甘えたい
これまでのあらすじ
ハリベルたちとダンジョンへ潜ったカインとエルザ。間一髪で危機を免れたが、任務達成したとは言い難く、撤退を余儀なくされたのだった
「もお〜、心配したんだからねっ!!」
「泣かないで、エルザ」
俺に抱きついてわんわん泣いているエルザの頭を撫でながら俺は不謹慎ながらにニマニマとしてしまう。
だって俺のために泣くエルザは可愛いんだもの、しょうがない。
ダンジョンで倒れたあと、エルザが俺を背負って外まで運んでくれたらしい。
それから俺が目を覚ましたのは、数日後のことだった。
俺たちにワイバーンを擦りつけた冒険者はギルドカードを剥奪、冒険者ギルドでリカルド自ら取り調べを行っているらしい。
ルチアやルミナスも俺の一日前に目を覚ましたようで、まだ体調が整っていないそうだ。
無理もない、俺たちが使った『ディメンジョンホール』は魔力を変な方向で使う術式だ。
運動に例えるなら、いきなり全力疾走しながらストレッチするようなもの。
魔力回路への負担が大きい。
「気分は大丈夫?」
「エルザー、お腹空いたー!」
「ご飯用意するね」
キッチンに向かうエルザ。
周りを見渡すと、父さんが村の住民から貰ったであろう果物の寄せ集めやら野菜が机に置かれていた。
きゅうりに歯形がついているのは多分、お腹が空いて齧ったと思われる。
「あ、お義父さん。カインが目を覚ましましたよ!」
「そうか。あと結婚は認めてないからな」
「昼食は机の上に置いてありますよ」
「お、ステーキじゃないか! うまい!!」
父さん……胃袋、掴まれてる……。
お盆を手にエルザが部屋に戻ってきた。
もしかして、お盆はエルザの家から持って来たのかな?
「とりあえず、お腹に優しいスープから食べてみようか」
「はーい」
ぱかっと口を開ける。
エルザはきょとんとした顔で俺の顔を見つめ返してきた。
エメラルド色の瞳をパチパチと瞬かせた後、俺の意図に気付いてスープを掬ってふーふーと冷ます。かわいい。
「えっと、あーん?」
「んっ、美味しい」
さすがエルザ、鶏ガラのスープがとても美味しい。
俺の心だけでなく、胃袋まで掴みにきたか。
お腹が空いていることも手伝って、スープをぺろりと完食してしまった。
唇についたスープを舐めながら、俺はお盆を片付けたエルザに擦り寄る。
「エルザは料理の天才だな」
「ほ、褒めすぎだよぉ」
「そんなことないぜ、お礼にチューしちゃう」
「お礼は貰う」
腰を屈めたエルザの首に抱きついてキスの雨を降らせていると、父さんが不機嫌そうにげほげほ咳をしていた。
「父さん、風邪ひいたんだね。今、お茶を」
「違うわ! よくもまあ、時間さえあればいちゃいちゃいちゃいちゃ、他にやることはないのか!?」
「他にって、父さん……そんな孫を急かすようなことをしなくても……俺たち、まだ結婚式を挙げてないんだぞ」
「違うわっ!!」
ちょっとからかっただけで父さんは顔を真っ赤にしていた。
エルザも顔から火が吹き出そうなほどあわあわしている。愛やつめ。
「ったく、同じ空気を吸っていたらこっちまで馬鹿になりそうだ」
そう言い残して父さんは鍛冶場に向かってしまった。
父さんがいなくなったので、俺は遠慮なくエルザを抱きしめて厚い胸板に頭をすりすりした。
エルザは俺のことをそっと抱きしめて大きな掌で俺の頭を撫でてくれた。
「カインは甘えんぼさんだね」
「エルザが甘やかし上手だからだろ」
俺がにこにこしながらエルザの頭に手を伸ばすと、エルザは目を閉じて頭を下げる。
ぺたりと耳を垂れて俺の撫で撫でを待つ姿は可愛らしい。
「えへへ、目が覚めて良かった」
「心配かけてごめんなあ」
エルザのお耳を撫でながらまったりしていると、エルザが俺の肩に顔を埋めてきた。こしょばゆい。
「そういえばね、リカルド支部長が話を聞きたいって呼んでたよ」
「んー、もうちょっとまったりしたらいくわ」
エルザのお腹に抱きついて服の中に手を入れたら怒られた。
まったく、俺の恋人は初心で可愛い。
こいつら、呼吸するようにいちゃつきますねぇ……




