お買い物デート
前回のあらすじ
見ようによってはハーレム、しかし中身は女子会!!
「なあ、エルザ。たしかにこれすっごくあったかいけど、プレゼントして貰うっていうのはさすがに俺の良心が咎めるんだが……」
「いいの、いいの。私がしたくてしてるんだから」
冬服が欲しいと強請った俺を、エルザは「折角だから」とパイポカ村に出来た洋服屋さんに連れて行った。
そこでエルザが俺にあてがう服はどれも『キマイラの毛皮』や『フェニックスの羽毛』などの高級素材をふんだんに使ったものばかり。
チラリと見えた値札は……特別な日でもない限りは買うことだって検討しないような金額だ。
「やっぱり俺も払うよ」
一方的にお金を使わせるつもりでデートに誘ったわけじゃない。
俺はエルザといちゃつければ、それで良かったんだ。
財布を取り出そうとした矢先、俺の手をエルザが掴む。
「ここは私が払うから、ね?」
やんわりと、しかしキッパリと何がなんでも払う意思を見せたエルザに対して、俺は頷くことしかできなかった。
思い返すのは数日前。
ネイマーとの再会をきっかけにしてエルザの金銭感覚はぶっ壊れてしまったのだ。
ネイマーとは俺の旧友であり、ある意味では腐れ縁な研究仲間とも言える存在である。
学会では『変わり者』として有名だが、魔物に関する研究に関してならば並ぶ者はいない。
そんなネイマーが、魔物の要素を持つエルザを放っておくはずがなく。
『ネイマーさんと久々に会って、研究を手伝って欲しいってお願いされたんだ』
ここまでは良かったんだ。
エルザも自分の身体について知りたいと言っていたし、ネイマーも少し変わっているが公平を重んじる奴だ。
エルザの身体を引き裂いて中身を取り出すようなことはしないと誓ってくれたし、気になるなら同席しても構わないとも申し出てくれた。
採血と身体測定、普段の食生活や戦闘での立ち回り方など、エルザはそれは親身に、そして分かりやすくネイマーに解説したのだ。
親身になって研究に貢献してくれたお礼として、ネイマーはそれこそ生活に困らないほどの金をエルザの口座に振り込んだのだ。
それからちょくちょく二人は仲良くなり、時折ランチを共にしているらしい。
恋人としてエルザに友人ができたことは嬉しいのだが、嬉しいのだが……少しだけ他人と仲良く喋っている姿を見ていると寂しさを覚えてしまうというもの。
久々のデートに誘われた俺はこれ幸いとばかりにエルザの腕に抱きついて甘えていたのだが。
「うん、やっぱりいい素材を使っているから保温性能が違うね」
「お客様、大変お目が高い! そちらの商品は南の国『ファーレンハイト』でしか生息していない魔物、フェニックスという燃える鳥の羽をふんだんに使用しているコートでして……」
「サイズは他にありますか?」
「ただいまお持ちいたします!」
店のバックヤードから在庫を漁りに行った店員を他所に、エルザは脇に抱えていた服のサイズを確認し始める。
「エルザ、本当にこんな高いものじゃなくてもいいんだってば……」
「カイン、身体を冷やすのは良くないよ。せめて洋服だけでもいいものを使わないと」
「うひゃぁ」
「カインは腰が細いから、ベルトで調節できるタイプがいいね。カインは可愛いからどんな色でも似合うけど、やっぱり白色が一番似合うね」
店員や他の客にバレないようにぼそぼそと俺の耳元で呟くエルザ。
なんだか最近は敢えて俺の後ろから囁いてきているような気がするのは考えすぎだろうか。
それと、触り方がやらしい。
ウエストをゆるゆると服の上から撫でるのはいいとして、こう明確にノーと言えないラインを見極めたような動きをしている……ような、気がする。
「エルザ、擽ったい」
「あ、ごめん」
俺の考えすぎかも、と思ったがどうもエルザも頰を赤くしていたので気のせいではないらしい。
も、もしかして俺のことをそういう目で見ているってことだろうか?
エルザも身体は男なワケだし……そういう欲求があってもおかしくないはず。
そういえば、俺は男だった頃の名残でそのままの口調で通しているが矯正したほうがいいのかな?
肝心な時に萎えたら困るし……まずは一人称を「私」にしてみようかな。
「お買い上げありがとうございました」
店員の声にハッと我に返る。
いつの間にか会計を済ませたエルザが紙袋を片手に俺の肩を抱いていた。
しまった、考え事をしている間にエルザに支払わせてしまった。
払わせてしまった手前、店先でエルザの面子を潰すわけにもいかない。
この埋め合わせは後日プレゼントで返そうと心に決めた。
帰り道、頑なに荷物を持つといって譲らないエルザの横をとことこ歩きながら、俺はエルザに話しかける。
「エルザ、夜ご飯はミートスパゲティで良かったか? えっと、良かったかな?」
「カインのご飯はとっても美味しいから楽しみ」
ふりふりとエルザの尻尾が揺れる。
狼に似た尻尾を持つエルザは、感情に伴って動く尻尾のことを気にしていたけれど、俺は視覚的にもエルザの気持ちがわかるので見ていて嬉しくなるのだ。
エルザの空いた片手を繋ごうと手を伸ばした矢先。
揺れていたエルザの尻尾が止まり、すっと周囲の温度が冷える。
「エルザ、久しぶりだな……少し、話がしたい」
俺たちの前に黒髪の青年、【勇者】ハリベルが道を遮るように立ちはだかった。




