パイポカ村のこれから
前回のあらすじ
いちゃこら
今回の予告
いちゃこら
病み上がりでエルザニウムを摂取した俺は、詳しい話を聞きたいというリカルド支部長に呼ばれて冒険者ギルド(仮設テント)にいた。
病み上がりだとエルザがことさら丁寧に扱ってくれるので、まんざらでもない。お姫様になった気分だ。王子様はエルザだな。
「こんにちは、リカルド支部長! 今、お時間いいですか?」
職員に案内されて、一番大きなテントに向かって呼びかける。
すぐに元気そうなリカルドの声が帰ってきた。
「お、カインにエルザじゃないか。ちょうどいい!」
天幕を勢いよく開けて、リカルドがニカッと笑う。
目の下の隈はすっかり取れて、数年若返ったように見える。
「粗方の話はハリベルやバーリアン、エルザたちから聞いたんだが念のために確認を取らせてもらうぞ」
情報は力、それは冒険者以外でも魔物と戦う者なら誰もが頷く常識だ。
元冒険者であるリカルドはそのことをよく知っているから、決してこういう話で事実確認を怠りはしない。
ワイバーンの巣窟で見たもの、倒した数を報告する。
そのなかでも、やはりミノタウロスのイムウトルについて聞かれた。
「それで、その魔物──ミノタウロスを次元の彼方へ飛ばした、と……」
俺の話を最後まで聞いていたリカルドは、そう言って話を纏めた。
王都から持ってきたふかふかの椅子に座り、背もたれに身体を預けると突然笑い始めた。
「昔っからハリベルと一緒にいるやつがまともだったはずがねえ! 大方『魔力で時空間に歪みを生じさせた』なんて言ってるが、その使った魔力量がとんでもねえのは考えなくても分かるんだよなあ!!」
「【魔術師】のルチアと【聖女】ルミナスのおかげですけどね」
俺がやったことなんて術式を整備して、足りなかった分の魔力を注ぎ足しただけだ。
恐るべきは二人の魔力親和性、元が双子だからなのか反発せずに一つの術式に捧ぐことができるのだ。
数人がかりの魔術は効率が悪い、という概念を破壊していくのが勇者一行なのだろう。
一般人の俺にはついていけない話だ。
「四属性への適性があるだけでも十分バケモノのはずなんだけどなあ……」
苦笑いしながら、リカルドは「まあいいや」と話を区切った。
「それより、件の冒険者だが過去に『危険行為』を繰り返していたことが分かった。冒険者ギルドの方でもこの事態を重く見て再発防止に努める」
俺に手渡してきた資料には、『ワイバーンの巣窟』で俺たちにワイバーンを差し向けてきた冒険者の顔写真と詳細なプロフィールが書いてあった。
出身は隣国の『ナーズ帝国』、不法入国者だったらしい。
「金欲しさの犯行というが、俺はどうもきな臭いと思っている」
「それはまた、どうしてですか?」
「これを見てくれ」
リカルドが鞄から羊皮紙を取り出して、俺に見せてきた。
『欺瞞を暴け』と書かれただけの不気味なモノだ。
「それに使われているインクは王都で製造された高級品だ、貧しい冒険者が普段遣いするようなものじゃない。問い詰めたが口を割らなかった、知らないか知ってても言えないかのどっちかだな」
「何者かが命令した可能性もあるってことですか」
王都襲撃といい、今回のダンジョンといい、どうも厄介事の渦中にいる気がしてならない。
しかし、何が目的なのか分からないという得体の知れない不気味な感じが気持ち悪いな。
こわいこわい、エルザに守ってもらおう。
「つっても、これ以上は調べようがないんだけどな。ああ、そうだった、王都から魔物の研究家を呼んで調査してもらうことになっている」
「宝玉の件ですか?」
「それもあるが、イムウトルっつー名前を聞いた学者が『是非とも調査を』ってことでここに来る手筈になってるんだ。良かったら協力してやってくれ」
一瞬、知り合いの顔が脳裏をちらついた。
魔術師ギルドにいた頃はよく魔物のうんちくを語って聞かせられたものだぜ。
「術具の弁償と今回の報酬だ。受け取ってくれ……それと、イムウトルとかいうやつの言葉は他言無用で頼む」
「分かりました」
所詮は魔物の言葉、こちらを動揺させるために勇者の真偽を疑うような問いかけをしてきたのかもしれない。
ハリベルが勇者なのは間違いないが、世の中にはハリベルを妬むやつもいる。
そんな奴らに攻撃材料はなるべくなら与えたくはない。
追放されたとはいえ、五年は共に旅をした仲間だし……。
「物わかりがよくて助かるわ、さすがは【賢者】様だな」
「いや、俺は一般人なので」
「……まあ、そういうことにした方がよさそうだな」
なにやらリカルドは呆れてため息をついた。
ため息ばっかり吐いてると幸せが逃げるぞ。
「本格的にこのパイポカ村は開発されるだろうなあ。このなんもない田舎村な風景、嫌いじゃなかったんだが……」
そう言ってリカルドは遠くを見るような眼差しで、テントの外に続く村を一望する。
冒険者ギルドの他にも雑貨店や宿屋を建てる音が響く。
「無駄話しちまったな。話は終わりだ。最近、特に冷えてきたから身体には気を付けろよ」
「はーい」
おっさん臭いリカルドに見送られながら、俺はエルザと手を繋いで家に帰った。
「エルザ」
「…………」
「エルザ?」
「え、あっ、ごめん」
俺の呼びかけに気づいたエルザが、犬耳をピコンと動かす。
色々と考えた結果、エルザは俺が寝ている間に村長に『自分は魔物だ』と説明したらしい。
周囲の人たちは好奇心に駆られてエルザの耳を見ている。
昔から知っている老人やおばさんは好意的だが、村の外から来た冒険者や獣人はエルザに対して懐疑的だ。
だから、エルザは少し寂しそうだった。
なんだかんだでエルザは優しくて寂しがり屋さんだから、しょうがないことでも悲しくなっちゃうのだ。
ここは俺が一肌脱ぐしかあるまい。
「エルザ、だっこ」
「えぇ……?」
「ぎゅってして♡」
「いや、でもここ外……」
両手をあげてぴょんぴょん跳ぶと、エルザは顔を赤くして周囲を見渡す。
往来の真ん中ということもあって勿論、たくさんの人が俺たちを見ていた。
「もしくはちゅーでもいいぜ」
「……も、もー!! お外ではそういうことはしません!」
そうは言いつつも、エルザの視線と耳が周囲を探っていた。
人がいなかったらするつもりだったな?
「ほら、だっこしてあげるから掴まって」
「やったー!」
エルザの逞しい首に抱きつけば、ひょいっと抱え上げられた。
俗に言う、お姫様抱っこである。
首筋に顔を埋めてすんすん匂いを嗅いでいたら顔を真っ赤にしたエルザに怒られた。
エルザだって俺の匂いよく嗅いでるくせに、ずるいぜ。
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