマーに話すと『これだから天才は無自覚に世紀の大発見をするんだ……』とぶつぶつ呟いていた。


「お、馬車が来たぜ」


 荷物片手に王都行きの馬車を待っていると、昨日予約した商人が手を振りながら馬を操っていた。

 馬車を止めて、俺の顔をじっと見る。


「妹さん、かな。はい、ご予約いただいた馬車です。料金は前払いで、行き先は王都。乗り心地は保証しませんけど、それでよければお乗りくださいな」


 商人は首を傾げながらも定型文で案内をこなした。


────『どわー! もうこんな時間じゃねぇか!!』


 それぞれ料金を払い終えた時、鍛冶場の方から叫び声が聞こえた。

 父さんの声だ。何かあったのだろうか。

 気になって鍛冶場の方を見ると、父さんが煤まみれの顔のまま身長より大きなものを抱えながらこちらに向かって走っていた。


「おーい! おーい! 待てー!! はあ、はあ……時間を忘れて鍛治に打ち込む悪い癖のせいで、こんな時間になっちまった……」


 そう言って父さんはエルザに持っていたものを押し付けた。

 取り除かれた布の下には、エルザが持つものよりも頑丈そうな作りをした十文字の刃先をした長い槍だ。


「ほら、これ。お前の力でも耐えられる槍だ」

「これを、私に?」

「カインになにかあったら承知しないからな」

「はい、必ず守ります。ありがとうございます」


 思わず父さんの顔を凝視すると、父さんは「まだ認めたわけじゃないからなっ!」と叫んで鍛冶場に引きこもってしまった。


 呆気に取られていると、エルザは受け取った槍を大事そうに抱きしめる。

 ワイバーンの素材を加工して作られたそれは、すぐに出来る類いの武器ではないことがすぐに分かった。

 と、同時に、父さんが連日かかりきりで作っていたものだということにも気づく。


「そろそろ出発しますよ〜」

「は、はい! 行こうぜ、エルザ」

「うんっ!」


 商人の声にはっと我に帰った。

 馬車に乗り込んで、揺られながら王都へ向かう。

 ちらちりと俺らを見ていたハリベルが、おずおずと話しかけてきた。


「えっと、エルザねえさん……兄さん?」

「エルザ、でいいよ」

「エルザ、さん。その槍はどうしたんだ……ですか」

「無理に敬語を使う必要もないよ。カインのお父さんが作ってくれたんだ」


 そう言って、エルザは俺をぎゅっと抱きしめた。

 槍を貰ったことが相当嬉しかったようで、エルザは尻尾をご機嫌に揺らしていた。


「そりゃよかったな、エルザ」

「うん、バーリアンも盾を直してもらったんだっけ?」

「ああ、それどころかメンテナンスまでしてもらった。おかげで使いやすくなった。すごい職人がこんな村にいたなんて思わなかったぜ」


 やっぱり父さんはすごい職人なんだなあ。

 【鍛治】スキルを持っている人というだけでも限られているのに、それを父さんぐらいまで使いこなせる人はそれこそ片手で数えられるぐらいになるだろう。


「カインさん、どうかしましたか?」

「ん? いや、考えてみるとスキルや称号って不思議なものだなぁって」


 人が生まれ持って獲得する【スキル】。

 過程を省略して一定の効果を強制的に生じさせる、魔術や奇跡とはまた違った現象を引き起こす。

 教会はそれを神が与えたものと説明していたが……。


「そうね、私も不思議に思っていたわ」


 ルチアもこくりと頷く。


「効率の悪いスキルはあるけれど、無駄なスキルはどこを探してもない。その人の気質にあった、最適なスキルの組み合わせが与えられる……たしかに不思議ね」


 魔術が扱える人には魔術に特化したスキルが、武術に秀でた人は武器関連のスキルが。

 そう考えると、俺のスキル【導き手】はそのなかでも変なスキルだ。

 そこまで考えて、俺はふと思う。


 魔物にもスキルのようなものはあるのだろうか?

 魔術や奇跡を使う個体と戦ったことはあるが、スキルらしきものを使うやつはいなかった。

 今度、魔物に詳しいネイマーに聞いてみよう。

これにて章完結。

次の章は長らく教会で縛り上げられている教皇くんをどうにかします。風邪ひいてないといいんですけど……


章区切りとなりましたので、もしよろしければポイント評価とか感想とかレビューとか、ね?えへへへ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、カイン君女の子に戻った。良かった。 そして槍を受け取ったときのエルザの大層嬉しそうな顔がこっちまで見えてきましたっ。 [一言] ハリベル君……がんばれ。
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