それぞれの役割
前回のあらすじ
無事にダンジョン内部に侵入したエルザ、カインとハリベルたち。宝玉を壊そうとしていると何者かがトレイン行為を働いて……
「数匹同時はキツいッ!」
ワイバーンが吐き出したブレスは俺の結界に阻まれ、土壁に沿って周囲へ拡散する。
数匹同時に、それも別の位置や角度から繰り出されるから、俺の魔力がごりごり減っていく。
「助かった、カイン! 魔力は残りどれぐらいだ!?」
「だあっ、半分削られたッ!」
俺は愚痴を叫びながら、ウエストポーチからマジックポーションを二本取り出してぐびぐび飲む。
「ぷぁっ、これで四分の三か……女になると早飲みが難しいな」
口の端から飲みきれなかったマジックポーションが伝うが、拭う暇もない。
ワイバーンに妨害魔術を掛けようとするルチアを横目で確認しながら、俺は素早く呪文を唱えながら魔力で空に真言を描く。
「魔力よ、集え集え我らの糧となれ! 【マナ・ウィンド】」
長期戦になることを見越して、魔力の自然回復を促す風属性の魔術を広範囲に張る。
ダンジョンでしか使えない中級の魔術だが、こういう時は便利だ。
ニヤリとバーリアンが笑う。
「【マナ・ウィンド】があるならスキルを使いまくれる! 俺のスキルを食らえ【強撃】ッ!」
風を斬りながら、斧の刃がワイバーンの下顎を捉える。
振り上げた斧は、ブレスを吐こうとしたワイバーンの顎を強制的に閉じさせた。
ワイバーンの口内で行き場をなくした炎が、体内へと逆流してその身を自ら焦がす。
「でかした、バーリアン! 【回転斬り】ッ!」
ハリベルがくるくると回りながら剣で斬りつける。
ブレスを吐いて疲労していた三匹のワイバーンは、避けることも出来ずに斬撃を浴びる。
きらきらと舞う赤い鱗を払い除けながら、ハリベルは油断することなくワイバーンから離れる。
「四体ほど倒してもまだ来やがるか……ルチア、【アイシクルマント】はどうだ?」
「絶対零度の地獄となれ! 【アイシクルマント】ッ……だめよ、気温が高すぎて使っても効果ナシッ!」
ルチアが魔術で氷を生み出して周囲の温度を下げるが、依然として汗が噴き出すほど熱い。
その証拠にワイバーンたちはまだ俺たちを睨みつけていた。
「神よ、我らに生きる力を与えたまえ【ライフバースト】」
ルミナスの回復の奇跡がエルザ、ハリベル、バーリアンに降り注ぐ。
奇跡の気配に気づいた一匹のワイバーンがルミナスに向かって攻撃体勢に入る。
「【薙ぎ払い】いくよッ、うおりゃああぁぁああっ!!」
ワイバーンが動くよりも早く、エルザの槍がワイバーンの頭部を内側から貫いた。
その槍をワイバーンごと持ち上げて、俺たちを見ていた他のワイバーンへ投げつける。
「あいつ、ワイバーンを投げやがった!!」
「やっぱ魔物なんだな、あいつ……」
驚愕した前衛二人の声が聞こえた。
さすがエルザ、ワイバーンを放り投げてもまだまだ余裕がありそうだ。
口をあんぐりと開いていたハリベルは、頭を振って真剣な顔でワイバーンを睨む。
「撤退は諦める、とにかく今は殲滅するぞ!」
不測の事態が起きた時は可能な限りは体勢を立て直す為に撤退するのだが、今回は状況が悪かった。
宝玉は未だ壊れておらず、三匹のワイバーンが退路を断つように俺たちを睨みつけている。
「作戦は『バッチリ行こうぜ』だ!」
「「「「了解!」」」」
ハリベルが剣を構えて、作戦名を叫ぶ。
懐かしいな、この雑な感じの指示。
「バッチリってなにを……? りょ、りょうかい!」
エルザはハリベル独特の作戦名に首を捻りつつも、ワンテンポ遅れて返事してくれた。
慣れてない感じがしてかわいいね。
俺もハリベルと初めて魔物と戦った時は理解できなかったぜ。
気を引き締めて、俺は杖を片手に支援魔術の詠唱を始めたのだった。
魔術師は素質だけでなく、敵の前でポーションをぐびぐび飲む担力と吐き出さない精神力と早口で唱えつつ走り回る能力が求められます。




