ダンジョンを攻略する為に②
前回のあらすじ
【緊急クエスト】『ワイバーン巣窟』を依頼されました!
同行者 ハリベル ルチア ルミナス バーリアン
「臨時支部長の権限を行使する!」
目の下の隈もそのままに、声高く宣言するリカルド。
「臨時支部長の権限?」
呆気に取られるエルザと俺とギルドの職員たち。
口には出さないが、リカルド以外のみんなが心配そうに彼を見つめていた。
「説明してやろう! こういう僻地のダンジョンにおいて、現地住民や専門家の意見を仰ぐ為に特別措置を行うことが臨時支部長には認められているのだ」
そっとリカルドの前に暖かいお茶が職員によって置かれる。
そのお茶をズズズッと啜ってから、リカルドが口を開いた。
「まあ、分かりやすく言えば特定のダンジョンに限ってどの冒険者が入るか俺に任されているってわけだ」
「なるほど……」
ランクの問題は片付いたとして、相手は前に討伐したことがあるワイバーンだ。
村に関わっているとはいえ、俺の一存だけで決めるわけにはいかない。
そう思っているとエルザがコソッと囁いてきた。
それを聞いて、俺はリカルドの依頼を引き受ける決意を固めた。
「分かりました、リカルド支部長。その依頼を引き受けたいと思います」
「そう言ってくれるとありがたい。必要なものがあれば出来る限りこちらで用意しよう、ハリベルたちにも事前に話は通してある」
リカルドが話を締めると同時にテントの天幕が開いてハリベル達がやってきた。
どうやら外まで話が聞こえていたようで、すぐに打ち合わせをすることになった。
◇◆◇◆
ハリベルたちと話し合った結果、なるべく戦闘を避ける方向で進んだ。
ワイバーンとの戦闘は基本的に遠距離で体力を削り、被弾しないように気をつけながら仕留め、最速で宝玉を破壊したら囲まれないように撤退するという作戦で落ち着いた。
ダンジョンへの突入は装備の都合もあって三日後に決定。
冒険者ギルドの外に出た頃には、すっかり夕暮れになっていた。
途中で市場によってポーション用の素材や夜ご飯の素材を買い足す。
紙袋に入れて運んでいると、ひょいと荷物をエルザに奪われた。
そして、「ん」と空いた片手を俺に差し出してきた。
「荷物、持ってたら手を繋げないでしょ」
「それもそうだな」
白い息を吐きながら、顔を赤くしたエルザがチラリと俺の顔を見る。
差し出された手にそっと自分の手を重ねるとぽかぽかとあったかいエルザの手に包まれる。
「それにしてもエルザ、良かったのか?」
「ん? あぁ、リカルド支部長の依頼のこと?」
エルザはすっと目を細める。
「なんか、予感みたいなものなんだけど……なんとなくハリベルたちと一緒にいた方がいい気がするの。それに冒険者たちのことも気になるしね」
「そうか。たしかに最近、良い話を聞かないもんな」
リカルドから聞いた話は、俺たちがハリベルや冒険者から又聞きした時よりも状況が悪化していることを示唆していた。
事実、村長も村人の避難を止められない状況にあるらしい。
「明日の昼、良かったらポーション作り手伝うよ」
「え、でも家の仕事があるんじゃないか?」
「大丈夫、父さんと母さんが暫くは村のために頑張りなさいって」
「そか、じゃあお言葉に甘えようかな」
男だった頃は特に辛くも感じなかった『すり潰す』という作業が、女の子になってからは大変に感じる。
それにエルザと一緒にいられる口実が出来て嬉しい。
「それじゃあ、また明日」
「ん、また明日ね」
荷物を家に置いたエルザは外に出る直前、俺の額にちゅっとキスした。
ひらりと手を振って家路につくエルザ。
額に残った感触に頰を熱くしていると、父さんが呆れた様子で呟いた。
「まったく、よくも五分程度の距離であそこまでいちゃつけるものだな」
「そお? 父さんも結婚した頃は……」
「ぎょわー!! その話はやめろー!!」
耳を塞いで嫌々と首を振る父さんを無視して俺は夕飯の準備に取り掛かるのだった。
隙あらばいちゃつかせることで恋愛ジャンルであることを宣言する




