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ダンジョンコアの秘密

前回のあらすじ

 エルザに甘えまくった


 冒険者ギルドで仕事でも探そうとしていた俺たちは、ガイストス博士の遣いから連絡を受けた。

 なんでも、ダンジョンコアの解析が済んだらしい。

 話したいことがあるから研究所へ来てくれということだった。


「もしや、君がカインかい? すっかり、なんというか……なんと言えばいいんだ!?」

「カインの知り合い?」

「ああ、そうだ。女の子になったがカインだぜ。久しぶりだな」


 俺たちを出迎えたのは、なんと知り合いの魔物を研究している変人ネイマーだ。

 今日も自作の眼鏡が傾いている。


「コイツは俺の知り合いのネイマーだ。魔物を研究している変態だから、気軽に話しかけてやってくれ」

「酷い言い草だな! ちょっと魔物が好きなだけじゃないか!」

十分(じゅうぶん)変態だよ」


 応接室に案内されながら軽口を叩く。

 去年の研究発表会で会って以降、連絡も取り合っていなかった。


「それにしてもネイマーはガイストス博士の下で働いているなんて聞いてなかったぞ」

「たまたま誘われてね。なんでも君たちが持ち帰ったダンジョンコアの研究に人手が必要らしくて、それで僕に声がかかったってわけ」


 ネイマーは「そんなことより」と自分で話し出しておいてから、強引に話を変える。

 傾いた眼鏡の奥でキラキラと目を輝かせながら俺たちに座るように促す。


「聞いたよ、君たちが(ちまた)で噂の劣竜(ワイバーン)殺し(スレイヤー)なんだろう? いいよね、ワイバーン。生まれてきたことが間違いだったことを身体で証明しているからね。愛しくて堪らないよ」

「う、生まれてきたことが間違い……?」


 しょっぱなからぶっ放したネイマーにエルザが躊躇いながらも聞き返した。

 これは話が長くなる、俺は密かに天井を仰いだ。


「そう、ワイバーンって翼の他に足がないだろう? あいつら、着地する時は頭からズザザザーッと落ちるんだよ。おまけに炎を吐くのだって命がけ、なにせ口腔内に耐熱性に優れた鱗は生えてないからね!」

「え、えぇ……?」

「魔物ほど生き物として失敗作な存在はないよ。進化の方向音痴なのだ……どうだい、君も魔物研究に命を費やしてみないか!?」


 初対面の人間に勧誘を始めたネイマーからエルザを守るように立ちはだかる。

 エルザは自分のことになると黙って過ぎ去るのを待とうとする傾向があるので俺が守らなくちゃいけないのだ。


「おいおい、ネイマー。今日はお前の話を聞きにきたんじゃないぞ。ガイストス博士はどこだ?」

「間もなく来るはず……お、きたきた」


 ガチャリと扉を開けてガイストス博士が応接室に入ってきた。

 俺たちを見てニコニコと微笑む老人は、ゆっくりと歩いて向かいのソファーに座る。


「待たせてすまないねえ。解析はなんとか完了して、術式を再現した魔法薬(ポーション)のレシピも完成した」

「おお、本当ですか!」


 ガイストス博士の話を纏めると、俺たちが元に戻れるように取り計らってくれたのだ。

 おかげさまでダンジョンコアの修復を待たなくてよくなった。

 晴れやかな顔になる俺たちに比べ、ガイストスは少し暗い顔をする。


「ただ、そのポーションに必要なものが少々特殊でね」

「多少の金ならあるんですけど、それでも難しいですか?」

「お金の問題じゃなくてね、流通の問題なんだ。月下美人の花、レッドドラゴンの逆鱗、そしてウラン鉱石が必要になるんだ」

「それはたしかにお金でどうこうできる問題ではないですね」


 五年に一度だけ夜の間に咲くという花、目撃情報自体が少ない魔物の素材、さらには幻と言われている蛍光色に輝く石。

 国中の金を積んだところで手に入る確証もないものばかりだ。


「これがそのレシピと必要な器具だ。どうするかは君たちが話し合って決めるといい。ただ、困ったことがあったらできる範囲で力になろう」

「ありがとうございます」


 必要な器具は王都で手に入るもの。

 素材さえクリアできれば作れるだろう。

 とはいえ、素材の入手困難さから見ても一人分が限界だ。

 もう一人は……死ぬ間際に用意できたら奇跡に近い、といったところか。

 ちらりと隣に座るエルザの様子を伺ったが、静かに話を聞いている姿から何を考えているのかは俺には分からなかった。


「こちらとしても興味深いことが分かったからね。いや、まさか魔物が絶滅しない理由に君たちが持ってきたダンジョンコアが関わっていたとはね」

「世紀の大発見でしたね、博士!」

「まさか魔物研究家の知識が必要になるとは思わなかったよ」


 きゃっきゃっとはしゃぐガイストスとネイマー。

 俺たちが見つけたダンジョンコアが魔物が絶滅しない理由に関係しているってどういうことだ?

 首を傾げているとネイマーが俺の疑問に気づいた。


「魔物の骨には複雑な魔術回路が仕組まれていてね、周囲の環境に合わせて身体の構造が変化するんだ。簡単に言えば世代を経ずに進化していく、その術式がダンジョンコアのものと似ていたんだ」

「世代を経ずに進化?」

「かなりのエネルギーを使う一時的な進化だ。いわゆる形態変化だね。角が生えたり爪が伸びたり、代償は凄まじいが急な戦闘スタイルの変化で相手を屠るぞ。他にも変身したり、性別そのものが変わったりとバリエーション豊かだ」


 噂だけは聞いたことがある。

 追い詰められた強力な魔物が空を飛んだり水呼吸もできないのに長時間潜水が可能になることがあったりすると。

 冒険者達はそれを“窮鼠猫を噛む”や“火事場の馬鹿力”と呼んでいた。

 まさか、身体そのものに構造を変化させる仕組みがあったとは驚きだ。

 これから魔物と戦うときは気をつけよう。


「でも、俺たちがこの前戦ったワイバーンは形態変化なんてしなかったぞ?」

「それには様々な学説があってね、種族ごとに必要となるエネルギーが違うだとか、頓珍漢なものだとやり方を知らないというものまであるぞ」


 それから取るに足らない世間話を繰り広げ、そこそこ時間を過ごした俺たちはガイストス研究所を後にした。

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[一言] 蛍光色に輝くウラン鉱石……おかしいな、うっ頭が
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