エルザは強欲
前回のあらすじ
他人だとハリベルは案外いいやつ(雑用頼むと二つ返事で引き受けてくれるから)
湯気が立つシチューをボウルによそって机の上に置く。
エルザのお母さんから教えてもらったレシピ通りに作ったが、どんなにお願いしても隠し味だけは教えてくれなかった。
それでも、美味しそうにシチューを頬張るエルザを見ていたらどうでもよくなってきた。
俺の視線に気づいたエルザが口元を指で拭う。
「おいひ……ん、何かついてる?」
「バンダナ外して欲しいなあって思ってた」
「バンダナ? いいよ」
シチューを食べていたエルザが手を止めてバンダナを解く。
すると黒色の毛に覆われた三角の犬耳が姿を現す。かわいい。
見れば見るほどエルザは不思議な姿をしている。
エルザの他にも、魔物たちは想像もできない姿や生態をしている。
肺もないのに陸に上がろうとしたり、逆に海に行くために足を毟ったりと不可思議で謎に満ちているのだ。
「エルザはさ、俺たち人間と同じもん食べてるけどそれだけで足りるの?」
「んー。大体は人間と同じ食料で事足りるけど、魔力が足りなくなるから時々、魔物を狩るぐらいかな」
「だから槍の扱いが上手いんだな」
エルザが偶に魔物の干し肉を食べていたことを思い出す。
含有する魔力量が多すぎて一度にたくさん食べると体調不良を起こすことがあるけれど、エルザはそういう症状を発症したことがなかった。
今度から魔物のお肉は貯蔵しておこう。
食べ終えた皿を片付けて、まだエルザと一緒にいたい俺はお茶を出す。
席に座ろうとしていると、エルザが俺の服をちょいちょいと引っ張った。
エルザが引っ張るままに近寄ると、膝をポンポンと叩く。
膝の上に座れってことだろうか。
お言葉に甘えてちょこっと膝に乗ると、エルザがぐいっと抱き寄せてきた。
「なあ、エルザ。重くない?」
「ぜんぜん。お花みたいに軽いよ」
「そ、そお?」
後ろからエルザに抱きしめられると、ふわりと赤い髪から森林の香りが漂う。
背中に感じるエルザの体温はあったかい。
俺の肩に顔を埋めてエルザがすりすりと頬擦りをする。
その仕草が可愛かったので、俺もエルザのほっぺに自分のものを重ねた。
「エルザはあったかいな」
「カインは冷えてるね」
エルザの大きい掌に俺の手がすっぽり包まれる。
俺の細い手と包んだエルザは、熱を与えようとするかのようにむにむにと揉んだり擦ったりしている。
その手に俺の指を絡めると、エルザの手は驚いたように止まってそれからゆっくりと俺の手を握り返してきた。
「あ〜幸せ〜!」
両親に挨拶したあとは、好きなだけいちゃつけると思っていたのにダンジョンやら父さんとのあれこれがあってそんな時間を設けられなかったのだ。
イチャイチャしたい。そして、あわよくばキスしたい。
そんな下心を胸に秘め、くるりと振り返るとそこにはなんと顔を真っ赤にしたエルザの姿があった。
繋いだ手を見て、目を細めて耳をぴこぴこと動かしている。
視線が合うと恥ずかしそうに顔を背けた。
「なあ、エルザ」
名前を呼ぶと、エルザの耳がぴこっと動いて視線が絡む。
睫毛越しに緑色の瞳はふるふると震えていた。
俺を抱きしめていた手に力が入る。
なんだか緊張した様子のエルザに釣られて、俺まで緊張してきた。
どきどきしながらも、俺はからからに乾いた口を動かす。
「キ、キスしてもいいか?」
緊張しすぎて、声は掠れて今にも消えそうだった。
それでもエルザにはしっかり聞こえたようで、小さく頷いた。
そしてエルザはぎゅっと目を瞑った。
見るからに全身ガチガチで緊張している姿に、俺は苦笑しつつもエルザに顔を近づける。
「……んむっ」
唇同士が触れるだけで、心臓は張り裂けそうになるし顔は火が出そうに熱くなる。
頭はくらくらするし、もっとくっついていたいような少し離れて休憩したいような、そんな不思議な気持ちになる。
行き場のない気持ちを、エルザの首筋に額を擦り付けることで発散しているとやんわりと肩を掴まれた。
「カイン、もう一回したい……だめ?」
伏し目がちに問いかけられた要求に、俺は首が取れそうになるような勢いで激しく頷くのだった────。
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