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ワイバーンの生態

前回のあらすじ

 父さんが自爆した


 リカルド支部長から依頼を受けて三日後、俺たちは万全の用意を整えてダンジョンに通じる井戸の前にいた。

 ダンジョンには二つの出入り口があり、直接五層目にアクセスできる井戸と冒険者ギルドが新たに発見した地下への入り口がある。

 今回は無用な戦闘を避ける為、五層目に突入して目的を達成してから四層目を経由しつつ撤退するプランだ。


 撤退に井戸を使用しない理由は単純で、下からブレスを吐かれたら漏れなく全滅する可能性が高いからだ。


 突入する前に、俺は毒を予防するポーションを今回の仲間であるハリベル、ルチア、ルミナスやバーリアンたちに渡していく。


「これを飲めば毒になりにくいんだっけか」


 半信半疑といった様子でポーションを眺めるハリベル。

 魔物の毒は自然界にないもので、魔術でも解毒することは難しい。

 動物や植物によるものなら魔術でどうにかできるが、魔物は自然の摂理から外れている呪いの一種……とされている。


 ハリベルと同じく、眉をひそめたルチアがポーションの蓋を外して中身を呷る。

 一息で飲み干した後、手の甲で口元を拭った。


「血清よりも現実的な手法でアプローチしたわね、ムカつくわ」


 ルチアを皮切りにそれぞれポーションを呷っていく。

 俺からポーションを受け取ったエルザもごくごく飲んだ。


「前から思っていたけど、カインのポーションはなんだか飲みやすいね」

「口に入れるものだからな。なるべく尖った味にならないように調合したんだ」


 そういえば、昔は旅の最中でよく体調を崩していたルチアに風邪薬を作ってやったっけ。

 しきりにマズいマズい言うから、あれこれ工夫して飲ませたなあ……懐かしい。


 感傷に耽りながら俺もポーションを飲む。

 ふんわりとキノコや木の香りが口の中に広がって、さらりと喉の奥に落ちていく。

 あっさりとした味と喉越しに拘った一品だ、ポーションだけど。


「よし、みんな準備はいいな。突入するぞ」


 全員の用意が整ったことを確認して、ハリベルの合図でまずハリベルが井戸を降りていく。

 魔物に探知されづらくなる【アイシクルマント】というルチアの火属性魔術で忍びながら安全を確認するのだ。

 次にルチアが降りて、後続が魔物に探知されないように周囲に【アイシクルマント】を掛ける。

 後はバーリアン、エルザ、俺、ルミナスの順だ。


 突入の際、回復が出来る人員は安全が確保されるまで最後まで待機するのが鉄則。

 こうすることで、前線に何かあった場合全滅を避けることが出来るし情報を持ち帰れるのだ。


 冒険者ギルドの職員が念のためと井戸を改良してくれたおかげで、井戸を降りるのはそれほど苦ではない。

 エルザの合図を確認してから井戸を降りて、数年ぶりにダンジョンに降り立つ。

 外からでも薄々感じていたが、五層目とあってなかなか濃い魔力が周囲に満ちていた。


 全員がダンジョン五層目に無事辿り着けたことを確認すると、ハリベルが声を潜めて指示を出す。


「今のところまだ気づかれていない。ここから最短で宝玉の元へ向かうぞ」


 ハリベルの言う通り、ワイバーンたちは思い思いにとぐろを巻いて目を瞑っていたり、にょろにょろと這って移動していたり、かと思えば羽の手入れをしていたりとリラックスしているような行動を取っていた。

 その光景を横目で確認しながら、俺は素直に心の底からルチアの魔術の凄さに驚愕する。


 火属性の魔術は突き詰めれば、氷すらも生み出すことになる。

 魔術ギルドで長らく囁かれていた学説であったが、その難易度の高さから伝説じみた扱いを受けていた。

 それをルチアは攻撃以外の方法で実現してみせたのだ。

 当のルチアは【アイシクルマント】と同じく涼しげな顔で青い液体に満ちた小瓶──マジックポーションを飲む。


 しゅるしゅるとワイバーンたちが二股の舌を鳴らしているなか、感心したようにルミナスが呟く。


「……しかし、ワイバーンたちが温度を目印に狩りをしていたとは驚きですね」


 皆がコクリと頷きながら、慎重に部屋の奥へ進む。


 三日前に行われた作戦会議のなかで、ふと俺は気になったので口に出した疑問から始まった。

 『そういえば、どうして王都近くに現れたワイバーンは俺たちに気づいたんだろうな?』

 息を殺して藪の中に潜んでいたにも関わらず、何故かワイバーンは俺たち目掛けてブレスを吐いた。

 調べてみる価値があるとハリベルが賛同したことで、メンバー総出でワイバーンの調査報告書を漁っては議論して、導いた結論が温度だったのだ。


「ここだ、エルザとバーリアン。警戒を頼む」


 目的の箇所に到着し、ハリベルが持ってきたハンマーを片手に宝玉に向かう。

 指示を受けた二人はコクリと頷いて武器を片手に周囲を鋭く睨む。

 俺はいつでも結界を貼れるように用意し、ルチアもマジックポーションを片手に攻撃魔術を構築している。


「くそっ!?」


 がきん、がきんとハンマーに固いものが当たる音が響く。

 チラリと横目で確認すると、ハリベルが何度も宝玉にハンマーを振り下ろしている姿が確認できたが宝玉には傷一つない。


「なんだこれ、オリハルコン製かよ!?」

「オリハルコンは神話の鉱石ですよ。しかし、壊れませんね」


 ルミナスが呆れながらも宝玉をしげしげと観察しているとエルザが叫ぶ。


「何かくる!」


 と、同時にダンジョン内部が激しく揺れた。


 骨の髄にナイフの刃を滑らせたような、恐ろしい殺気に満ちた【威圧】が地下から発せられた。

 ただならぬ気配に全員が耳を澄ませ、息を殺して周囲を窺う。


 地下に通じる通路から黒い影が飛び出した。

 数匹のワイバーンが頭をあげて影を凝視する。


 その影は地上の通路に駆け込む直前、


「ごめんなさいっ!」


 そんな謝罪の言葉を吐いて真言を描く。

 火属性の魔術で最も初歩的な攻撃魔術に分類される【ファイアーボール】、それは最速かつ最短の距離で真っ直ぐに飛ぶ。


「やりやがったなッ!」


 咄嗟に俺が結界を張って仲間を守るが……、当然のことだが火属性なのだから熱がある。

 それも、人よりも高い温度を。

 影を狙っていたワイバーンは吸い込まれるように俺たちの方を見て、そして攻撃態勢を取った。


「くそっ、あの影は近いうちに絶対殺す!!」


 ハリベルの物騒な罵詈雑言に応えるように、三匹のワイバーンが大きく息を吸い込んでブレスを吐き出した────!!

盛大になすりつけられた勇者ハリベル一行とカインちゃんとエルザさんが可哀想、頑張ってと思う方は是非ポイント評価お願いします!

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